第三十六話「エキセントリック青年モンジロー!」③
「むっはぁっ! そりゃまたマニアックなオーダー……よござんすよ。当然、ノーカット、無修正でと……ぐふふ、こっちにゃ、にっくきポリスメーンもおりませんからな。何が、非実在青少年だ……そんなイミフな理由で、我が聖典を墨塗りだらけにした挙げ句、発禁処分とか……。やらせん! やらせはせんぞーっ!」
彼がちょっと頑張りすぎた結果。
当局に厳重注意された編集が、真面目に修正入れたところ、彼の原稿の7割が墨塗りになったと言う伝説も持ってる。
けれど、そんな編集事故のような回の掲載されたそのエロ漫画雑誌は、またたく間に売り切れて、プレミア本となったのだから、なんとも皮肉な話だった。
「どうどう、紋次郎くん、落ち着こうか。……んじゃま、話はまとまったね。ところで、そのオルメキアの連中ってどこにいるんだい? ちょっと邪魔くさいよね……なんなら、僕らが排除しようか?」
なんと言うか……マジで邪魔くさい。
紋次郎くんの邪魔だでするなんて、もはや許しがたい暴挙。
そもそも、聞いてないぞ……そんな奴ら。
「それがさー。うちのダンジョンの入口の近くで、延々野営なんかしてやがんのですよ。ぶっちゃけくっそ迷惑! ちなみに、ロリシスターと巨乳エロ剣士、陰気臭いアンちゃん。約一名、要らない子がいますな。つか、二人も嫁とかけしからん! 夜な夜なテントの中でギシアンヤリたい放題なのは、間違いないですぞー! むはぁーっ! キタァッ! 降りてキタキタァッ!」
スケッチブックを取り出して、シュバババっと、18禁な感じなイラストが描き上げられていく。
……紋次郎先生。
何かと言うとこんな調子……一応、目の前にいる女の子をモデルにしたりはしない程度の分別はあるんだけど。
インスピレーションが降りてきたーとか言い出すと、こんな風に人目をはばからずに、R18なエロイラストを白昼堂々と描き始めたりする。
来店すると、大抵、エキセントリックな言動や奇行の数々を仕出かして、女性陣やお客さんをドン引きさせる困った人ではあるのだけど。
出禁にしろと言う女性たちの声については、僕はガン無視としている。
何故なら、僕は悶々崎先生を心から敬愛しているから。
こんなんだけど、彼の絵師としての才能は、本物なのだ。
日本でも、行方不明になってしまった事を惜しむ声が多く、彼が、コミケでブースすら使わず、路上にテーブル勝手に展開して、タダ同然の値段でバラ撒いたと言う自重しないバージョンの作品には、もはやびっくりするほどのプレミアが付いており、マニア垂涎の一品となっているのだ。
その実用性抜群な神絵師としての実力は、この世界においても僕以外に評価しているものは、かなり多くいて、この世界の裏オークションでは、彼の作品は尋常ならざる額で取引されている。
そんなスポンサー達のお布施で、彼はこっちの世界でも割とお金持ちで、せっせとウチの商品を爆買いするお得意様となっている。
そんなお得意様にして、僕にとっての神様を出禁にするなんて、とんでもないっ!
とは言え、やっぱり、一部を除いた店の子達は基本的に彼への対応自体を嫌がるので、彼が来ると僕が対応すると言う事で、話は付いている。
その程度の労力……まったく惜しくはない。
なお、生身の女性に対しては、手が触れただけで、鼻血吹いて意識不明になるヘッポコぶりなので、実は割と無害。
イイやつなんだよ……もうちょっと自重って言葉覚えてくれたらなぁ……。
「むぅっ! 出来たぁ……きっと夜な夜なテントではこのような光景が……全くけしからん! けしからんなァ! ハァハァ!」
……具体的な描写をカットせざるを得ないコテコテかつ、無修正のエロ絵を堂々と広げてみせる紋次郎くん。
キリカさんがちらっと見て、ウワァって顔して、真っ赤な顔になって、手で顔を覆う。
はっきり言って、ドスケベで年中発情期な感じのキリカさんですら、怯む……紋次郎くん、頑張りすぎ!
