第三十七話「エクストリーム主人公対決!」⑦
ちなみに、イザリオ司教には、面談の時に紋次郎くん本人から、同じことが告げられている。
献上品とやらを僕も見せてもらったのだけど、コテコテに腐った感じのBL本で、月イチどころか、週イチペースで書き上げられ、すでに100冊単位で献上済みらしいと聞いて、頭がクラクラした。
内容は……イケメンとイケメンが全裸でナニしてたり、筋肉と筋肉がマッスル・ドッキングしてたりする感じ。
逆ハーレムモノで、多人数同時プレイ状態で、女の子一人で大変なことになってたり……なんてのもあった。
こんなモンよく描けるなぁって、感心したのだけど、紋次郎くんはプロのエロ絵師なのだ。
クライアントのリクエストや無茶振りに、150%の結果で返すのが、プロ中のプロ。
女神様の腐った欲望にも完全に応えきる……すごいよ! モンジローさん!
さすがハードSMから、陵辱モノ、ハートフルロリから熱血モノまで、なんでもござれの悶々崎先生だっ!
……なんにせよ、世界を創り、統べるはずの女神様が、BL本読んで、ハァハァする腐女神様状態とか嫌すぎるよ。
そう思ったのは、イザリオ司教も一緒で、紋次郎くんとの面談の時に聞いた女神様の真実は、もう墓まで持っていくと遠い目をして語っていたのが印象的だった。
とにかく、そんな感じで訳の解んない使命を受けて、何となくその使命をこなすべく、何となーく暮らしてるゆるーい使徒もこの世界には、大勢いるって話を日本側からも聞いてる。
確か帝国にも、超広大な畑作って、ひたすら食糧増産に勤める「勤農者」って使徒がいるって話だし、超巨大な漁船もらって、外海を巡って、大量の海の幸を各地にもたらしてる「海狩人」なんてのもいるらしい。
帝国の片田舎にも、この村貧しすぎるから発展させてあげてねーなんて、使命受けて送り込まれたサラリーマンがいたらしいんだけど、今や、その村は大地方都市と化して、そのサラリーマンも帝国の大領主の一人となっている。
帝国には、この手の生産系使徒みたいなのが多数いるらしく、そのせいであの国の食糧生産力に関しては、チートじみたところがあった。
大帝もこの人達を怒らせたら、詰むって解ってるらしく、色々優遇されてると言う話なんだけど、こう言うチートな奴らの存在で帝国が必要以上に強大化したのは、疑いようがなかった。
ホント、女神様のやってることって、その場その場の思いつきの連続……みたいな感じで、全然一貫性がなくって、何したいんだか解らんって感じなのだ。
かと言って、時空を超えて日本にまでちょっかいを出す大帝の蛮行を野放しにしたりしてるし……。
何やら一生懸命プッシュしてたくせに、ある日突然、興味失せたみたいに、後押し止めて、その事に困惑しながらも、与えられた使命を果たそうとしてる人達だっている。
鹿島さん曰く「あの女神様、何したいのか、本気で解んなーい」……だそうな。
イザリオさんも、似たようなこと言ってたし、僕にも全然、わかんなーい。
現状、紋次郎くんに関しては、趣味とエロスにその情熱を注ぐ、面白おかしい愛すべき馬鹿でしか無い。
本人もエキセントリックな言動が目立つだけで、本質的には無害なヤツ。
テンチョーもお昼寝大好き、フワフワベッドで、食っちゃ寝最高だねーとか、そんな調子。
……こんなガチ過ぎるヤツとじゃ、住んでる世界が違う。
女神様も、なんでこんなの頭おかしいのを使徒としたんだか……何やらせたかったんだか知らないけど、せめて、最後までフォローくらいしてやれよ!
なんか、この様子だとこのサトルくんや、レインちゃんについても、途中で飽きたか、面倒くさくなったかで、見捨てたとかそんな感じっぽいぞ?
そもそも、日本人にしては、こいつの思考はおかしすぎる。
何があってここまで殺伐としちゃったんだか。
これ……絶対、紋次郎くんには会わせたくないな。
いや、紋次郎くんを神として敬愛する僕としては、なんとしてもこの馬鹿の歯止めにならないといけない!
