第四話「従業員をゲット(強制)しようっ!」③
「せやな……ミミとモモなら、うち顔知っとるよ? ちょっと待っててな! 最初の仕事って事で、うちがかる~くとっ捕まえてくるから、そこで待っとってやっ!」
キリカさんがすごい勢いで、突っ走っていくと、チビ猫耳ズが一斉に、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
その中の一人……ロング髪の猫耳ロリ娘がコケて、逃げそこねるのが見えた。
「そこやっ! つっかまえたでーっ!」
キリカさんがコケた子に飛びかかる!
哀れ、ロング髪の子……起き上がった所に、キリカさんのタックルを食らって、あっさり捕まった。
更に、片足を掴まれたまま持ち上げられて、プラーン状態。
得意満面な様子で、こっちを振り返るキリカさん。
ロング髪の猫耳娘も、粗末なワンピースみたいな服を着てるんだけど、逆さ吊りにされ、必死な感じでスカートを押さえながら、なんかピーピー泣き喚いてる。
猫耳と猫尻尾、手足の先が妙に毛深くて、モコモコしてる……ケモ度の階段レベル2くらい?
と言うか、さっきのモモって子のイラストまんまだな。
「……キリカさん……と、とりあえず、捕獲っても穏便にして! とにかく、もっと優しく扱ってあげてよ! それじゃ可哀想だって……」
なんと言うか、酷い扱い……まさに、獲物ゲット状態!
流石に……これは酷い。
そもそも、誰も強制捕獲しろなんて、一言も言ってないんだけど……。
いくら強制雇用したからと言って、手荒に扱うとかそりゃないよ!
と思ってたら、キリカさんの背後から、茶色いショート髪のちっこいのが凄い勢いで戻ってきて、ドロップキーック!
「あいったーっ!」
背後からの不意打ち……キリカさんが海老反りみたいなカッコになって、ズベシャと地面に倒れ込む。
小さいとはいえ、全体重と勢いを乗せたドロップキック。
……思ったより、威力があったようだった。
当たりどころが悪かったのか、キリカさん、地面に横たわって、クタッとしてる……あの体格差で一撃って……?
っていうか、よわっ! キリカさん、SRって話じゃなかったの!
と言うか……動きが尋常じゃなかったんですけど……このショート髪っ! 強くね?
でも、僕もその俊敏な動きを目で追えていた……なんか、視界がコマ送りみたいになって、何が起こったのか、手に取るように解ってしまった。
うーん、なんだこれ? 動体視力とか上がってるのかな。
あんまり自覚ないけど、僕もなんだかんだでパワーアップしてる気がする。
一方、ショート髪がニャーニャーだかなんだか喚きながら、ロング髪の手を取ると、ロング髪も立ち上がって逃げようとする……。
助け合い、友情……そんなものが垣間見える……尊い光景だなぁ……。
……と思ったら、ロング髪の子がまたコケる……びたーんと顔を地面に打って、痛そう。
それもそのはず、キリカさんがロング髪の子の足をがっつり掴んでる。
「ミミ……おんどれ、よぅもやってくれたなぁ……。ええで! こうなったら、お前から先にいてこましたるわーっ!」
鬼の形相で立ち上がるキリカさん。
ショート髪の子も身の危険を感じたらしく、ビクッとすると背中を向けて、相方を見捨てて猛ダッシュ!
倒れたまま……見捨てられる形になったロング髪の子が、震える手を伸ばしながら、滝の涙を流す……。
ショート髪ちゃん、そこは最後まで見捨てないであげてほしかった。
にしても、ショート髪の子、めっちゃ足はやっ! 四つん這いになって、走ると言うより、跳ぶような感じで走ってるんだけど、時速40kmくらいは軽く出てるぞ……あれ!
「逃がさへんでっ! これでもくらえーっ!」
どうするのかと思ったら、キリカさんもロング髪ちゃんを無造作に放り投げると、地面に落ちてた木の棒拾って、ショート髪ちゃんの進行方向目掛けて槍投げの要領で、ぶん投げる!
危ないっ! って思ったけど、ショート髪ちゃん、急ブレーキで停止っ!
