第四話「従業員をゲット(強制)しようっ!」②
「構わん! やってくれ! っと、その前にキリカさん、一応聞くけど、従業員として雇用されてなにか問題があったりしたかな? あと逃げたりしたらどうなるんだ……それ」
……悪魔的な指示を告げると当時に、少し気になった事を確認する。
逃げたら、文字通り首が飛ぶとか嫌過ぎる……そんなの悪魔的どころ、正真正銘の外道である。
けど、何らかの罰則がないとエスケープする従業員への抑止力にならない。
その辺は、綺麗事抜きで必要だ。
日本だと、普通に犯罪者として警察沙汰にしたり、タチの悪いケースなら、ヤクザ屋さんに後始末を頼むなんて手もある。
レジの金を持ち逃げされたようなケースの場合でも、ヤクザ屋さんに頼めば、頼んだ時点で半分くらいは戻ってくる。
警察沙汰にしても大抵捕まえてくれない上に、お金も戻ってこないと散々な結果になるのが常なんだよなぁ。
警察って、民事非介入とか言って、その手の犯罪捜査なんて真面目にやってくれた試しがない。
けど、ヤクザ屋さんに回収を依頼すると、要するにヤクザ屋さんへの債権ということになって、そりゃもうきっちり追い込んで、暴利な利子付きでガッツリと回収してくれる。
まぁ……逃げたやつがどうなるのかとか、僕は知らないけど。
業界ブラック人材リストなんてのも存在するし、そんな悪魔的な回収方法もあるからね。
黙って辞めるどころか、金持って逃げるとか言語道断……そんな外道は相応の報いを受けるべき。
なんて話を若い子にすると大抵ドン引くんだけど、幸いにしてそんな悪い奴は、うちのバイトでは一人も出していない。
……やらかしそうな奴なんて、面接で落とすに決まってんじゃん。
異世界だとどうなるんだろ? キリカさんの話だと契約の概念くらいはありそうなんだけど……。
気になるねー。
「むしろ、うちパワーアップしたくらいやで! 心配要らへんって! まぁ、奴隷契約を結ぶと、本来は奴隷契約の首輪ってのをつけさせられて、ご主人様のコマンドワード一つでキュッと締まるようになっとるんやけどなっ!」
……思ったより、酷い。
地球の奴隷のほうが、手かせ足かせ程度だから、まだ良心的だ。
「んと……従業員契約の場合は? 何か制約がある感じなのかい?」
「せやな……ダンジョンの守護者契約の場合、生きるために必要なマナ供給がダンジョン経由になるらしいんよ。……黙って逃げたら、マナ供給が止まって普通に死ぬやろな。そんな訳で、奴隷契約も、ダンジョンの守護者契約も逃げたら死ぬってことは変わりないんやないかな」
あっさりとそうおっしゃるキリカさん。
テンチョーも事の重大さを解ってないらしく、ぽやーんとした表情で、僕の顔を見つめる。
「……死ぬって、大問題じゃないか! それ、ヤバイんじゃないのか?」
「まっとうな奴は、黙って逃げたりはせんやろ。まぁ、ダンジョンの守護者契約と同じって仮定なら、やっぱり勝手に逃げたら、命に関わるのは確実やろな。けど、要は勝手に逃げなきゃええんやろ……そう言う事なら、何の問題もあらへんよ」
……なにそれ、怖い。
でも、キリカさんはすでに、契約済み。
キリカさんは、もう逃げられないと自分で公言してるようなもんだった。
でも、本人はむしろ、本望みたいな感じ……。
ああ、こうなったら、一人も三人も大して変わらないよね?
「いやいや、そう言う問題じゃなくてな……」
思わず、セルフツッコミ!
僕の中の悪魔的な何かと、良心的な何かがせめぎ合っている。
奴隷、強制雇用……どれもなんか、人として間違ってる気がするんだ……でも、でもっ!
もう手遅れなんだよな……ははっ!
「せやなぁ……強制雇用っても、たぶん、そこらにいるミャウ族辺りでもフン捕まえるとか、そんなになっとると思うでっ! どうせ、あいつら年中腹減ったって、騒いどるだけの怠け者共ばっかやからな! 構うこたぁあらへんって、奴隷だって食いっぱぐれせんと思えば、そんなに悪くはないんやで!」
キリカさんが気にするなといいたげに、僕の肩をバンバン叩く……そうか、そう言う考え方もあるんだよなぁ。
実際、キリカさんは、自分の命がかかってるにも関わらず、気にも止めてない様子。
彼女にとっては、異世界人である僕に信頼され雇用される事は、命をかけても割に合う……そう判断してる訳だ。
そこらにいるチビどもにしたって、年中飢えてるような連中なのだとすれば、十分な仕事もないのかも知れない。
仕事がなくて、お金も手に入らず、食べ物も買えず、自給自足の餓死と隣り合わせの生活。
まさに、野良猫ライフ!
