第三十七話「エクストリーム主人公対決!」④
「そ、そうか……君がオルメキアに現れたと言う女神の使徒だったのか。けど、なんでまたこのダンジョンの主なんかを? 知ってるかも知れないけど、このダンジョンはダンジョンマスターって言う主が、お遊び感覚で作ったレジャー施設みたいなもんなんだ……。会いたかったらダンジョン攻略しろとか、そんな事言ってたんだと思うけど……。そんなのに、君らみたいなのが挑戦とか、時間の無駄と思うんだけどねぇ……多分、彼と会った所でがっかりするだけだと思うよ」
「お遊び感覚って……なんですか、それ! 聖光教会からも正式認定された使徒がいるって聞いてますよ! 私達はそいつに用があるんですよ……それに、ダンジョンって言えば、攻略するのが常識じゃないですか! なんで、放置してるんですか!」
「その……なんだ。彼については、正式に使徒扱いするって話もあったみたいだけど、目的が斜め上過ぎる上に、本人も色々アレなもんで、教会側ではもう見なかった事にするって話になってるみたいなんだけど……。そのへんの話って、聖光教会の関係者なのに聞いてないの?」
「はぁ? 見なかったことにって……なんですか、それ? 大方、日和見のイザリオとかその辺が勝手に日和って、そんな話になったんじゃないですか? 悪いんですけど、イザリオ達の派閥は、数ばっかりの傍流派なんですよ? 聖光教会シュバイク派……我々の派閥こそ、女神の使徒……サトル様を女神の代弁者として擁する、聖光教会の正統なる主流派なんですからね! とにかく、使徒の可能性があるなら、私が面談して公認するかどうか判断します! 私にはその権限があるのです。その為もあって、わざわざ来たんですから、手ぶらで帰れる訳がないです!」
……ああ、うん。
なんとなく、解ってきた。
イザリオ司教が言ってた、頭のおかしい過激派って、コイツらの事だ。
傍流も何もイザリオ司教は、この辺の聖光教会信者を束ねる思いっきり主流派トップと言っても過言じゃない。
信者の数も尋常じゃない数がいるので、ロメオ王国にとっても無視できない勢力となっており、国内各地に教会を作ったり、お布施を捧げたり、関係者用に議会の席を用意したりと、せっせとご機嫌取りをしている。
政教分離の原則を無視していると言えば、そうなんだけど。
向こうもロメオ王国の先代国王、リョウスケさんを公認使徒の一人として崇め、裏に表に協力していた関係で、クロイエ様の代になっても、変わらず協力的で良好な関係を構築できていた。
国レベルでの優遇政策や、使徒の建国した国ということで、外国からも信者が巡礼に訪れたり、団体でまとめて移住してきたりで、ロメオ王国の事実上の国教のような勢いなのだ。
それを弾圧したり、冷遇するなんて、そっちの方がむしろ、あり得ない。
なんだけど、一部過激派が暴走して、勝手なテロ活動紛いの事を帝国や近隣国で起こして回ってるって話は聞いてた。
この頭の弱そうなロリっ娘は、その過激派の筆頭って事か……め、めんどくせぇ。
絶対、こいつらのせいで話がややこしくなってるぞ……イザリオ司教が誰か何とかして欲しいって、頭を抱えてたわけだよ。
「あのさ、解ってないみたいだから、何度だって言うけど、そもそも、ここはロメオ王国の正式な領土な訳よ? うちの庭で勝手な真似をするなとそう言ってるんだよ……。悪いけど、うちにも女神の使徒はいるからね。そんな肩書でこっちが遠慮するとか思ってるなら、思い上がりも甚だしいよ? と言うか、女神様って、そんな御大層な代物じゃないでしょ……。大体、このダンジョンの主……女神様の使徒の使命って、たまに貢ぎ物送ってくれたら、あとは適当にダンジョン経営でもやってて……とか、そんなしょうもない使命だって聞いてるよ」
なお、使徒モンジロー君、本人談。
世界を救えとか、そんな御大層な使命では決して無い。
紋次郎くん、曰く。
警察にとっ捕まって、不当に何日も拘束されてるうちに、エロ絵が描けない、読めない事で、色々禁断症状が出て……。
命の危機を感じはじめた事で、思い切って、窓ブチ破って、脱走しようとしたら、思ったより高い所に拘束されてたらしく、真っ逆さまに地面めがけて、紐なしバンジー状態で、ダイブ!
