第二十七話「温泉に行こう!」①
「おう、オーナーさん! とりあえず、残りの作業工程も仕上げくらいなんだが。豪華にっても何処をどうすりゃいいんだか……。今更、石造りとかには出来ねぇから、その辺は妥協してもらうしかねぇぞ」
ドランさんが僕のところまでやってきて、相変わらずのでかい声で怒鳴るように、説明してくれる。
年中、イライラしてるような口調なんだけど、ドランさんのこれは平常運転だから、僕も今更気にしない。
「そうだね……。とりあえず、仕上げと照明やエアコン取り付けでもやっといてよ。物自体はすでに届いて、搬入済みだし、取り付けマニュアルもある。電線もここまで張ってもらったから、電気も使える。これ絶対ポイント高いと思うんだよね。まぁ、解んなかったら、僕に聞いて。それと簡単でいいから、露天風呂にも照明付けて、目隠しでも作っといてよ。さすがに王族の人なんだから、フルオープン露天風呂とか、嫌がりそうだ」
「うーん、さすがに俺らもあの電気工事ってのは、苦手なんだが……。だが、あれはあれで、興味深い技術ではあるからな。何事も経験だからな……なんとかしてやるさ! しかし、露天風呂に囲いってのは、どうかと思うぞ? 屋外ならではの夜風を浴びて、星空を眺めながらの一杯は格別だ。そもそも、水浴びなんぞで人目を気にするとか、どんなヘタレだって話だよ」
「まぁまぁ、相手は人族の女性なんだから、それくらい配慮しよう。君らだって、同族の女性はそこまで開放的じゃないだろ?」
ドワーフの女性で知ってるのは……ドランさん達の食事係担当のカルサさんって人と、リードウェイさんとこの炎術師のフロドアさんくらいかな。
……どっちも二の腕すら見たことないな。
カルサさんとか、油断してると髭が生えるとかぼやいてたので、人知れない苦労も多いらしい。
「そ、そうだな……女は奥ゆかしい方がいい。エルフ共みたいに、恥じらいをどこかに置き忘れてきたような女ってのは考えもんだぜ」
その辺は善し悪しだと思うけど……ドワーフさん達の価値観だと、野郎は全裸フルオープンありありだけど、女性は奥ゆかしくあるべし……なんだな。
わがままだな!
「まぁ、そんなもんだよ。とにかく、ドランさん達には、今後も色々と作ってもらうことになりそうだからね! ひとつよろしく頼むよ」
「任せな! 旦那は次から次へと、面白い仕事を任せてくれるからな。職人冥利に尽きるってやつだ。実は、他の地域の同胞にも、ここの話が伝わっててな……。皆、興味持ってるようだから、どんどん移住してくるかもしれん。まぁ、その時は是非、受け入れてやってくれ! 俺達ドワーフは、なかなかに役に立つんだぞ?」
「ははっ! 言われなくても、ドランさん達ドワーフの有能っぷりは思い知ってるよ! じゃあ、内装の方はよろしく頼むよ! 僕は露天風呂をアージュさんに見せて、色々ダメ出ししてもらうつもりだ。なんか、色々注文入ったら、よろしく頼むよ。それと資材が届いたら、食堂の改装もするから、仕事はてんこ盛りだよ!」
「うへぇ……旦那も人使いが荒いねぇ……アージュさんも、お手柔らかに頼むぜ!」
「まぁ、我もまだ見とらんから何とも言えんが、お主らが工事担当なら、遠慮なく注文させてもらうとするかな!」
「はっはっは! それなりに自信作だから、好きなだけ見ていってくれ!」
……ドランさんと別れて、アージュさんと裏手の露天風呂に回る。
露天風呂と言っても、宿屋の裏の空き地に穴をほって、石を敷き詰めて、岩風呂っぽくしたような代物。
水も茶色っぽく濁ってるせいで、露天風呂と言うよりも、貧相な池にも見える。
見た目だけ真似て、原理を理解せず、ただ斜めの棒が岩の上に置いてあるだけの鹿威しモドキが何とも言えない哀愁を漂わせている……。
「どう? 池に見えるかも知れないけど、一応お湯を張って肩までつかれるようにする予定なんだ」
……さすがに、ボイラー設置は間に合わないだろうけど。
ぬるま湯に浸かって、温泉気分くらいは堪能できるんじゃないかと。
「ほほぅ……これは、知っとるぞ! 確か、露天風呂とか言うやつじゃろ?」
おお、ひと目で解るとはさすがだ。
「ご明答。池って言われても仕方がないと思ってたけど……。アージュさんも、露天風呂知ってるんだ。もしかして、ロメオ王国では流行ってたりするの?」