どうしたもんかな? よし、困った時のテンチョー頼み……もう、これで行こう!
『エマージェンシーテンチョーコール』
テーレッテテー!
せっかくだからと、この赤いボタンを押せば、警備隊詰め所で赤いパトライトが点滅して、僕の居場所の座標と緊急事態発生が告知される。
例のスライムの一件で、皆への救援要請を送る手段がなく、救援が遅れることになった事を反省し、鹿島さん達の協力で作られた警報システムなのだ!
そうなれば、緊急救援部隊として、テンチョーとその誘導役として、ゼロワンにスクランブルがかかる。
少なくともゼロワンは三分で出撃、テンチョーも電子装備の上で、急行してくれる手はずだから、ものの10分でやってくる。
いつでも、これを押せるようにして……思いっきり圧迫外交を展開してやる!
もう丁寧にとか、大人しくとか止め止めっ! 容赦なく、ボッコボコにしてやんよ!
「おい、そこの若造! いいことを教えてやるよ。うちにも使徒がいるって言っただろ? そいつなら僕の配下だから、いつでも会わせられる……と言っても、その場合、君をブチのめしてからになるだろうけどね」
「僕をブチのめすだと? 君は、そんな事をして、タダで済むと思っているのか? 僕はこう見えて、今は滅びた超人種族……赤龍人なのだぞ! 確かに、僕は人に危害を加えない主義だが、攻撃された上での自衛行動なら、容赦はしないぞ……死に急ぎたいなら、やってみればいい」
「はっ! 言っとくけど、テンチョーの実力はデタラメだからね。さっきも言ったが帝国のレベル4スライムやワイバーンすら瞬殺するほどだ。君が言うことを聞いてくれないなら、僕らとしても君をブチのめして、言うことを聞きたくなるようにするだけの話だ。ましてや、僕を殺すとか言ってるようなら、こっちもうっかり、君を消し炭にしてしまうかも知れないな」
「馬鹿な! ……レベル4を瞬殺だと! あれは僕らでも倒すのに、手こずったと言うのに……。ロメオには、そこまでの武力を持つ者がいるとでも言うのか! ありえないっ! あれはそんなに容易く倒せるはずがない……どんな汚い手を使ったのだ? 如何にも姑息そうな貴様のことだ、多大なる犠牲者を出して、味方ごと葬るような、外道な手を使ったのだろ?」
おおっ、なんだかホットな食いつきっぷり。
そうか、こいつらもアレと戦ってるのか……普通に戦うと、あの超再生……そりゃ手こずるだろうさ。
けど、卑怯な手とか犠牲者出しまくりとか、人聞き悪くない?
そう言う目で見てたってことなのね……この野郎、今に見てろよ……。
「そ、そうですよ! そんな話聞いてませんよっ! あのレベル4をそんな容易く倒せるわけがありません! ハッタリです! ハッタリ! さっきから、聞いてるといい加減なことばかり言って……もう、いい加減にして下さい!」
「事実なんだから仕方ない。さすがに瞬殺ってほど楽勝じゃなかったけど、超再生力を持つスライム軍団の大ボスなら、テンチョーに焼かれて、灰になった。そこのサトルくんは、あんな程度の相手に手こずったのかい? なんだ……女神様の使徒っても案外、大したことないじゃない! そもそも、そんなに帝国を滅ぼしたいなら、一人で殴り込んで帝王とやらをぶっ殺してくればいいんじゃないのー? なんで、そうしないのー? 解った、実はくっそ弱いんでしょ! クールでスカしてるキャラ作ってるっぽいけど、実は全然解ってない雑魚っパチなクソ雑魚ナメクジだったりするんじゃないの? ププーッ! 残念っ!」
さすがに、こっちもそろそろ限界なんで、思いっきりゲス顔で指差しながら煽ってやった。
けど、ちょっと軽率だったか?