ごめん……これはちょっと、僕も目線を背けたくなる。
何が描かれてるとか、僕、お子様だからわかんなーい! 新型のプロレス技かなーみたいな!
テンチョーは涼しい顔してるけど、彼女はその手のものへの興味ってもんがまるで無いし、理解も出来てない。
と言うか、基本的にミミちゃんと一緒で全然解ってない系。
今日もテンチョーは、レジで丸椅子に腰掛けながら、煮干し食ってカルシウム補給中。
これと牛乳で完璧とか言ってるし! 色気はない……なんと言うか、残念ヒロインだった。
「って言うか、君のダンジョンって思い切り、ロメオの領土内なんだけど、そんな連中の話なんて聞いてないよ。そいつら思いっきり不法滞在者じゃん。んじゃあ、ここは一つ、挨拶でも行って、やんわりと注意してお引取り願うかな。とりあえず、キリカさんお供してくんない?」
「今から行くんか?」
「ちょうど、営業時間も終わったし、何事も早いほうが良いんじゃないかな? 移動とかされたら、山狩りしないといけないから、そっちの方が面倒でしょ」
「せやなぁ……そんな訳の判らん奴らが、森を闊歩してるとか気分悪いわ。せっかく、この森もまとまってきとるところやし、ホントに……その……さっきの絵みたいないかがわしい事されとったら、嫌やしな」
なんだか知らないけど、チラッチラッと僕の方……それも下の方に視線を送るキリカさん。
……なんかケダモノスイッチ入ったっぽいぞ。
「さ、流石にそれは無いと思うけど……不法滞在者を放置してる訳にもいかないよ」
「……せや、そう言う事なら、新設したばかりの森エルフの傭兵連中……ランシア隊でも使わへんか? あいつら森エルフの自警団の選り抜き精鋭やから、捕縛命令出しとけば、ほっといても連行、牢屋にでもぶち込んでくれるはずやで!」
ランシア隊、ランシアさんとユカイな仲間達とも言う。
外貨獲得のてっとり早い手段として、森エルフの若手で戦闘に長けた連中が雇ってくれないかって言ってきたので、うちの警備隊として、採用した。
ランシアさんが隊長役を買って出てくれたので、とりあえずランシア隊と称して、編成……戦闘訓練の毎日を送ってたのだけど。
つい先日、ラドクリフさん達による警備訓練過程を終えて、実戦配備するって話を聞いていた。
「そっか、そう言えば、うちの警備隊としての訓練が完了したって言ってたね。ロメオのウルスラ隊や商人ギルドのミーシャ隊との合同訓練に出そうかと思ってたけど。そう言う事なら、付き合ってもらおうかな?」
「う、うちはランシア達に丸投げでもいいかなぁと……オーナーはん、今夜はうちと一緒にしっぽりせやへん? うち、今夜はそう言う気分なんや」
……だと思ったから、今夜は仕事するんだよ。
僕はそんなキリカさんのお誘いを無視して、爽やかな笑顔を浮かべる。
「んじゃ、ランシアさんによろしく言っといて……出発予定時刻は、2100で! 復唱っ!」
しょげ返るキリカさん。
でも、なにか思いついたような感じでニヤリと笑って顔を上げる。
「まぁ、ええわ。そいつらの件が片付いたら、オーナーとダンジョンのテストなんやろ? それくらい、お安い御用や……いやぁ、楽しみやな!」
キリカさんの意外な反応
なんだ、思ったより食い付きいいじゃないか。
「……キリカさん、意外と乗り気なんだね」
「紋次郎も別にキモいだけで、別に実害ある訳でもないからな。ダンジョンっても、オーナーがテストって事は、あの変な裏モードとかって訳や無いんやろ?」
「う、うん……そうだね! 健全仕様の表モード……だよね? 紋次郎君」
