閑話休題「メシマズエルフの食料改革」④
「何言ってんですか……オーナーの魔猫族だって、その古代種族のひとつなんですよ? ミャウ族も、パリンちゃん達ニャコラ族もオーナーが命じるだけで、従う……いわば眷属のようなものなんですよ? 実際、あの子達ってやたら従順じゃないですか」
……なんだそれ?
確かに、ミャウ族の長老さんもやたら恐縮してたし、パリンちゃんの同族の猫人族の子達って、僕やテンチョーを拝みに来て、帰る……なんてやってたけど……そんなんだったのか。
「そ、そうなんだ……。でも、僕はミミモモ達を眷属とか言って、下僕みたいに使うつもりはないよ」
「そうですね。オーナーさんがエッチな命令しても、私は断固拒否します」
……モモちゃんの容赦ない地雷が炸裂。
く、空気読もうぜ……モモちゃん。
「僕は、オーナーさんの言う事なら何でも聞くよ? モモもそう言ってたじゃないか」
「言ってませんーっ! ミミも変な事言わないでくださーいっ!」
なんか、ミミモモが追いかけっこを始める。
ミミちゃんの大胆発言は……聞かなかったことにする。
と言うか、きっとその発言が何を意味しているか、自覚してないんだろう。
とりあえず、僕にはロリショタっ子揃いのミャウ族の子達で、ハーレムみたいなのを作るつもりはないぞ。
……水浴びしてたら、集団でやってきて、キャッキャウフフのハーレムみたいになった事はあるけどさー。
なんか、あの子達にやたらと懐かれるのはそう言うのもあったのか……。
「う、うん……まぁ、とにかく古代種族が凄いってのは良く解ったよ。でも、その人ってあちこち巡って何やってるの?」
「さぁ……? 唐突に、私達普通のエルフの集落にやってきては、居候して我が物顔でふるまって、気が付くと居なくなってるとか、そんな調子で……。むしろ何の役に立っていないなんて話もありますけど、その人を見習ってワタリってお役目が生まれたって話もありますし……。本来なら、私達エルフの指導者位になってても不思議じゃないんですけどね……」
……なんか、そんな感じの日本の妖怪がいたような……。
まぁ、それなりに貢献してるんだとは思うけど、そこはかとなく、ポンコツ臭漂ってるような気もする。
「駄目ですよぉ。ランシアちゃん……アージュ様の悪口はほどほどにしないとぉ。けど、うちの集落にはここ何十年も寄り付いてないらしくて……長老が他の集落の長老に、寄り付く価値もないと見限られた……なんて言われたらしく、しょげかえってましたねぇ……。私も最後に見たのは50年くらい前……ですかねぇ……」
50年前ってさらっと言ってるけど、リーシアさんって、いくつなんだろ?
お父さんが250歳、となるとお母さんは200ー250歳、ランシアさんが100歳以上だって話だから、ランシアさんよりちょっと上とかなんだろうけど。
120歳とか、150歳とか……うーむ、エルフの姉妹兄弟の年の差ってどれくらいが普通なんだろ?
まぁ、細々と生態みたいなの聞くとか失礼だし、あまり気にしないでおこう。
「ああ、私……なんかそれ解るわ。きっとここの食事の不味さに堪りかねて、ウンザリしたんだと思うよ! 絶対、そうっ! 姉さんたちには、悪いけど……この5年で人族の街を巡って、他の集落に行ったりして心底、思い知った! ここのメシマズさは、群を抜いてひどすぎる! 他のエルフと比べても、他はもっとまともな物を食べてる! つまり、私達の伝統は間違ってる……ぶっちゃけ、皆が食べてる伝統食って、あれもう食べ物じゃないって事よ!」
ランシアさんがそう言うと、周りの若いエルフたちも力強く頷くとそれぞれに、賛同の意を示す。
……最長寿の妖怪じみたエルフさんですら、寄りつかないほどのメシマズって……いったい。
「……その様子だと、高倉さんも我が里の食料事情を、ご存知のようで……」
ウダロイさんが苦笑しながら、そんな事を言ってくる。
「ええ、ソクラン君とランシアさんから、話を聞きまして……。うちは食べ物を主に取り扱ってるんで、そう言うことなら、お力になれそうかなって思いましてね」
「うん、ランシアから聞いてるよ。まったく、ありがたい話だ。場所もかなり近いと聞いているからね。帰りは今度はこっちが送らせてもらうよ。ところで、何を始める気なんだい? 一応、我々としても歓待くらいさせてもらいたいのだが……まぁ、食事や酒については、君達の口に合うのは出て来ないと思ってくれ……」
