閑話休題「メシマズエルフの食料改革」⑦
「いやはや、あの気難しい御仁をあっさりと……さすが、高倉オーナーですね。こうなれば、私も堂々と動けますので、ちょっと何人か顔見知りの方の所に行って、正式な売買契約を持ちかけてきますよ。こうなってくると、この森エルフの集落にも現金の需要が出来そうですからね。我々もエルフの工芸品や皮革製品とか、欲しいものはいくらでもありますから、この集落にもお金が回るようになると思いますよ」
パラームさんがニコニコとそんな事を言ってきた。
「そうですね……コンビニで物を買うにも現金が必要ですからね。この集落にもちゃんとお金が回るように、色々とよろしく頼みますよ」
「……ふふふ、そこら辺はちゃーんと心得ておりますよ。それでは、また後ほど!」
ある種のマッチポンプのようなものだけど。
いくらお客さんがいても、お金持ってないと、物買ってくれないからね。
商売人にとっては、貧乏、節約、ケチってのは敵!
それは、不景気と言う全く嬉しくない状況へ繋がるものでしかない。
だからこそ、僕ら商売人は自分達から積極的に動いて、お客さんになってくれる人達にお金が回るような仕組みを作る義務があると言っても良いのだ。
本来は、そんなものはお上……政治屋の仕事なんだけど、この世界のお上はそんな民の懐事情とかおかまいなしと言うのが実情だった。
商売人も、ふんぞり返ってほら、買っていけ……みたいな調子で、自分達の事しか考えてないってのも多いと聞く。
そんな商売が許されるなら、僕だってそうしたい……楽でいいよね。
けど、こんな本来だったら、ロクにお金も回ってこないような未開の地。
普通にやってたら、皆、指くわえて見てるだけってなりかねない。
だからこそ、まずは皆にお金が回る仕組みを作る。
一時しのぎのバラマキじゃくて、持続的に皆がお金を儲けて、景気よくお金を使ってくれるようにする環境を作る事。
そうすることで、経済の好循環が生まれて、誰もがハッピーになれる。
お金は天下の回り物! 使ってこそ、なんぼって奴だ。
僕とパーラムさんは、この考えでは完全に一致していて、これまでもお互いタッグを組んで、原住民たるウォルフ族やミャウ族にも、お金が回るように色々と働きかけてきたんだ。
お仕事も、こんな森の中だって、探そうと思えば、いくらでもある。
現在、コンビニ周辺は治安も悪いし、思いっきり発展途上……労働力はいくらでも欲しい。
うちのバイト以外にも、夜回りや道の整備、ラキソムとコンビニ村を往復する隊商の護衛とか、お弁当の配達……なんて仕事もある。
木の実、薬草、キノコや材木集めとか、建物作ったりとか、モンスター退治なんてのだってある。
皆も、物買いたい! お金が欲しい! ってなると、仕事斡旋すれば飛びついてくるし、自分達なりに色々儲け話を考えてくる。
パーラムさんも、そんな感じで商人ギルドの業務をやりながら、せっせと斡旋業みたいなこともやってるし、色んな人の話を聞いては、儲け話を見出して、お金にするお手伝いみたいなこともやってくれている。
例えば、ミャウ族がこれまで見向きもしてなかったキノコをこれお金になるかなーと持ち込む。
王都の方では、ジャングル産のキノコなんて、普通に珍重がられて、食べられなくても相応のお金になるから、即買い取り。
やたら大きいとか、色が綺麗……そんなのですら、買い取る理由にはなる。
行くところに行けば、需要ってのは必ずあるものなのだ。
ミャウ族にしてみれば、割とどうでも良かった物がお金に化けて……じゃあ、もっと面白そうなものを探すねーってなる。
かくして、レア素材探索家と言う職業が出来上り。
……まぁ、概ね、こんな調子。
いつも明け方になると、仕事が欲しいって人達が商人ギルドの事務所のテントの前に、続々と集まってきてお仕事争奪戦が始まるってのが、お決まりになってる。
「……思ったより、人数も多くなりそうだね……材料足りる?」
パーラムさんと別れて、大鍋と格闘してるサントスさんの所に行って聞いてみる。
「そうだな……ここの奴らも色々と食材提供してくれたんだが。使い物になりそうってなるとなかなか微妙でなぁ……。正直、ちょっと心許ないかもしれん。最初に出てきてた奴らは30人くらいだったが、この分だとどうも200人分くらいにはなりそうだからなぁ……。ルーはなんとでもなりそうだが、飯が足りなくなるかもしれんな。さすがに生のどんぐり団子とカレーは合わねぇだうし、積んできた米30kg程度じゃ足りるかどうか……やっぱもっと積んでくるんだったな」