サトルは無言で僕の襟首を掴み上げると、拳を振り下ろそうとする。
けど、僕に当たる直前で何かに掴まれたように、その拳が停止する。
「おいおい……。さすがにこれは、もう言い訳のしようがないよ? あーあ、やっちゃったね……」
なんで、寸止めにしたのかは、良く解らないけど、間違いなく、こいつは本気だった。
交渉の席で、激昂して相手に殴りかかる……まさに、野蛮人のすることだった。
こいつは、全くもって、話にならない……僕もそう確信する。
それを見てミリアさんが、険しい顔でその腕を振り払い、間に割って入ってくれる。
そして、僕の背中越しの誰かに向かって、首を振ってる。
振り返ると、キリカさんもサトルを睨みつけながら、腰のモーニングスターを振り上げて叩き込む寸前だった。
まさに一触即発……ミリアさんが割って入って来なかったら……と思うと、さすがにゾッとする。
ついカッとなって、ちょっと言いすぎたのは確かだけど……この場で血みどろの殴り合いとかなるところだった。
とりあえず、キリカさんに手を向けて、どうどうと落ち着かせる。
周囲のエルフ隊も一斉に弓や魔術を放とうとしてたらしく、到るところに殺気が膨れ上がっているのだけど。
僕が手出し無用というジェスチャーをすると、察してくれたらしく、再び気配が消える。
キリカさんも、なにか言いたげっぽかったけど、とりあえず武器を収めて、黙っててくれているようだった。
「……タカクラ殿、さすがに今のは非礼が過ぎるであろう……。サトルもだ……もう少し立場を考えてくれ。軽率だぞ……彼に危害を加えたら、オルメキアとロメオは断交にすらなりかねない。ここは何を言われても抑えてくれ、今ので解っただろう? このタカクラ殿……相当な精鋭を伏兵として、用意していた。我々へ武力行使も辞さない……始めから、そのつもりだったのだ……」
「つくづく、忌々しい話だな……。人へ危害を加えられない……こんな制約さえなければ……。高倉とか言ったな……今のは、貴様らが手出ししなかったからこそ、命拾いしたのだと覚えておくがいい。たかが獣人ごときに、ここまで腹が立ったのは初めてだよ……それに、使徒たる僕にこんな無礼な扱い……前代未聞だ! 貴様は女神と教会を敵に回す……そう考えていいのだな?」
「はぁ? 何言ってんだか……こんなのもう、問答無用でアウトだよ。ミリアさん、悪いね……君らには、即時国外退去を命じる! オルメキアへの食糧支援の話も、増便どころか、むしろ打ち切りを検討させてもらうよ! ランシアさん、お客さんがお帰りだ! 丁寧にお見送りを頼むよ」
僕の言葉に答えて、無言で剣や弓を持ったエルフたちが続々と茂みから出てくると、僕の後ろにズラリと整列する。
全員、夜間迷彩兼、舐められないようにと言う理由で、黒いマントで身体を覆い、黒い覆面と頭巾で目と耳だけ出してるせいで、まるでテロリストか何かのようで、物凄く威圧感ある。
目元も黒いバイザーで隠れてる上に、全員一言もしゃべらず、もはやロボット兵のような無機質さすら感じる……。
同じような黒いコスチュームで黒いバイザーを付けたランシアさんが、ビシッと敬礼をすると、全員それに習う。
けど、ランシアさんも相当キレてるみたいで、殺気を隠そうともしてない……こっわーっ!
まぁ……実際は、単なる自警団みたいなもんなんだけど、状況を察してくれているようで、いかにも精鋭特殊部隊の兵のように振る舞ってくれている。
一斉に、一糸乱れぬ統率された無駄のない動き……まさに、プロの殺人集団。
僕も鷹揚に答礼を返すと、キリカさんも姿勢を正して、ビシッと敬礼をして、一歩下がって、ランシアさんの隣で、休めの姿勢を取る。
僕もこれ以上は、何も言わない……無言で、三人に向き直る。
最後通牒はなされた……向こうの返答次第では、即座に武力行使も辞さない……僕もその覚悟を決めた。
サトルと、オーナーの交渉バトルって感じです。
やや冗長になってるんですが、交渉ってのはこんなもんです。