目の前に木の棒が飛んで来て、地面に突き刺さった事で、さすがにビックリしたらしく、大慌てで反転っ!
けど、それは失策だった! どっかの暴走中の人型決戦兵器みたいな感じで、すでに走り始めていたキリカさんがショート髪ちゃんに迫っていたのだ!
「おんどれ、もう逃さへんで! おとなしゅうせいやーっ!」
ショート髪ちゃんも覚悟を決めたように、キリカさんへ向き直ると、正面から掴みかかっていって、取っ組み合いが始まる!
ロング髪ちゃんは、復活したみたいなんだけど、どうしていいか解らないみたいで、座り込んだままオロオロしてる。
チラッと、こっち見た拍子に目があったので、こっちに逃げて来いとばかりに、手招きする!
考えて見れば、僕も同じ猫耳なんだ……。
仲間とでも思われたのか、泣きながら、こっちに走り込んで来た!
これは、嫌が応にでも保護しなきゃと言う義務感に駆られてしまう。
ここは、しゃがみ込んで、両手を広げてウェルカムだよなー!
さぁ! 僕の胸に飛び込んでおいでっ!
「もう大丈夫だよっ! 僕は何もしないよー! 怖くない……怖くないからっ!」
ロング髪ちゃんも、僕に向かって、何か話してるっぽいんだけど、よく解らない。
とにかく、にこやかな笑みを浮かべて両手を広げてみる! 異世界で、言葉も通じない女の子を助けるとか、まさに王道展開! 大正義ってやつ以外の何物でもないよな。
でも、一瞬、ロング髪ちゃんの目に怯えの色が浮かんだと思ったら、目の前でクニョンと方向転換して、隣にいたテンチョーに向かってジャンプっ!
えええ……ろ、露骨に避けられたよ?
なんか……ショックなんですけど。
テンチョーもロング髪ちゃんを抱きとめて、もう大丈夫と言わんばかりに、優しくギュッと抱きしめると、スリスリと頬ずりしてる。
ロング髪ちゃんも怖かったよーと言わんばかりに、テンチョーに抱き着いて、必死に何かを訴えているようだった。
うんうん、怖かったんだね!
ちと釈然としないけど、ロング髪ちゃん確保!
一方、キリカさんと正面から戦いを挑んだショート髪ちゃんは……。
上になったり、下になったりの文字通りの取っ組み合いを演じてたようなんだけど、取っ組み合いになったら身体が大きい方が強い……さもありなん。
もはや、決着が着いたらしく、クタッとした感じで、ドヤ顔のキリカさんに襟首掴まれて、ズリズリと地面を引きずられながら、こっちへ戻って来るところだった。
「なんや、テンチョーさんやったけ? ついカッとなってもうて、モモの方忘れとったんやけど、ちゃんととっ捕まえてくれたんやな! 手間が省けたでー!」
言いながら、ショート髪ちゃんを無造作にポイーっとぶん投げてくる!
「ちょッ! 雑すぎっ!」
さすがにあんまりだと思ったのでとっさにショート髪ちゃんを抱き止めようとするのだけど。
小さくても人一人なんて受け止めるのは簡単じゃない……そのまま諸共に倒れ込む!
「何やっとるねん……そんな無茶せえへんでもいいやん……」
「それはこっちの台詞! キリカさん、いくら何でも強引すぎ! そりゃ二人共確保は出来たけどさ……穏便にって言ったじゃないか!」
初っ端から、こんな野蛮ちゃんデラックス! みたいな調子で、僕は……この先生きのこれるのだろうか?
いくら温厚な僕でもキレるときはキレるんだ……ここは抗議です! 抗議っ!
「そういや、そんな事言われたような気もするなぁ……。まぁ、堪忍してや、結果オーライって奴や。つかこれが、うちら獣人の流儀なんやけどな。ドツキ合って負けたら、おとなしゅう勝った奴に従う。それが獣人の掟なんや。そんな訳で、こいつらがモモとミミやでーっ! どうせコイツら、いつもこの辺で寝とるか、プラプラしとるだけやったから、せいぜい、奴隷として、こき使ってやればええで!」
力無く僕の腕の中でぐったりしてるショート髪ちゃん……怪我はしてないけど、意識は無い様子。
取っ組み合って、ボコボコにされたらしく、タンコブやら青タンでいっぱいだし泥だらけで、あっちこっちすり傷だらけ!
