第二十六話「おもてなし大作戦!」⑤
「ご理解いただけて、幸いです。ただ、さすがに僕も王侯貴族をお出迎えとか経験ないから、色々アドバイスとかもして欲しい所ですね。国の特務機関なんだから、外務省とかにコネくらいあるでしょ? 国賓歓待のノウハウとか、どれ位のおもてなしをするべきか、そう言った情報提供もお願いしたいんですが」
「解りました……私もさすがに専門外なので、その辺りの話には詳しくはないので……少しお時間いただけますかね? そうですね……外務省とか、そっち方面に当たってみます。異世界とは言え、そのような重要人物……国賓レベルの人物を迎えるとなると、これはもう我々にとっても、外交案件ですよね……。あ、ハイ? しょ、少々お待ちくださいっ!」
……珍しく、鹿島さんがテンパった感じで、保留にする。
保留音は、コールセンターの保留音の定番「そよ風の誘惑」……。
なんか、凄く聞き慣れた感いっぱいだ……と言うか、どこで電話受けてるのか知らないけど。
まじで、どっかのコールセンターの一角とかじゃないだろうな?
チャリラリラ、ラーラーラーと……古い洋楽のメロディーが流れる。
なんでも、コールセンターってのは、どこも同じ機材を使ってるから、意図せず保留音も一緒になってしまってるんだとか。
にしても、外交案件とか、なんか凄い大袈裟な気もするんだけど……いや、大袈裟でもないな。
対応を間違えると、ドエライ事になるって意味では、それくらいのつもりでないと……。
きっちり、三周ほど待たされて、保留が解除される。
「大変おまたせしております。高倉オーナー様、本件の重要性を鑑みて、こちらでも色々と検討させていただきたいので……とにかく、今回は急な話なので、我々としても十分な支援も出来そうもありませんが……。今後を考えると、そのロメオ王国の代表との友誼を得るのは、大変重要な事だと理解しております」
「ですよね……必要な物資はリスト化して、後ほどメールでお送りします。こっちも無理言ってすみません。なんとか、ご機嫌を損なわない程度に、おもてなしに全力を尽くしたいと思います」
「はい! 是非ともお願いします! とりあえず、特急便を押さえておきますので、今伺った物資については、直ちに手配します! 食材なども最高級品をお送り致しますので、メイド・イン・ジャパンを強調の上で、お薦めとかしちゃってください! もし、その方が日本に興味を持つようであれば、もうご招待だってしちゃいますって言っちゃっていいですから! とにかく、後ほど折り返し致しますので、よろしくおねがいします! とりあえず、一旦電話をお切りさせていただきます! また後ほどー!」
珍しく、鹿島さんがテンパったまま、電話を切られてしまった。
まぁ、とにかく……モノの調達の目処は立った……!
この様子だと、クロイエ様を日本にご招待の上で……とか考えてるっぽいな。
まぁ、ご招待してどうするとかは、僕の預かり知らぬところだけど……。
帝国が国力と軍事力を頼みに、好き放題やってるなら、対抗勢力になりうるロメオ王国を強大化させるってのも手だろう。
それなりの経済大国らしいし、帝国以外の勢力をまとめ上げることが出来れば、武力を使わずに帝国を大人しくさせる事だって不可能じゃないだろう。
何より、帝国やら宗教バンザイの法国に比べたら、ロメオ王国は遥かにまともな国。
僕だって、これから色々お世話になるかも知れないんだから、むしろ肩入れくらいしたっていいんじゃないかな。
これはその第一歩っ! クロイエ様おもてなし大作戦の始まりだ!
最初にやる事は……まずは、今夜の宿……御寝所の改装の様子見かな。
気に入ってくれて、別荘にする! とか言い出したら、ここの戦略的価値も爆上げだろう。
ちょっとこいつは重要だぞ?
アージュさんを引き連れて、うちの直営の宿屋にする予定だった建物の様子を見に行く。
「ふむ、この村の建物は、どれも乱雑な作りの建物ばかりだったが、こんなものも作っていたのか……風情があって、なかなか良いな!」
アージュさんが感心したように、新品の丸太小屋を見上げる。
「やっぱり交易の中継点として、宿屋くらいは必要だろうと思ってね。ドランさん達に頼んで作ってたんだ。一応、二階建て……コンビニから電線引っ張ってきて、冷暖房完備、電気照明付きにする予定なんだ」
……この時点で、この世界の水準からすると、すでに破格の宿屋なんだけど、更に裏には露天風呂まであるのだ!