まぁ、一応リアカーに積めるだけ積んできたのだけど。
案の定って感じだった……まぁ、僕らの乗るスペース空けるってのと、道を切り開きながら進むって事も考えて、物資はそこまでたくさんは積めなかったからなぁ。
けど、せっかくだから、全員に行き渡って、お替り出来るくらいは用意したいもんだ。
「そうですね……。ここの皆って、普段、どんぐり団子なんて食べてるから、どんぐりの備蓄はあっても、お米とかありませんしねぇ……。そうだ私、コンビニまで行って買ってきましょうか?」
ランシアさんからの提案。
けど、それには及ばないかな。
「一人で持ち運べる量なんてたかが知れてるよ……まぁ、この程度、想定内だね。ミミモモ……ちょっとコンビニまで行って、お米大量持ってきて、こないだパーラムさんがラキソムから送ってくれた現地産のお米でもカレーなら問題ないでしょ。それと念の為、レトルトのパウチご飯も倉庫からありったけ出そう。なぁに、空っぽにしたって、追加発注で明日には届くから気にしない。代金は僕のツケで構わない……はい、これ僕のサイン入りの指示書ね。積み込みは先にお店に連絡して、荷役を手配しとくから、ミミモモは荷物運びのことなんか気にしないでいいよ」
「「了解でーすっ!」」
ミミモモが声を合わせて、ビシッと敬礼。
うん、いいぞ!
「なんや、オーナーはん、今回は完全ボランティアなんか? ちょっと位、金払わせたればええやん」
キリカさんが、そんな事を言ってくる。
さすがガメツイ。
「いや、今回の炊き出しの費用、パーラムさん達商人ギルドが支払ってくれるんだって。まぁ、未開市場への先行投資ってやつだよ。これでエルフさん達が外界の美味しいものに目覚めてくれれば、きっと良いお客さんになる。それに、そうなるとお金が必要になるからね。そこで商人ギルドの出番……商人ギルドは何でも買い取ってお金にしてくれるからね。エルフの作る工芸品や武器防具は高品質で知られてるから、それが定期的に供給できるとなると、かなりいい商売になると思うよ。さすがその辺、抜け目ないよ」
「なるほど……。パーラムはん、うちも感心するくらいには、やり手やからなぁ……。つまり、うちらのコンビニ中心に回っとる経済の輪に、こいつらエルフを取り込むための先行投資って事やな? そう言う事なら、ウチも納得やな」
「そう言うこと、さすがキリカさん。商売の話に関しては、理解が早いね。そんじゃま、ミミモモ! ちょっと手間だけど、暗くなるまでに戻ってこれそう?」
そう言うと、モモちゃんが何やら、モニターとにらめっこしている。
「あ、はい! なびげーしょんの予想だと、空荷ならコンビニまで一時間もあれば着くそうなんで、戻ってくる時は荷物の関係で倍の時間かかるって考えても、余裕で戻れますね」
往復で三時間……今は、午後三時くらいだから、日暮れの六時には戻ってくるって寸法か。
……来る時は、道を作りながらだったから、6時間くらいかかったけど、帰りはそんなもんなんだ。
これは、本格的にご近所さんになってしまったな……。
「なら、問題ないね! あと、お酒も……このサントスさんお勧めメモ通り、色々もらって来といて、先にお店に連絡入れて取り置きしといてもらうから、そこら辺も気にしないでいいよ。んじゃ、いってらっしゃーい!」
「「はーいっ! 行ってきまーすっ!」」
ミミモモが元気よく返事して、無限軌道車に乗り込むと、元来た道を引き返していく。
うん、やっぱ物資は豊富、潤沢でなくちゃね。
そして、それを運ぶ輸送ラインもちゃんと作ったから、完璧だ。
ふふふ、これぞロジスティクスと言うもの。
足りなくなってから、慌てて発注とかやってたら、商機を逃してしまうからね。
であるからこそ、出来る商売人は先回り調達が基本。
実は、これに先駆けて臨時便で、色々送ってもらったし、こういうイベント用に、商人ギルドから調達した大量の物資も倉庫に用意していたのだよ。
……お店に遠話の水晶で連絡を取って、状況確認と資材の手配だな……荷役の手配もしないとだけど、それは向こうにお任せでいいかな。
ラナさん、手は空いてるかなー?
