閑話休題「メシマズエルフの食料改革」⑪
「ちょっ! わっ……ごめんっ! もう……着替えるなら、先に言ってよ!」
思わず両手で自分から目隠しする。
「あらあら……。お着替えじゃないですよ……うふふ、えいっ!」
言いながら、僕の上にリーシアさんがのしかかって来る。
「リ、リーシアさん……な、何をする気なのかなー? って言うか、僕、見てませんからっ!」
実際、僕には何も見えてない。
けど、胸の上に乗っかった凄く柔らかい二つのナニカとか、すべすべなお御足とか。
もはや、それらはゼロ距離の間合いなのだけど、見てはいけない!
目を開けてしまえば、もうそこは18禁の世界っ! 断じて否っ!
「解ってる癖にぃ……。何照れてるんですかぁ……はい、こんなの着てたら暑いですよぉ? ヌギヌギしましょうね……」
リーシアさんが僕のワイシャツのボタンをプチプチと外していく……。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ったっ! ちょっと待ったーっ!」
思わず絶叫! 慌てて、リーシアさんを振り払って、起き上がろうとするのだけど……。
全然身体が言うことを利かないってことに気付く。
まるで金縛りになったように、もうなすがまま……それどころか、自主的に上着を煩わしそうに脱ぎ脱ぎと……。
これは……アカン! またやられたっ!
外部からの身体操作魔法……傀儡の法って奴だ!
もう、どっからどう見ても、僕のほうがむしろ積極的にリーシアさんに迫ってるような感じで……。
こんなん人に見られたら、言い訳無用、問答無用の待ったなしっ!
けれど、僕の叫びに応えるようにドタドタと複数の足音がこっちへと近づいてくる。
「今の声っ! オーナーはん! ここかっ! 助けに来たでー!」
キリカさんが扉を乱暴に蹴り開けて、部屋の中に飛び込んで来たようだった。
「……キ、キリカ……ここ姉さんの部屋よ……って、オーナーさん、何やってるんですかー!」
続いて、ランシアさんの絶叫。
……よりによって、やってきたのがこの二人!
これって修羅場、待ったなし!
さすがに、僕も目を開けて、どう言い訳するべきか必死に頭を働かせる!
けれども、リーシアさんが、舌打ちと共に振り返ると、穏やかな笑みを浮かべる。
「なんですかぁ……ランシアちゃん。お姉ちゃんのお部屋に入る時はぁ、ノックをしなさいっていつも言ってますよねぇ……?」
「ご、ごめんなさいっ! じゃなくてっ! 姉さん、これはどう言うこと? それにそのカッコはなんなのよっ!」
「せやで! このエルフの里全域に、眠りの霧なんぞバラ撒いたの……おんどれやろ! うちらは何とか耐えきったけど、他の連中はバタバタと居眠りしとるで! そもそも、うちらだって……そこまではやっとらんのに、パッと出のおんどれが何、やらかしてくれてるんやっ!」
リーシアさん?
確かに、不自然なまでに静かで、皆、寝てたみたいだったけど……。
な、何してくれてんの? この人。
と言うかキリカさん……そこ怒る所違うような……?
