第三十話「灰色の正義と悪」②
「そ、そうか……執政者がスジを通さないと、その国は独裁国家と変わりなくなってしまう……か。確かにそうだな……。さすが、店主殿……伊達に年を取っていないし、長年商売に携わっているだけに、清濁併せ呑む事も出来るのだな。綺麗事だけでは世の中、渡っていけない。父上もそんな話をしていたのだがな……。所詮、私はまだまだ子供、そう言うことか。周りに煽てられて、思い上がっていたのかもしれないな……」
何か色々思うところがあったようで、独り言のように悔しそうに爪を噛みながらそんな事を呟いてる。
まぁ、ちょっと大袈裟に言い過ぎたかな。
この娘も親御さんに意見するとかそんなもんだったんだろうし、真っ直ぐな考えをしてるってのもよく解る。
正義の味方に憧れる……子供なら、そんなのは普通だろう。
この娘は、貧しい人や困ってる人を放っておけない……きっと性根の優しい子なんだろう。
ちょっと、わがまま放題で育ったのかも知れないけど……その辺は何となく解る。
領地経営でのちょっとした不正、えこ贔屓とか目にして、親御さんに直接文句を言ったりしたことも、あったのかもしれない。
まぁ、別に、クロコちゃんをやり込めるのが目的じゃないし、フォローはしないとな……大人として!
「いやいや、君は子供にしちゃ解ってる方だよ。君くらいの年の子なんて、本来食べ物の事とか、遊ぶこととか、それ位で完結してるもんだよ。その点、君は世の中を見て、色々考えてるし、貴族と言う立場の者が持つべき矜持ってもんを解ってる。なにより、大人の言うことをちゃんと自分で考えて、理解も出来る。凄いと思うよ……君はきっと良い人々の規範……まさに、貴族の手本になるだろう。君みたいな子が、先を見て将来を考えていてくれるなら、この国の未来はきっと明るいだろうさ」
実際、僕なんかが子供の頃は……アニメや漫画の続きのことや、学校や遊び。
食べ物の事と、ほんの細やかな家の手伝いとかそんな程度だったな。
経済とか、世の中のことなんて関心も無かった……そんなもんだろ、普通。
「そ、そうか? まったく、店主殿の言う事がいちいちもっとも過ぎて、自分の見識の無さや、不甲斐なさに落ち込みそうになっていたのだがな。そう言ってもらえると少しは救われる思いだ。店主殿は王侯貴族の矜持や誇り……そう言ったものにも理解があるのだな。日本には貴族も王も居ないという話なのだが……店主殿を見ていると、そんな事は無いのではないかと思えてくるな」
うーむ、なんかこの娘、日本と言う異世界の存在も日本のことも知ってるような感じだよなぁ。
リョウスケさんって言う日本人が王様だっただけに、日本の情報もかなり広い範囲に出回ってるのだろうか?
実際、たまに漢字や日本語が読める人ってのもいるにはいるんだよな。
クロコちゃんについては、僕が猫耳の日本人って事をなんとも思ってないみたいだし、コンビニの商品名とかもさらっと読めてたみたいだし……。
まぁ、そんなもんなのか……。
「なにせ僕は、君の言うようにあのコンビニの店主だし、この村の村長みたいなもんでもあるからね。なんか、自然とこうなっちゃったんだけど。何かあると全部、僕が切り盛りしないといけなくなってしまったんだよ……。難儀な話だけど、皆の代表者って言う意味では、君みたいな貴族とそう立場は変わりないと思う。とりあえず、立ちっぱも何だし、座ろうか……こんなところで立ち話もなんだし、楽にしようよ」
言いながら、適当な所に座り込む。
うん、フカフカな座布団までご丁寧に用意してある……イイね!