「はい、オーナーさんですね!」
遠話の水晶のコールを続けていたら、ラナさんが出たようだった。
おお、良かった!
「やぁ、ラナさん。そっちの状況はどう?」
「いやぁ、テンチョーさんすごいですね。指示も的確、働きぶりも二人、三人分くらいは軽いって感じだし、通りがかりのミャウ族の子達がどんどん手伝ってくれちゃって大助かり。時々、テンチョーさん二人とか三人に増えてたりもした気もしたんですけど、気の所為ですよね?」
……ラナさんからのなんだか良く解らない報告。
まぁ、要するに問題ないんだろう。
「テンチョーいれば、大丈夫だとは思ってたけど、問題無さそうだね。あ、そっちにこれからミミモモが向かってるから、戻ってきたら、二号倉庫のお米150kgとパウチご飯120個、カレーの具材一式と業務用ルー10kgをセットで渡しといて、後はお酒も……メモ渡しといたから、ソイツもお願いするよ。後は積み込みの荷役の手配もお願いできるかな?」
さすがに、これだけ持ってくれば、今日の炊き出しは余裕で足りるだろう。
余った分は村に寄贈すればいい……食べ物ってのは、日々消費するものだから、いずれ無くなる。
無くなったら、買いに来てねーって奴だ。
「いやぁ、なかなかの大商いですね。解りました……荷役の方はちょうどウォルフ族の警備隊が一チーム戻ってきたところなので、臨時アルバイト募集って事で、先に集めときますね。まぁ、費用はギルドが負担するんで、遠慮はいりませんよ。ヨーム姉さんも森エルフと通商条約が結べるなら、安い投資って太鼓判を押してくれてます。向こうでも早速、エルフとの交易を希望する商人集めて、大々的な買い取り部隊を編成してるそうですよ」
「はっはっは……。まったく、ラナさん達商人ギルドは頼もしいねぇ。パーラムさんも堂々と集落を巡って、色々物品の売買契約を結びまくってるみたいだよ」
「そこら辺は、パーラムさんですからねぇ……。あ、オーナーさん今日中に帰れそうですか?」
「いやぁ、今夜は歓待の宴とか言ってるし、これからカレーの炊き出しとか色々あるから、戻りは明日の昼頃かな。今日の精算は、明日に先送りにするから、売上金は金庫にしまって……まぁ、その辺はテンチョーにお任せで!」
「かしこまりです。それでは委細了解いたしました……通信終わりまーす」
「はーい、よろしくーっ!」
うん、手回し完了っとね。
テンチョーは、もはや店番のプロだけど、この手の話はラナさんにするのが一番だ。
あの人、なんだかんだで、人の手配や資材調達に関しては、超一級の手腕の持ち主。
たまに毒吐くけど、人材としては一級品。
とりあえず、僕は……有力者っぽい人達に、挨拶回りかな。