何も、ここまでする事無いじゃん……ロング髪ちゃんは、キリカさんが近くに来たことで、自分もボコボコにされるとでも思ったのか、泣きじゃくっててテンチョーが優しく宥めてる。
テンチョー……やっぱ、ええ子やなぁ。
尊い光景とは、まさにこの事だ。
反面、キリカさんと来たら、暴力的極まりない情け無用の制圧行為……容赦無さ過ぎィッ!!
……けど、考えてみれば、この結果を招き寄せたのは、間違いなく……僕だ。
キリカさんのやり方は大いに問題があった……けれど、それにゴーサインを出したのは僕なのである。
「あ、あの……キリカさん、獣人のルールは何となく解ったけど、いくらなんでも、あんまりじゃないかなー? ミミちゃんの方はボコられて気絶、モモちゃんも怯えきってるし……これはやりすぎだよ。これから、一緒に仕事する仲間なんだよ?」
キリカさんの戦闘力は、極めて高い……いまので良く解った。
だからこそ、軽はずみな暴力は駄目って言い聞かせないと!
「そうかなぁ……? こいつら逃げ足も早いし、ヘタレやけど、追い詰めると猛反撃してきたりするから、意外に侮れんのやで? うちもミミに思いっきり顔蹴られたり、腕噛まれてもーたよ……あはは」
悪びれた様子など微塵にも見せず、キリカさんが笑いながら、腕に出来たじんわりと血が滲んだ歯型を見せてくれる。
よく見たら、目の周りに青タンが出来てるし、かすり傷もいっぱい……。
本人はむしろ、名誉の負傷とでも言いたげな様子。
たぶん……これ、何言っても反省なんてしてくれないな。
反省しなさいって言っても、口では解りましたって言うかもしれないけど、本人はたぶん理解できない。
なんせ、本人も言うように、今みたいに、モメたら力づくでってのが、獣人の流儀って奴みたいだからね……。
ちょっとやそっとじゃ、考えなんて改めてくれないだろうよ。
……なにより、彼女は僕の命令を実行したに過ぎない。
この場で明確な悪がいるとすれば、それは間違いなく僕! まさに、ギルティ! 反論は許されないッ!
この罪悪感は……僕自身の罪であって、キリカさんにはなんの責任も問えない。
責任者たる、僕自身が全て受け止め、飲み込んで行くしかないのだ!
それが奴隷とご主人様の関係というもの……僕もひとつ、この世界の流儀ってもんを学んだ気がした。
「解った……とにかく、キリカさんもご苦労様……。テンチョーも、そっちのロング髪……ミミちゃんはどんな感じ?」
「うにゃっ! とりあえず、もう逃げたりはしないって言ってるよ。ちっちゃい子には優しくするのにゃー!」
テンチョー尊過ぎて、ギルティな僕はもうまっすぐ、その目を見れないっ!
小さい子には優しくする。
……猫って意外とそう言う所があって、大人猫って子猫に危害を加えないんだよな。
人間相手でも、猫って赤ちゃんには絶対手を出さなかったり、全然関係ない子猫や子供の面倒見たりだって、するんだよな……。
同じケモミミでも、キリカさんが容赦無かったのと対称的……。
と言うか……この世界のケモミミ……平等でも平和でもないんだな。
「ケモコミ」の世界は、一見殺伐としてるように見えて、その実……皆が助け合って、仲良くしてる平和な世界だったんだけど。
力こそが正義……そんな世界観を僕は垣間見たよ?
まさに、弱肉強食ファンタジー……世知辛いな。
かくして、新従業員をゲットしつつも、僕はこの世界の現実を垣間見た思いがした……。
どうもこの回、ブラバ率が高かったみたいなんで、大幅改稿。
ミミモモは、もう少し穏便にゲットされた事にしました。
テンチョー大正義っ! 正ヒロインってのはこうでなくちゃ!
オーナーはギルティ悪化だけど。(笑)
なんか、文字数2000文字くらい増えちゃった……長く感じたらゴメン。
そのうち分割も検討してます。




