第三十七話「エクストリーム主人公対決!」②
そんな訳で話は戻る。
外国人と言えるこの三人は、そんな我が国の事情……全く知らなかったみたいで、背の低い金髪のロリっ娘……聖光教会のシスターと、大柄のブロンド巨乳女剣士はポカーンとして、僕らの事を見つめ返していた。
その後ろにいたフードで顔を隠した青年は、興味なさげに無言で一瞥しただけ。
むぅ、一応解かりやすく伝えたつもりなのだけど、無反応ってのは困るなぁ。
「オーナーはん、あの後ろのあんちゃん、相当やるで……。それに、そこのちびっ子も三本羽の紋章持ち……聖光教会の司教やし、デカパイ剣士もかなりの実力者やで……なんなんや、コイツら……マジでこんなとこでなにしとんねん」
背後に控えていたキリカさんが小声で教えてくれる。
司教って確か、聖光教会でもめっちゃ上の大幹部クラスだよなぁ……例を挙げると、XX四天王とかそれくらいのボスキャラクラスって言えば解りやすい。
割と最近、イザリオ司教って人が大勢のお供を連れて、コンビニ村に挨拶にやってきて、今も村の教会に滞在中なんだけど、その人、ロメオ方面支部の代表って言ってたはずなんだけど……。
こんな10代前半の小学生にしか見えない上に、頭もイマイチ足りて無さそうな子が、あのイザリオ司教と同格だなんて……。
聖光教会ってのも、なんなんだかね……。
まぁ、見た目は結構可愛いよ? もみあげだけ伸ばしたショートカットに、青い瞳。
雰囲気的には、ロリキャラの開祖「エルピー・プル」みたいな感じで、人によってはどストライクだろう。
「……あ、ど、どうも……。えっと、私はレイン・シュバイク……聖光教会の正規司教……幹部の一人です。え? ロメオの宰相って……そんな大物が護衛一人だけ連れて、こんな夜遅くにこんなところに来るって? な、なんか胡散臭いですよ……。それに、ここがロメオの正式領土になって、私達が不法滞在者扱いって……意味解んないんですけど……。そんな勝手に宣言されても、こっちも困りますよ」
まぁ、本来の護衛は、全員隠れてるんだけどね。
ランシアさん達の隠蔽技術は完璧すぎて……人並み以上の感知能力を持つはずの僕ですら、どこにいるか解んない。
ランシア隊……森エルフ特務戦闘隊。
20人程度の小部隊だけど、全員選り抜きのエルフの魔法戦士で、いずれも人間の兵士なら、一人で十人位相手にできるような精鋭ぞろい……おまけに、全員伏兵状態なんで、お察しだ。
「んー、護衛っても、実際は軽く20人はいるんだけどね。解んないかな?」
レインって子は、全然わからないみたいで、首を傾げてる。
もう一人の女剣士の方も、周囲を見渡してるけど、良く解っていないようだった。
後ろの若造は、ちらりと周囲を見渡すのだけど、興味なさげに俯いて、ため息を吐く。
「……エルフの野伏せ共かな? なかなか巧妙に隠れてるから、ミリア達には解らないだろう。なるほど、武力による強制執行も辞さずか……なんとも、高圧的に出てきたものだね」
……やるねぇ。
どうやら、エルフ隊の所在を見抜いた上に、伏兵がエルフだってことまで、見抜いているようだった。
キリカさんが警戒するだけあって、コイツは油断ならないようだった。
「ご明察の通りだね……。もっとも、手荒なことはするつもりは無いから、念のために連れてきたってだけだよ。僕もこれでも重要人物なんで、この程度の護衛を連れてないと、自由に動くのもままならないんだ。まぁ、領土宣言はつい先日されたばかりだから、周知が行き届いてないのは認めるけど、滞在許可証はあるかい? もっとも、君たちみたいなのが入国したって報告は聞いてないから、持ってないと思うけどね」
「……これまで、そんな物を要求された事などなかったからな。そもそも、保護領と言ってもこれまでは、還らずの森については、オルメキアもロメオも管理なんてしてないも同然だったではないか。それを領土化したから、不法侵入扱いで拘束するだと? オルメキアとの協議もなしに、ずいぶんと勝手な話だな」
若いやつが鼻でため息を付きながら、横柄に答える。
ちなみに、還らずの森ってのは、オルメキアでのこの森の呼称だったかな。
