閑話休題「メシマズエルフの食料改革」③
「ここはもう我ら森のエルフ族の領域! 貴様ら何者だ!」
美人エルフ戦士さんが現れたっ!
ハシバミ色のショートカットで、ダークグリーンの皮鎧に身を包んだ気の強そうな人。
お昼ご飯を食べてようとしてたら、突如木の上から弓を構えながら、飛び降りてきたのだった!
……第一村人と遭遇です。
「どうも、表敬訪問団のコンビニ代表兼リーダーの高倉です」
「商人ギルド代表の副マスターのパーラムです。お嬢さん、ご機嫌麗しゅうございます」
二人揃って、爽やか笑顔でシュタッと手を挙げる。
「え? 嘘……カッコいい……」
まさに、「あらやだ、何このイケメン」って感じでデレデレな感じになる美人エルフさん。
参ったな……一撃必殺かよ。
最近、ちょっとモテるような気がしてたけど、そんな自分がちょっと憎い。
ファサッと髪をかき上げてみたりなんかしながら、流し目で視線を送る……。
って、エルフ戦士さんの視線は僕ではなく、パーラムさんに釘付け。
ぐぎぎ……で、ですよねーっ!
イケメンですからね! パーラムさん。
な……なんか、死にたくなってきた。
なんて事がありながら……一緒にご飯食べて、すっかり仲良くなったエルフの里の見張り役のエルフ戦士さんと別れて、道なき道を進むこと、小一時間。
開けた場所に出ると、高い木の上に掘っ立て小屋みたいなのが並んでるのが見えてくる。
「あれが僕ら、森エルフ族の集落ですよ。思ったより早かったですね」
まぁ、夕方頃ってソクラン君は予想してたけど、実際は昼過ぎくらいには到着だったもんな。
距離的には、20㎞くらい……このアホみたいに広い森からすると、ホント、ご近所。
ミミモモもエルフの集落の事は、知ってたけど、エルフって射手としてはめちゃくちゃ優秀で、たまにとんでもない距離から矢を射ってきたりするので、危なっかしいからって、やっぱりアンタッチャブル扱い。
……うん、この辺もちゃんと話をしとかないとな。
周辺部族同士の利害調整も僕みたいな第三者が間に入る事で、すんなりまとまる事が多いからね。
集落の入口を守る門番のエルフの若いイケメンさんも、ランシアさんから話を聞いていたのか、僕らの姿を見つけると嬉しそうに歓待の意を示すと、そそくさと道を開けてくれる。
なんかすっごい期待に満ちた目なんだけど……ランシアさん、どんな説明したんだろ?
集落の真ん中の広場にも、若いイケメン、美人さんが続々と集まってきてる。
すごいな……さすが、エルフ。
顔面偏差値が誰も彼も高すぎる……。
ただ、不思議と年寄りって感じの人の姿は見えない。
もしかして、見た目は生涯変わらないとか、そんなだったりするのだろうか。
若い連中の人垣の間から、ランシアさんが顔を見せて、嬉しそうに手を振る。
その両隣には、紫色の三つ編みヘアの美人さんと、ランシアさんをちょっと老けさせたような感じながらも、ツリ目のちょっと気の強そうな感じのお姉さんがいる。
その背後には、口ひげを蓄えた温厚そうなおじさんエルフがニコニコと笑顔を見せながら、立っている。
……もしかして、ランシアさん一家?
「やぁ、ランシアさん……先触れ役、お疲れ様。えっと、その三人はご家族?」
「オーナーさんも、我が森エルフの集落へようこそ! 少なくともこの場に居る者は、心より歓迎していますから。えっと、そうですね……お恥ずかしながら、私の家族です。こっちは姉のリーシアです」
「こんにちわぁ……。妹がぁ……いつも、お世話になっているそうでぇ……うふふっ、初めましてですぅ……」
きれいな人だなぁ……ちょっとぽやーんとして、おっとりお淑やかな感じ。
口調も間延びしてて、なんともゆるーい性格をしてるようだった。
それに、ボッキュボンって感じでプロポーション抜群……エルフさんって基本的に細身なんだけど、ラフィさんとかみたいにたまに、ダイナマイツなボディの人もいる。
たまに攻撃的なところのあるランシアさんから、攻撃力をダウンさせて、母性感をさらにパワーアップさせて、ユルさを付与した感じ。
あれ? 割と完璧じゃね……これ?
リーシアさんね! うん、名前覚えちゃったよ!
