第三十四話「ロメオ王国宰相高倉健太郎」④
「確かに……鹿島さん達は、信じるには値するとは思うけれど。それでクロイエ様が納得するかと言えば、そう言う問題でもないと言うのは、確かなんだよね……」
僕の言葉に、クロイエ様も真剣な表情で頷いてる……我が意を得たり、まさにそんな感じ。
まったく、我ながら、以心伝心とはよくやってるよ。
「そう言うものですよね……解ります。ならば、どうでしょう、クロイエ陛下と高倉閣下の両氏に、我が国へ直接、来ていただくのは?」
……てっきり、安否情報の一つでも寄越すと思ったのに、意外な提案だった。
んー、直接日本に確認しに来いって事か。
こりゃ、絶対なんかありそうなんだけど……この場で、教える気もないんだろうし、正式な理由があっての招待となると断りにくいな……。
と言うか、ここでこの招待を断って、クロイエ様を納得させられる自信は、ちょっとないな。
「た、確かに前もそんな事言ってたけど……。そもそも、可能なの? そりゃ、和歌子さん達のトラックの荷物に紛れて、便乗すれば出来なくもないんだろうけど……」
「うーん……そりゃ、ちょっと難しいね。あたしらも実は、この世界の女神様と協定を結んだ上で、この商売やってるんだけどね。異世界同士の物のやり取りは問題ないんだけど。人を運ぶのってご法度なのよ。その辺の話し合いはうちのボスがやってるんだけど、ドライバーのあたしは、休憩で長時間滞在だのなんだの、いくらでも言い訳が効くけど、誰かを便乗させて行き来するってのは、多分ボスの許可が降りないだろうね」
神様と直接交渉できるとか、和歌子さんとこのボスって何者なんだか。
でもまぁ、和歌子さんがそう言うなら、そう言うことなんだろうけど……そうなると、あの人はどうなってんだろう?
素朴な疑問が湧いてくる。
「……でも、オッドボールさんだっけ? あの人、思いっきり日本の関係者で、和歌子さんが連れてきたんだよね?」
オッドボールさんは、今日もブンちゃんズとラドクリフさん達と一緒に、最前線で睨みを効かせてるはずだった。
人の行き来がご法度って事なら、あの人はどうなんだろ?
もう二週間は軽く滞在してる……和歌子さんですら、いつも日帰りか良くて一泊なのに、どう言うこと?
「オッドボール氏は、元はそちらの世界の……それも帝国軍の方なんですよ。日本に送り込まれた帝国の情報収集コマンド部隊の一員だった……そう言えば解りますか?」
話を聞いていたらしい鹿島さんが割り込んで来た。
「え? あの人ってそんなだったの!」
あんまり話をする機会も無かったんだけど、確かに日本人と言うより、思いっきり白人系……パーラムさんと同じ様に北欧系の雰囲気に思えたんだけど……。
考えてみれば、こっちの言葉も不自由してなかったし、割とすんなり順応してるように見えたけど……そう言うことだったのか。
「はい、オッドボール氏は、帝国軍の一兵士として、こちらの世界へやってきて、我が方の特務戦隊と交戦し、その所属部隊は全滅……。オッドボール氏一人だけが負傷しながらも、降伏の意思を示したので、人道的見地から保護させていただきました。元々帝国からも半ば懲罰として送り込まれたとかで、帝国打倒の意思を持ち、我が国の為に戦うと誓ってくれたので、軍事訓練を施し、各地の紛争地帯で、近代戦の実戦経験を重ね、帝国と戦う日に備えていた……そんな経歴の持ち主です」
「そ、そんなだったんだ……。やたら、実戦慣れしてたし、帝国の戦術にも詳しいみたいだったけど……そう言うことか」
「そう言うことなんですよ。異世界人を元の世界に戻すと言う事なら、特例事項のひとつとして、神性存在との協定にも抵触しませんから。なので、高倉閣下もこちらへ戻る分には問題ないのですが……片道切符になる恐れもありまして……。その場合の日本での受け入れ先はもちろん、我々がご用意いたしますが。それは、不本意なんですよね?」
「そりゃまぁ、僕はこっちで骨を埋めるつもりですから、不本意に決まってますよ。とにかく、事情は解りました。けど、涼介さんはどうやって? 地続き同然に気楽に往復してたみたいだから、協定なんてガン無視ですよね? おまけにアージュさんなんかも連れってたんだよね? 使徒は例外とかそんなんなんですかね」
「そ、そうですね……。いつも突然現れて、突然いなくなる。そのような感じでして……。過去の担当者もアレは手に負えない相手だと、報告書に書き記していましたね……。使徒の方は、そちらのテンチョー様以外にも何人かツテはあるんですが、使徒と言えど、女神の協力なしでの行き来は出来ないですし、そもそも異世界転移自体が神性存在の奇跡による超空間ゲートを経由して行われるものでして……。異世界急便も同様なんですよ」
和歌子さんをちらっと見ると、無言で頷かれる。
なるほど……鹿島さんの言ってることは嘘じゃないんだな。
「うーん、そうなると涼介さんは何らかの抜け道みたいなのを使ってた……その可能性が高い訳か」