入った者は、決して帰ってこないとかなんとか……かつては流刑地や姥捨て山みたいな使われ方をしてた頃もあって、その名残りらしい。
……少なくとも、そこに住んでる人間の前で使うような地名じゃない……言わば、蔑称だった。
「これまでが、いい加減過ぎたんだよ。そもそも、オルメキアに協議を持ちかけてもまともな返答も返さないし、送ったとか言ってた使者もいつまで経っても来やしない。オルメキア本国には、この件については他の国々同様、複数ルートで正式通達済みだからね。すでに効力は発揮されているし、これはあくまで、ロメオの国内問題……オルメキアにお伺いを立てなきゃいけないような話でもない。である以上は君達は、問答無用で不法侵入者なんだ。もはや議論の余地はないと思う」
自国の都合で、合法だったことが、違法になる。
そうなった以上は、違法は容赦なく取り締まる……当たり前の話だった。
もっとも、いきなり捕縛すると言うのは、やりすぎなので、まずは自分達が違法行為を行っていることを理解してもらう。
その上で、正式な入国手続を行ってもらうなり、追放処分を受け入れるなりする……当たり前の事だ。
僕が彼らにしているのは、そう言う話だ。
別に、ロメオの政策転換について、お伺いを立てているとか、そんな次元の話ではない。
そもそも、これは議論しているのではなく、通達なのだ。
黙って話を聞け……はっきり言って、そう言いたい。
「ロメオの宰相……タカクラ卿……。確かにそのような名だったと記憶しているが、本当に貴殿がそうなのか? 確かに、保護領を正式に領土化すると言った話は君達の都合だから、我々オルメキアが口出しする道理などない。だが、これまで誰であろうが、滞在することが許されていたのに、領土宣言したからと言って、いきなり不法滞在呼ばわりとは……穏やかではないな。確かに、その滞在許可証とやらは持っていないが、これまでそんなものは、この森ではお互い必要とされなかったはずだ……。せめて、周知の為の猶予期間くらい与えるべきではないのか? ああ、私はマクミリアと言う……一度、君とは遠話で話をしたと思ったのだが、覚えていないかな?」
どことなく、こっちを小馬鹿にしたような態度のレイン司教や若造と違って、こっちは色々弁えているようだった。
けど、マクミリアさん……? 聞いたことあるな。
と言うか、オルメキアの外交担当官がそんな名前だったし、確かに遠話で直接交渉したような……。
「んー? マクミリアさんって、オルメキア国軍司令の娘さん……外務武官のマクミリアさん……ですよね? なんで、こんな所に……。あなたが自分で来るって言ってたのに、一向に来ないと思ったら、こんな所で寄り道してたんですか?」
……オルメキアの軍司令官の娘さんって話で、話した感じでも結構な出来物って感じだったんだ。
スライムの件で、オルメキア側と各種調整や情報交換を行ってた時、向こう側の担当官が彼女だったのだ。
こちらとしては、帝国との戦争なんて止めさせたいので、クロイエ陛下と僕が自らオルメキアまで行って、話をつけようとしていたのだけど。
それら含めて、まずは顔合わせレベルで協議したいとのことで、向こうから使節団が来るって話になってた。
クロイエ様とアージュさんがいれば、山一つ向こうのオルメキアだって、一瞬で近くまでワープして、日帰りだって可能だったんだけど……一応、クロイエ様の転移魔法は、国家最高機密だし、向こうを呼びつける形式になった方が、交渉上有利なので、そうしてもらうことにした。
何より、これまでオルメキアの国王もクロイエ様を子供扱いして、好き勝手横暴な条約やら取り決めを強要してきたのだ。
まずはガツンとかましてやって、時代が変わりつつあるのだと知らしめる必要があった。
なのだけど……待てど暮らせど、オルメキアの使節団の来訪の知らせもなく、オルメキア側からもすでに出立済みと言う返答しか得られず、やきもきしていたのだ。
それが何がどうなって、こんなエロトラップダンジョンの復旧待ちで野営って……。
それなりに国の偉い立場の人なのに、君、何してんの? って感じ。