言いながら、悲しそうな顔をするウダロイさん。
「いえいえ、むしろ炊き出しでもして、うちの名物でもふるまおうかと思って。どこか広い場所でもお借りできますかね? それと火とか使って問題ないですか? エルフさんって、火を嫌うって話で、ドワーフも本来は犬猿の仲だって話も聞いたんですが……」
まぁ、ランシアさんは、フリーダムな人だし、サントスさんも異世界人にして、レア獣人なんて訳の解らない存在たる僕の下で平然と働くような人。
ランシアさんもサントス食堂の常連だし、仲悪そうには全然見えない。
ただ、身近な人達を基準に考えると、それが実はレアケース……なんて事もあって、思わぬトラブルを招く事もあるからね……そこら辺の確認は抜かり無いのだ。
「炊き出しですか? そりゃあ、皆、喜ぶとは思います……いやぁ、楽しみだ。ただ、ここだと、目立つので長老達がうるさそうですね……。我が家の下なら、少し開けてるから問題ないでしょう。火を使うのも構いません……そんな事を言ってるのは頭の固い年寄りくらいですよ。それにドワーフと犬猿の仲って……そりゃ、もう大昔の話ですよ。長老達の世代では、戦争をやってたりもしたらしいけど、私達の世代ではもうピンと来ないですから」
「まぁ、そんなもんですよね。自分が生まれてない頃の話なんてされてもねぇ……って、そんな感じでしょう」
「そんなもんですよ。実際、そちらのドワーフ殿はどうなんだね? 私達エルフが敵とかそんな話になってるのかね?」
「俺達も似たようなもんだな。俺達ドワーフはお前らエルフほど長生きしやしないし、基本的に今を生きてるからな。一杯やれば、大抵のことはどうでも良くなる。ウダロイさんだっけか? どうだお近づきの印に一杯……こいつはウィスキーって言うんだが、異世界でも特上の酒なんだ……うめぇぞ」
そう言いながら、サントスさんは愛用のスキットルをウダロイさんに手渡す。
ウダロイさんも、軽く匂いを嗅ぐと目を輝かせる。
「ほ、ほほぅ……かなりキツそうだが……! こ、これはっ! うまいっ! なんだこれはっ! そこはかとない森の香り、ほろ苦さ、透き通った酒精……蒸留酒のようだが、こんなものがあったのか!」
ウィスキーを一口飲んだウダロイさんが顔色を変えて、絶賛する。
「……どうだ? たまらん味だろ……異世界でも最高級品の酒らしいが、世界中探したって、ここまで美味い酒はない……まさに極上の酒だ」
「……私もかつてワタリだったから、人族の酒や料理も一通り堪能したものだが……。こんな洗練された酒は始めてだ。ランシア……まさか、お前……いつもこんなものを飲んでるのか?」
「私は、ビールとワインが好みなんで、ウイスキーは飲まないけど……。オーナーのコンビニなら、小銀貨1枚も出せば買えましたよね。確か……?」
「まぁ、コンビニに置いてるのはコンパクトサイズだし、高くてもそんなもんかな」
うん、実際そんなもんだ。
ウィスキーとかあんまり飲まないけど、サントスさんはお試しサイズ小瓶セットを注文して、その中で暁ってのが最強って言って、いつもそれをスキットルに詰め込んで、グビグビやってる。
暁ともなると、700mlのレギュラーサイズだと、一本7-8000円はするけど、コンビニに置いてるのは180mlのベビーボトルだから、本来2-3000円も出せば買える。
それっぽっちしか入ってないのに、その値段……割高じゃあるんだけど。
酒飲み連中は、小ボトルで小銀貨一枚でも安いとか言ってて、その値段にしてるんだけど、それでも割と人気商品で並べると割とソッコーで売り切れる。
でも、そこまで美味いのか……。
向こうじゃ、スーパーやコンビニに普通に売ってるから、そんな高級酒とか意識してなかったけど。
あれで、最強とか言ってたら、ナポレオンとか最高級クラス飲んだらどうなるんだ?
と言うか、僕も飲んだことないから知らない。
まぁ、ドンペリくらいなら、接待キャバクラで飲んだけどね。
口では、さすが最高級ワインは違うねぇ……なんて、言ってたけど、200円の無印スパークリングワインと、どう違うのか良く解らなかった。
ちなみに、サントスさん愛用のウィスキー「暁」は、サン〇リーの「響」をモデルにしてます。
ググっても出てこないよ。悪しからず。
姉妹品で、「雷」「電」ってのもあります。(嘘)