「えー、表モードとか面白くないじゃないですか。ここはやっぱり……」
「はっはっはーっ! 紋次郎君、何言ってるのかなー? いいから、そう言う事にしとこうよ」
紋次郎君が要らないことを口走りそうになったので、ちら見して黙ってろのジェスチャーを送る。
「あいっ! そうです、そうですな! んじゃ、キリカさん、よろしくお願いいたします!」
華麗なるジャンピング土下座で謝意を示す紋次郎くん。
凄い……流れるようなジャンピング土下座だった……実は、こう見えて紋次郎くん、割と身体能力とかハイスペック。
そう……紋次郎君は、女神の使徒と呼ばれる超人たちの一人でもあるのだ。
その気になれば、天を駆け、大地を穿ち、その一撃は月にすら届く……なんて言ってた。
まぁ、全くもってそのチート能力とか活用はしてないんだけどね。
チート主人公の無駄使いとは、まさに紋次郎くんの為にあるような言葉だった。
「べ、別にそう畏まらんでも構わへんよ……。でもな、モンジローもそう言ういかがわしい絵を女子に見せつけるのは、どうかと思うで……それに勝手に人様をモデルにするもんやない。こないだも、うちの事、モデルにして、変な絵描きよって……なんで、おんどれが、うちのお尻のほくろの位置まで知っとるんや?」
「我が目はその気になれば、服くらい透視できるのですよ! けど、おっしゃることもごもっとも……」
透視云々……例によってのチート能力なんだろうけど、その気になれば、婦女子の服とか無いも同然って事なのね。
ちょっと羨ましいかも。
ちなみに、キリカさんのお尻のほくろは僕も知ってる。
右側に3つ、三角形をかたどる感じで並んでるんだ。
けど、キリカさんの気には触ったらしい。
お尻のほくろの辺りを押さえながら、ギュッと握りこぶしを握りしめてる。
「おま……ちょっと、一発殴ってもええか?」
「うひょおっ! 気に触ってしまったようで……ご、ごめんなさいーっ! ああっ! でも、そんな容赦ない所にもシビれるし、あこがれるゥ! な、なんでしたら、オシオキとして、僕ちゃんを踏みにじって、蹂躙していただいて結構っ! ヘイカモンッ! かかってきやがれ!」
そう言って大の字で横たわる紋次郎くん。
「だから、そう言うのやめれっちゅーねん! わーった! お望み通り、踏んだるわっ! こんド変態っ! テンチョーも構わんから、一緒に蹴ったれ!」
「うにゃーっ! 靴は脱ぐんだっけにゃ?」
言いながら、安全靴をポイッと脱ぐテンチョー。
ドゴン……とか、重たい音を立てて、床に落ちる……破壊力抜群だ!
「あ、テンチョーは本気で蹴っちゃ駄目だよ。紋次郎君も……程々にしておきなよ? まぁ、骨折くらいなら、テンチョーの回帰ヒールで一発復旧だから、安心して逝ってらっしゃい」
さすがに、僕程度の防御力では、この境地にはとても至らないんだけど、これもいつもの光景。
まぁ、本人的にはご褒美らしいから、いいんじゃないかな?
「あっ! あっ! あっ! キリカさん、素敵っ! テンチョーさんも生足でとかそんなっ! ぐっぼはぁ……うぇえ……この子らマジ容赦ねぇっ! てか、お二人さんおソロの黒ぱんちゅとかもう最高ですか? ああんっ! ちょっとそれ強すぎっ! た、たまんねぇーっす!」
……お解りいただけただろうか?
これが変態天才絵師にして、狂気のダンジョンマスター坂崎紋次郎と言う好青年。
……まぁ、一応、僕の友達なんである。
まぁ、こんな風に女性陣に袋叩きにされるのも毎度のこと。
僕も、もはや手慣れたもんだった。
生きろ! 坂崎くん!
そうして、夜も更けていくのだった……。