「そう言うことですね。申し訳ない、こちらから提案しておきながら、クロイエ様をこちらにご招待と言うのは、意外と難しそうですね。ですが、何事も例外はあって然るべきだと思いますし、事情が事情ですので、こちらで神性存在と交渉してみます。少しお時間頂くことになるかも知れませんが……」
「うーん、出来れば、その女神様に口出しされるような状況は避けたいな……。悪いやつじゃ無さそうだけど、なんかやる事なす事、雑って感じだし、何しでかすか解らないんだよねぇ……。クロイエ陛下、陛下は何か聞いてる? クロイエ陛下も転移能力持ってるみたいだけど、あれって似たようなもんだよね? ……っと、すみません、鹿島さんちょっと相談タイムって事で!」
「はい、かしこまりました。あまり、深入りすべきではなさそうなお話ですからね。私は何も聞かなかった事にしますので、ごゆっくりどうぞ」
今度は、ちゃんと了承を得た上でミュートタイム。
モニターもそのまんまなんだけど、鹿島さんは鹿島さんで、湯呑でお茶なんか飲んでる……余裕だなぁ……。
まぁ、ゆっくり相談してねって事なんだろう。
そういや、クロイエ様の転移能力は、国家最高機密って話だった……。
うっかり、鹿島さんの前で口を滑らせてしまったけど……これから、僕もそう言うことを注意すべき立場なんだから、言動には気をつけないと。
「ごめん……ちょっと、余計なこと言ったかも」
「良い、気にするな。父上の異世界転移能力について聞きたいのだな? あの能力は女神とは関係ない能力で、父上の組み上げた独自魔術だと言う話だ。私は、その魔術を使役するための魔術器官をそっくり受け継いだようでな。父上がいなくなってから、父上がやっていた事をそのまま真似をしただけで、空間転移については、簡単に使えてしまったのだ。おかげで、細かい理屈とか、魔術理論もよく解っていない……。異世界転移もおそらく不可能ではないと思うのだが……試したこともないので、出来るかどうか解らないのだ」
異世界転移の術式を自力で組み上げたってのか! リョウスケさんって、改めて聞くととんでもない人だったんだな。
けどそう言う事なら、テンチョーも異世界間転移魔術を使える可能性があるのか……?
けど、何処にでも瞬時に転移出来るなんて、危険過ぎる力だろう。
それこそ、戦術核どころか、戦略核にも匹敵する脅威だ。
場合によっては、世界そのものを敵に回しかねない……国家最高機密と言うのも納得だ。
クロイエ様にもその辺りは、良く言い含めておかないと……だな。
「なるほど、概要は解った。そう言えば、アージュさんの行ったことのあるところなら、どこでも行けるとか言ってたけど。それはどうやってるの?」
「ふふん、そこら辺は、我が天才故にじゃな……。我とクロイエの意識をリンクさせる特殊な術式を用いるのじゃよ。我が行ったことのある場所の風景を脳裏に浮かべると、それがクロイエにも伝わる。その上で、地図などで大まかな位置関係を示せば、クロイエ自身が行ったこともない場所でも飛べる……そんな感じじゃよ。まぁ、我もリョウスケ殿の転移魔法には、散々世話になったし、当然ながら、クロイエの転移魔法の有用性も良く解っているのでな。二人で色々と研究したのじゃよ」
「そうなると、ここへは、どうやって来たの? アージュさんとは別行動してたよね?」
「私も、商人たちから直接、このコンビニの話を聞いていてな。おおよその場所の見当は付けていたのだ。この街道も馬車であったが、通った事くらいあるからな。この近くに泉があるだろう? そこで野営したことがあってな……そこまで飛んで、後は歩いてきた。ただ、うろ覚えだったせいか、座標が盛大にずれて水の上に出てきてしまった。おかげで下着までずぶ濡れになってしまってな……。一旦、城まで着替えに戻る羽目になってしまったのだが、うっかり財布なども置いていってしまってな。イザという時のために靴に仕込んでいたへそくりを使わざるを得なくなったのだが……その結果は、卿も知る通りだ」
なんとも危なっかしい真似をしてるなぁ……。
金貨しか持ってなかった事や、服装がやたら小奇麗だった理由が解った。
……泉にドボンして、お城に戻って、出直ししたのね。
んで、お財布置いてきちゃったと……ドジっ子じゃん。
つか、そんなのお手軽すぎるだろ……ちょっとコンビニまで、みたいな感覚で数百キロを瞬時に行ったり来たり……。
それにしても、行動力だけはやたらとあるって印象だったけど、やっぱ、そんな感じか……こりゃ、確かに手綱持ちが必要だ。
けど、アージュさんが行ったことのある場所でも飛べる……となると、日本にも飛べるんじゃないのか?
「ねぇ、アージュさんって、日本に行った事あるんだよね。そう言う事なら、同じ方法でクロイエ様の転移魔術でぴょーんって行けたりしない? 本質的には、涼介さんの異世界転移魔法と同じなんだよね?」
アージュさんも一瞬考え込むと、手をポンと打つ。
あ、今気付いったっぽい。