それと比べたら、奴隷生活の方がまだマシ……その理屈は解る。
戦争奴隷や、犯罪奴隷とかだって、その場で殺されるよりは全然マシだからなぁ……そうっ! 奴隷制度が悪なんじゃない。
結局……使う側の問題なんだ。
普通に人を雇っても、権力や立場を傘に来て、無茶な仕事をさせたり、雇用される側に犠牲を強いる……なんてのは良くある話だ。
コンビニ経営だってそうだ。
フランチャイズという名の看板を借りる代わりに、本部は様々な制約を経営者にかけて来る。
割高な定価販売も24時間営業も、本部がそうしろと言うから、こちらも渋々従っているのだ。
もちろん、建前上……本部の意向には強制力はないと言うことにはなっているのだけど。
本部の意向に従わないと、契約解除をチラつかされたり、酷いときには同系列店が向かいや隣に建ったりする。
季節商品のノルマとかも、普通に売れる量なんてたかが知れてるのだけど、あなたのお店にはこれだけ売って欲しい……なんて調子で、あり得ない量の商品を押し付けられる。
文字通り、桁が間違ってるようなクリスマスケーキやら、恵方巻きやら……。
そして、売れ残った分の費用はこっち持ち……理不尽だけど、それが当たり前のようにまかり通っている。
人が居ないから、24時間営業はもう無理だと言っても、今度は本部直属の応援要員なんてのを無理矢理送り込んでくる。
そいつらも当然ながらタダじゃない。
普通にバイトを雇うのと比べると、軽く倍くらいのコストがかかるのだけど、そんな奴らを半ば無理やり使わされる……。
実際、連中はプロだから、頼りにはなるんだけど、そんなのに頼ると、赤字確定となるから、長々と使う訳にはいかない。
だから、結局回り回って、オーナーやその親族が、人手不足の穴埋めをする羽目になる。
なにせ、自分が店に出れば、その分の人件費はタダだから。
親族や家族なら、帳簿上倍額払ってる事にして、実際はその半額程度が給料って事になってても、納得してくれる。
だからこそ、オーナーやその家族や親族が主力従業員になって、深夜はオーナーワンオペで……なんて、コンビニは当たり前のようにある。
どこもそうやって、無理矢理回しているのだ。
フランチャイズという名の奴隷契約……僕も常々そう思っていたのだけれど。
それが知られざるコンビニ業界の実態だった。
でも、商売ってのは綺麗事じゃやっていけない……。
時には鬼になって、非道な決断もせねばならないのだ。
テンチョーが、結局どうするの? って感じで首をかしげているので、改めて、決意と共にテンチョーに向かって頷く。
答えるように、テンチョーが頷いて、強制雇用のボタンを押すと、たった今、強制的に雇われた二人分のステータスが表示される。
名前:ミミ
種族:獣人(小猫種)
レアリティ:HN
クラス:ウィンパー
能力値
パワー:3830
速さ:5360
知力:1420
根性:4300
体力:3390
魔力:1110
総合力:15110
スキル
白兵戦3
盗賊2
レンジャー1
特記事項
のうきん
名前:モモ
種族:獣人(小猫種)
レアリティ:HN
クラス:ウィンパー
能力値
パワー:830
速さ:4160
知力:3620
根性:1300
体力:2240
魔力:3560
総合力:15710
スキル
白兵戦1
治癒術1
元素魔術(水)1
レンジャー1
特記事項
ヘタレ
……良く解らないけど、店員二人ゲット?
「……ここれで、雇用されたって事か?」
どうでも良いけど、この辺のパラメーターとか、レアリティって何なんだろ?
そもそも、基準がサッパリ判らん。
しかし、レアリティHN……か。
ソシャゲなんかだと、いわゆる餌扱いされたりとか、そんな扱いが定番なんだけど。
そこら辺にいるような連中だから、珍しくも何でも無いって事なのかなー。
事実、能力値もキリカさんに比べると控え目。
やっぱり、今回もイラスト付き。
黒髪ロングヘアで涙目になって、両手で頭抱えた見るからに気弱そうなネコ耳ロリっ子と、ドンッとこっちに指突き出してる茶髪でショートカットのやたら気の強そうな……やっぱりネコ耳ロリっ子が並んでる。
かわいいな……これ。
でも、このイラストって……誰が描いてるの? 絵師さんだーれ?
うーん、どこかで見たことあるようなタッチなんだよね……。
と言うかクラス名のウィンパーって……。
確か、英語のスラングで「雑魚」とかそんな意味だったような……。
特記事項も「のうきん」に「ヘタレ」って……。
なんか、扱いひどくない?
とりあえず、キリカさんは結構ハイスペックなのは解った!
総合力がこの二人をまとめて足しても届かないくらいには高い。
僕とかテンチョーって、どんなもんなんだろ?
ステータス、見れないかな……と言うか、僕だって、自分の能力値とかレアリティとか、気になるよ?
まぁ、弱そうなのは解ってるんだけど……。
もし、レアリティNとかだったら、泣くね! 絶対!
「登録できたって事はもう、うちの子って事だよね! でも、どんな子なんだろ? 少なくとも近くにいるのは確かだから、探しに行こうっ!」
とりあえず、ノリノリなテンチョーと一緒に店の外に出てみる。
相変わらず、木の陰や草むらから、ちっこいのがコソコソとこっちを覗いてる。
なるほど、全然解らんっ! だが、手掛かりはある!
さっきのイラストと同じやつを探せ!
『MISSION1 新規従業員を狩りたてろ!』
まさに、悪魔的ミッション・インポッシブル! ヒャッハー! 狩りの時間だぜっ!
オーナー……だんだん、ノリが世紀末風に……。(笑)
ちなみに、新聞屋業界では新聞代払わない顧客の請求書をヤクザ屋さんが額面の半額ほどで、買い取ってくれるというシステムが実在します。
業界ブラックリストもFAXで回ってくるのよ? 悪さした奴はろくな目に合わない……これ世の真理ね。