これ、死んだ……って思ってたら、次の瞬間、女神時空と彼が呼ぶ謎の空間にいて、お前は、何が出来るのかと問われて、女子ならば、案外腐った絵とか大好物なんではと、即興でイケメンXイケメンな腐りまくったBL絵を描いたら、めっちゃ気に入られた……らしい。
なんと言うか、色々ツッコミどころ満載である。
その辺、テンチョーも似たようなものなのだから、イザリオ司教には申し訳ないんだけど、使徒とか女神様って、いったい何なの? って心から思う。
「さっきから聞いていれば、貴様は女神と、その使徒を何だと思ってるんだ? そんなくだらない使命の使徒などいてたまるか! そもそも、貴様も使徒ではないのか? タカクラと言ったが、貴様、どうみても獣人のようだが、その名前……日本人なのだろう? 異世界転移者はその多くが女神の意志を受けている……君は……どう言う役目を望まれているのだ?」
……コイツ、人の話を聞いてるのかな。
女神だの使徒だの、そんなもん、どうでもいいんだよなぁ……。
オルメキアの人間が勝手に、ロメオの正式領土に不法侵入して勝手働き、おまけに一言も挨拶もなければ、詫びの言葉すら無い。
挙句の果てに開き直り……随分と舐められたもんだな。
……こんなの普通に外交問題になるっての。
おまけに、自分が使徒だとアピールしまくってるけど……そんなに女神の使徒様とやらは、偉いのか?
少なくとも、僕はそんなもの認めない。
「僕は単に巻き込まれただけで、使徒でも何でも無いよ。要するに君は同じ使徒と直接話して、女神の意志を知りたいとかそんなところなのかい? と言うか、それ以前に君は、常識ってもんがあるのか? ここは我がロメオ王国の正式な領土だ……勝手に入り込むのも問題だし、建前上でも、外交使節として来たんなら、真っ先にクロイエ様に挨拶くらいしに来るのが礼儀ってもんだろ。使徒だかなんだか知らないけど、崇められて天狗になってんじゃないの? 悪いけど、君は僕にとっては、非常識な若造にしか思えない。僕の立場なら、即刻退去命令だって出せるし、従わないなら、力づくで拘束だって出来るんだよ? そこら辺、解ってるのかな?」
……そう言い放つと、ギンと鋭い目つきで睨み返される。
少しは気に触ったらしい。
けど、いくらチート持ちの使徒ってもこっちには、テンチョーと言う最強チートがいるんだ。
こいつが暴れだすようなら、こっちはテンチョーを召喚するまで。
ここまで、テンチョーなら10分位で走ってこれる……夜道についても、ゼロワンが誘導すれば問題ない。
こないだと違って、遠話も普通に使えるから、すぐ来てって言えば、本当にすぐやってくるだろう。
テンチョーとこいつ、どっちが強いかなんて、戦うまでもない。
もしも、こいつがテンチョーより強いってのなら、帝国なんてとっくに滅びてるだろう。
実際は、そうなってない……使徒っても、こいつの能力は常識的な範囲か、何らかの制限があるってことだ。
つまり、非常識な上に、フリーダムな立場のテンチョーなら、コイツにだって勝てる。
僕の強気はそう言うことだし、そもそも、こう言う周りの迷惑をこれっぽっちも考えない無軌道かつ、勝手な正義を掲げるやつは、僕は大嫌いだった。
「……タ、タカクラ殿、いくらなんでも、それは言い過ぎではないか? サトル殿は、我が国の重要人物なのだ……我が国の危機を幾度ともなく救ってくれているし、正真正銘女神の使徒である以上、権威としては、非公式ながら国王陛下に準ずるほどだ。確かに、君らに無許可で保護領内に不法侵入していたことは、こちらも大いに問題があると認めざるを得ない。まずは、こちらから全面的に謝罪しよう。大変申し訳無いことをした……再発防止についての協議もしたいと思うので、まずは話し合いの機会を与えて欲しい」
そう言って、深々と頭を下げるマクミリアさん。
うーむ、よく出来た人ですこと……さすがに、こう来られると、強くも言い返せなくなる。
おまけに、再発防止の協議と言われたら、こっちも相応の対応をせざるを得ない。
上手いなぁ……伊達に外務武官とか任ぜられてないな。
「ちょっと! サトル様を無礼な若造とか、天狗とか好き放題言われて……なんで、こっちが頭を下げるんですか! どうせ、ロメオなんて雑魚みたいな軍隊しかないんだから、うるさい黙ってろって、一喝すればいいんじゃないですか? と言うか、国外退去ってどう言うことですか! 保護領なんて無法地帯みたいなものじゃないですか……いきなり、正式領土とか言い出して、そんな横暴、許されませんよ! この私が証人となりますので、オルメキアと聖光教会の連名でこの扱いについて、厳重抗議をいたします!」
……ミリアさんに同情したくなる。
せっかく頭を下げても、こんな無茶苦茶な横槍入れられてたんじゃ、台無しだ。
ミリアさんも台無しにされて、怒り心頭って感じで、拳を握りしめて、プルプルしてる。
……心中お察しする……。
と言うか、このロリっ子……全然、人の話聞いてないのね。
……なんか、すっごい疲れてきたよ。
唐突に、このロリっ子に腹パンとかカマしたら、すっごいスッキリしそう。