でも、この無駄に豪華なテーブルは後々返却して、安めの汚してもいいようなのに取り替えてもらおう。
これはさすがに、皆萎縮しちゃいそうだ……。
2-3個ばかり流用して、奥の方に個室でも作って、VIP席にする……というか、始めから、そんなんでも良かったな。
「まったく、私に命令したり、こき使った挙げ句に説教までしたような者は店主殿が始めてだぞ。では私も座らせてもらうとするかな……」
言いながら、僕の隣の座布団に、ちょこんと座る。
スカートをちゃんと整えて、正座……とってもお上品。
こっちはだらしなく、背中を曲げてテーブルに肘を付いてるもんで、目線が並ぶ。
目が合うと、ニコリと微笑まれる。
けど、正座まで知ってるとは、感心感心……でも、それ、何分持つのやら……。
僕なんかでも正座なんて、せいぜい10分、30分とかになるともう拷問だ。
爺さんの法事の時は、キツかったなぁ……。
「もう、お仕事は終わったんだから、店主殿はもうよそうよ。それに正座なんてやってたら、足がしびれちゃうから、気楽に足を崩してくれて構わないよ。呼び方も高倉のお兄さんとかでも構わないし。ああ、いくら貴族様でも年上の人を呼び捨てとかは駄目だよ。年長者には敬意を払う……これは世の常識。まぁ、世の中には1000年も生きてるのに、自分の仕事をほったらかして、温泉入って飲んだくれてるようなのもいるんだけどね」
そう言うと、クロコちゃんが何かツボに入ったらしく吹き出す。
まぁ、どこの誰とは言わないけど、どっかの1000年エルフさんの事なんだがね。
あれは酷い……見かけは幼女だけど、中身は駄目な大人を煮詰めたような人なんじゃないか、って気がする。
「そ、そうだな! では、その高倉お兄ちゃんとでも、呼んでやるとするかな」
うぉっ! お兄さんじゃなくて、そう来たか!
お、お兄ちゃんと呼ばれる……なんだこの新鮮な感覚はっ!
本来、おじさんとかおっさん呼ばわりでも文句なんて言えないんだけど。
……小さな子にお兄ちゃんと呼ばれる……か。
くっ! お、思った以上に破壊力あるなぁ……なんか、ハートにズキューンと来たっ!
守りたい……この笑顔! この子の為なら何だってしてあげたい……そんな衝動が湧いてきたよっ!
これはいかんね……まったく、危うし、危うし……。
「そ、その……なんだ! 正直言うと僕、「おっさん」呼ばわりでも、反論出来ないくらいの年だからねっ! 皆、普通にオーナーさんとか、そんな感じで呼んでるから、それでもいいかな。でも、お兄ちゃんか……はははっ! 年の離れた妹でも出来た感じだよ」
「なんだ、半ば冗談だったのだが、まんざらではないようではないか。私もお兄ちゃんとかいればよかったと、昔から思っていたのだがな……すまん、呼んでみたかっただけだ。もっとも、さすがにお兄ちゃんは馴れ馴れしすぎるな。せめて敬意を込めて、高倉オーナーと呼ばせてもらおう。なぁ、お兄ちゃん!」
べ、別に、お兄ちゃんでも良かったんだよ?
……と思うのだけど、あまり執着するのはどうかと思うから、ここは抑えよう。
でも、今のお兄ちゃん(にぱー)とか、実に良かった……まさに、世のオタク垂涎の笑顔120%だっ!
「う、うん……そうしてくれ」
なんだろう? この残念な思いは……本当に言いたい言葉は、そうじゃないんだろう? と囁く声が聞こえてくるようだった。
……ぼ、僕は悪いロリコンじゃないーっ! と言うか、そもそもロリコンでもないんだって!
「それにしても……相当身分の高いものの来訪を受けるようだが。その者に対して、高倉オーナーはどのような印象を持っているのかな? いや、深い意味はないぞ……いささか興味があるのでな。差し支えなければ、是非聞いてみたい……駄目か?」
言いながら、正座したままぐいっと顔を乗り出してくる。
うぉっ……近いっ! 近いよっ!
けど、こうして見ると、綺麗なツヤツヤの黒髪で顔立ちも整ってて、普通に美少女だ。
肌もすべすべで、触り心地とか凄く良さそう……ほっぺたとか、なでたらどうなるんだろう?
思わず、手を伸ばしそうになってしまって、微妙に後ろに下がってしまう……って、何やろうとしてたんだ、僕はっ! ぎゃわわーっ!