「いえいえ、ランシアさんは、僕の魔法の先生ですから。とってもお役に立っていますよ」
「……ある日、冒険者になると言って、里を飛び出していったランシアが、5年ぶりにうちに帰ってきてくれてな。もう、私は嬉しくて、嬉しくて……久しぶりに親子水入らずの時間を過ごせた……。話を聞く限りでは、貴方がランシアを里に帰るように説得してくれたそうじゃないか。本当にありがとう。ああ、自己紹介が遅れてしまった……。私は、ランシアの父、ウダロイと言う。お見知りおきを願おう。こっちは妻のリファナだ」
ランシアさんの背後に居たナイスミドルが丁寧に頭を下げながら、前に出てくると握手を求めてくるので、僕もガッツリ握り返す。
奥さん……なるほど、リファナお母さんか。
目が合うとにっこりと微笑まれる……ランシアさんを更にパワーアップさせたら、こんなだろうな。
未婚のランシアさんでさえ、相当ハイレベルなのに、本物のお母さん、それも年期も半端じゃない。
もはや、母性レベルがカンスト振り切ってる……最強ママだ。
このファミリーに下宿なんかしたら、きっとバブみを感じ過ぎてダメ人間になりそうだった。
「いえいえ、こちらこそ……って、ランシアさん、5年も帰ってなかったの?」
「……ええ、実はそんな感じでして……。お父さんも昨日は、号泣しながら抱き着いてきて、離してくれなくって大変だったんですよ……。姉さんもお母さんも、皆揃って大号泣。たった、5年くらいで大げさですよねー」
全然、大げさじゃないと思うんですが……。
うちの親なんか、半年寄り付かないと、文句言ってくるくらい。
……まぁ、エルフさんの時間感覚は人間と違うし……10年位便りが無くても気にしないって話も聞くから、ちょっとこの一家は家族愛が強い方なのかもしれない。
でも、いい人たちだってのは解る。
特に、お姉さんとお母さん……この二人、たぶんこれまで会った中でも最強のママ属性親娘だ。
そういや、僕も両親と長く会ってないなぁ……。
里帰り位したいけど、なかなか難しい……メールで元気だって事は伝えてるけど。
「ところで、ウダロイさん……この集落の方って、これで全部なんですか? なんか若い人ばかりみたいだしやけに少ないような……」
若い人ばっかりで、人数も30人くらい……いくらなんでも、少なすぎるだろう。
家の数から推定すると、200人くらいは住んでいそうな感じなんだけど……。
「……すまないね。若い者はともかく、皆、よそ者を嫌う風潮があってね。私もせっかく表敬訪問という事で、わざわざ来てくれたのだから、挨拶くらいするのが礼儀だと言ったのだが……。族長に至っては、勝手な真似をするなと怒り出してしまった。私もたかが250歳の若造だ。400、500歳の長老達には小僧扱いされても文句は言えないんだが、門前払いなんて失礼な真似をする訳にはいかないだろう? 幸い三長老の一人タラス老は、元ワタリで話が解る方だからね。その人が客人を歓迎するように通達を出してくれたので、君達を客人として出迎える事自体は、何ら問題ないから安心してくれ」
「ありがとうございます。お気遣いに感謝をっ! けど、500歳ってどれだけ長生きしてるんですか……」
「そうですね……。さすがに500歳ってのはかなり長寿の部類に入りますね。でも、この大陸には1000年は生きてるエルフもいるんですよ。確か、このロメオ王国の重鎮みたいになってるって聞いてますけど。割とあちこちのエルフの集落を巡り歩いてて、今は北の山エルフの集落にいるって聞いてますね」
ランシアさんの追加情報。
1000歳ですとっ!! どんな仙人なんだ……そりゃ。
「せ、千年とか……むちゃくちゃ長生きだね。やっぱ、そこまでいくとしわくちゃな爺さん婆さんとか、そんななんだろうね」
「いえ、その方は……むしろ、子供にしか見えないんですよ。けど、凄い方なんですよぉ……魔力なんか私達とは桁が違うし、知識もすごいみたいでぇ……。いくつもの伝説に名を連ねてて、古エルフって言うエルフの上位種族……神々の時代に作り出された古代種族の生き残りとも言われていますぅ」
お姉さんのリーシアさんがそんな話をしてくれる。
うん、なんかこの人と話してると、せかせかするのが馬鹿らしくなって来るなぁ。
「そーなんだぁ……古代種族とかすごいなぁ……」
なんか、この口調伝染るな……。
ランシアさん、ご一家登場!
この話ランシアさん、ヒロインポジションの話……のはず、でしたが。
このリーシアさんが思わぬ伏兵となって、作者ですら思わぬ展開に……。