「さすがに、湯を沸かして……等という贅沢はあまりせんな。リョウスケ殿の拘りで王宮の庭園にも、これと似たような物が作られておったのじゃよ。奴が居なくなってからは、誰も使っとらんから、ただの水たまり同然になってしまったのじゃがな……」
「そうか、なんか勿体無い話だけど……。確かに風呂なんて贅沢、なかなか出来ないだろうしな。本来は湯を沸かすのだって、苦労するだろうからね。となると、どんなのかも大体解るのかな……例のお姫様も」
「そうじゃな……クロイエのヤツも、王宮の露天風呂に親子で入っとったから知っとるじゃろう。我の場合、リョウスケ殿に日本のスーパー銭湯とか言う所に連れて行ってもらった事もあってな……。じゃから、向こうの世界の風呂の事も解るぞ。じゃが……あの時は、周り中裸の男だらけの所に連れて行かれてな……。我も随分恥ずかしい思いをさせられたものじゃ」
……アージュさん、男湯に連れて行かれたのか……。
まぁ、見た目は小学校低学年でも通りそうではあるから、セーフ扱いだったんだろう。
けどアージュさん、見た目お子様だけど、中身は老成したむしろ、大人。
どちらかと言うと、奥ゆかしい部類に入ると思うので……随分酷な真似をしたな……と思わなくもない。
リョウスケさん……アンタ、鬼かよ。
でも、そんなスーパー銭湯に異世界人連れてって、女湯に一人でゴーってのもアレだろうし……。
かと言って、異世界ぐらしなんかして、日本に戻って、まずやりたいことってなると、やっぱ熱いお湯に浸かって……ってなるよなぁ。
アージュさんも護衛として、日本に同行したんだから、側から離れるわけにいかなかったんだろう。
なんと言うか……心の底から同情する。
僕だって、自宅諸共転移して無くて、風呂もシャワーもない……なんて環境だったら、必死で風呂くらい作ってたかも知れない。
日本人は、風呂がないと生きていけない……これは間違いなく真理だ。
自衛隊なんかも、戦場お風呂セットなんて装備を持ってて、地震なんかの時に、被災地で活躍してたりするけど……。
あんなもん、世界中探しても自衛隊くらいしか持ってないらしいからなぁ……。
どんだけ風呂好きなんだよって、話だけど……解る。
「とりあえず、作りかけなんだけど……ご覧のように、みんな、勝手に使ってるんだよね……」
実のところ、さっきから3人ほどのミャウ族の子達がすでに勝手に寛いでる……。
オープン前なんだけど、皆、そんなのお構いなしなんだよな。
なお、うち二人は女の子……あんまり、恥じらいとかない子達だから、タオルとかで隠す習慣すらない。
まぁ、僕はもう慣れたけど、アージュさんから見たら、どうなんだろ。
「……なんと言うか、こやつら……堂々たるもんじゃなぁ……。獣人というのは、こう言うものなのか? 見とる方が恥ずかしくなってくるぞ……」
ですよねー。
ミャウ族の子達も、まんざら知らない訳でもないから、向こうも目が合うと立ち上がって、嬉しそうに笑顔で手を振っている。
三人のうち一人はわざわざ湯船から出て、正座してお祈りまで始める始末。
いいからせめて、前は隠そうよ……。
「……やっぱ、そう思う? ちなみに、日が暮れると高確率で野郎共の裸祭になる……。見苦しいから、目隠しくらい作ろうかって話にはなってるんだけどね……」
「そ、そうだな。ふしだらなのはいかん! 目のやり場に困るようなのは特にな!」
「やっぱ、そうだよね……。そうなると、なんか適当に板切れとか葉っぱで目隠しくらい作るかな」
やっぱ、客観的に見ても、このフルオープン露天風呂は駄目だろう。
けど、目隠しもなにもないフルオープンの露天風呂ってのは、開放感が違う……。
実際、僕も試しに利用させてもらったけど……これで、お湯だったら、言うことなし! くらいは思ったもんだ。
「じゃが、せっかくの露天風呂……周囲を囲ってしまっては、何かと台無しではあるのう。ならば、ここはひとつ……我も体験してみるとするかのう。すまぬが、ちょっと向こうを向いていてくれると助かるぞい」
そう言いながら、アージュさん……唐突に髪の毛をまとめ始める。
頭の上で、キュキュっと縛ってお団子ヘア……まぁ、なんとも可愛らしい。
「え? い、今から入るの?」
僕の困惑をよそに、アージュさんなんだか、やる気満々。