けれど、唐突にリーシアさんの纏う雰囲気がガラリと変わる。
「あら、何のことかしらぁ? これからオーナーさんと私は、愛し合い結ばれるのです。お邪魔虫は、そこで大人しくしててくださいねぇ……」
リーシアさんがパチンと指を鳴らすと、地面に置かれていた植木鉢の植物が突然つるを伸ばして、キリカさんとランシアさんをあっさりと絡め取ってしまう。
更に、別の植木鉢のツルがリーシアさんの身体に巻き付くと、あっという間に胸と腰まわりの微妙なところだけ隠したSMの女王様みたいなコスチュームに成り代わる。
「な、なんやねん! これは、ランシア……! お前の姉ちゃん、何考えてるんやっ! こなくそーっ!」
さすが、キリカさん。
ツルで手足を絡め取られながら、力技で引きちぎってしまう。
そして、ぐるぐる巻きになったランシアさんを救出にかかる。
「し、知りませんよっ! と言うか、キリカ……この部屋、ヤバイッ! この部屋中に置かれてる植木鉢……これが全部、姉さんの武器であり、防具であり……いや、この部屋自体、幾重もの補助結界が張られてて、完全に姉さんのテリトリー……。キリカ、私のことはいいから、オーナーさんを連れて、今すぐここから逃げてっ! ここで、この人が本気出したら、私達二人がかりでも勝てないっ!」
ちなみに、僕は半脱ぎ状態のまま、ほったらかしなんだけど。
身体の自由が効かずに、もはや為す術なし。
と言うか、リーシアさん。
植物を自在に操る魔法とか、地味ながら凄い……それ。
けど、なんでSM女王様スタイルなの? 片手にはトゲの生えた痛そうな感じのムチみたいなツルを持ってるし……。
ちらっとこっち向いて、嬉しそうに微笑む。
……あ、そっか。
リーシアさんも、ランシアさんやお母さんと同じドSの血が流れてるんだ……。
その穏やかな笑顔のままで、その手に持ったムチでピシピシするつもりなんだ……きっと。
「こんにゃろーっ! リーシアはんっ! 悪く思わんといてなー! セヤァッ!」
キリカさんが一瞬で間合いを詰めると、腰の入ったショルダータックルをリーシアさんにズトンとブチかます!
たまらずリーシアさんが派手にぶっ飛ぶ。
壁まで吹っ飛んで、バキバキと壁を壊しながら、めり込んでいくリーシアさんっ!
や、やりすぎだよ……キリカさん。
「すまんなぁ……手加減する余裕なんてなさそうやったからな。先手必勝……堪忍してや……つか、大丈夫かいな?」
キリカさんもやりすぎと思ったらしく、そろそろとリーシアさんに近づく。
「キ、キリカさん! やりすぎだよっ! リ、リーシアさん大丈夫?」
キリカさんのフルパワーのタックルなんか食らって、壁を壊すくらいの勢いで吹き飛ばされたんだ。
無事で済んでるわけがない……。
けど……直後、キリカさんが一人で転んだように足を取られると、そのまま不自然な感じで宙を舞い、床に叩きつけられる。
「な、なんやてーっ! うわぁああああっ!」
一撃で床が抜けて、キリカさんの姿が見えなくなる。
「あらあらぁ……キリカちゃんでしたっけ? いきなり、そんな乱暴な真似……おイタはめっですよぉ」
シュルシュルとツルが部屋の隅へと戻っていく。
そこには、何事もなかったかのように平然と佇むリーシアさんの姿がっ!
さっきまでは申し訳程度に身体に巻き付けていたツルが体中を覆いまるで鎧みたいになってる……。
なにこれ? もはや、ボスキャラとかそんな感じだよ?
「う、うそやろ……まともに入ったはずなのに……それに、なんちゅうパワーや……」
ヨロヨロと、床の穴から這い出てきたキリカさんが呆然と呟く。
「……そのツルは鋼草とも呼ばれる植物。外部から衝撃を受けると外皮が鉄のように硬くなる植物なの……。それを身にまとい、自在に操る事で攻防一体の無敵の鎧と化す……。姉さんは、この村の最終兵器……とも言われる最強の魔術師なの……。まともに戦ったら、誰一人として敵わない……」
おぅ……物理無効の防御と、硬くて早くて変幻自在の鋼のムチによる重連続攻撃……ですか。
魔法というより、思いっきり物理だけど……普通に、攻略法が見えません。
リーシアさん、エルフなのに……物理型なんだ……イメージ違わなくない?
おまけに、ランシアさんを上回る魔力保持者……。
リーシアさん、大人しそうに見えて、とんでもない強キャラだった!