ドランさん達が例の野営地建築に動員されてしまったから、思い切り建築途中。
スタッフとかも決まってなかったので、開業は暫く先の予定だったんだけど……そう言う事なら、急遽開業だ。
スタッフとかは、警護要員としてキリカさんとランシアさん。
おもてなし要員として、ラナさんやミミモモ辺りを投入しよう……女の子なんだから、女性スタッフを投入するのはむしろ当然!
僕は……一応、一通りの最終チェックと仕事リストでも作るとしよう。
必然的に、コンビニのほうが手薄になってしまうけど、テンチョーもいるし、ウォルフ族の人達とか商人ギルドから派遣してもらった人達も教育中だけど、それなりに戦力にはなる。
警護要員も、アージュさんや向こうの連中がいるだろうけど、任せっきりとかありえないしねー。
そして、宿屋自体については……。
建物自体のガワはあらかた出来ているので、残すところも内装と露天風呂の完成くらいだったりもする。
ドランさん達も材木としてはイマイチなこのジャングルの木々から、割と本格的なのを作ってくれたものだ。
ちなみに、露天風呂っても、今んとこ開放感抜群なフルオープン仕様。
地面に穴をほって、石を敷き詰めて、隙間を耐水セメントで固めた岩風呂って奴だ。
近くを流れる川から、直に水を引き込むようにしてて、洗い場も目隠しも何もなし……要するに池とそう大差ないような代物だ。
底に排水口なんかもちゃんと作ってあって、結構ちゃんとした作りだったりするのだ。
周囲も灌木を植えてみたり、土むき出しじゃなくて、玉砂利を敷き詰めてみたり……庭園風に仕上がってる。
脱衣所も無いんだけど、申し訳程度に服をかけとくための物干し台みたいなのがある……。
ネットで拾ってきたどこぞの温泉宿の写真を元に、ここまでの物を再現したドワーフさん達は地味に凄い。
ちなみに、川の水もそれなりにヌルい上に、ここらは年中日中30度超えが基本。
水路も浅めに、ぐるぐると長い距離を通るようにしてあるので、昼間だったら、その間に勝手にぬるま湯くらいの温度になってしまうようになってるから、昼間利用する分には、十分だったりもする。
なので、未完成にも関わらず、すでに大いに利用されてるんだよなぁ……。
と言うか、試しに水張ってたら、ミャウ族の子達が勝手に水浴び場にしちゃって、なし崩し的にランシアさん達エルフの人達や、口コミで他の人達も使い始めちゃったのだよ……勝手に!
とは言え、夜は冷え込む時もあるので、夜はお湯を張った方が良いかなって話は出てる。
湯沸かし用の石炭ボイラーでも設置しようか……なんて話をドワーフさん達がしてたので、この世界の技術でもそれくらいは出来るらしい。
ドワーフさん達の話だと、石炭とかは割と当たり前に使ってて、オルメキアとの境の山岳地帯なんかでも結構、掘れるらしい。
ドワーフさん達って、鉄鉱石の精錬用とかで石炭を割と多用してて、何気にボイラーとかも普通に使ってるし、どうも鉱山採掘用に蒸気機関なんかも使ってると言う話だった。
実物を見たわけじゃないけど、話を聞いた感じだとお湯沸かして、蒸気圧で強い力を得る……みたいな話をしてたから、間違いなく蒸気圧を運動エネルギーに変える蒸気機関の実用化に成功してるっぽい。
いかんせん、ドワーフの技術は、人族には真似できない部分が多くて、そのへんに関してはドワーフの専売特許らしい。
冶金技術とか、金属加工技術とか、地味に凄いからな……ドワーフさん達って……。
ん? もしかして、ドワーフさん達に頼めば、蒸気機関車位作れるんじゃないかな?
蒸気機関車なら、別に電気とかも要らないし、レールなんかも作れそうだしなぁ。
設計図とかも日本にも残ってるだろうし、何年か前に小型の蒸気機関車を新規製造したって話も聞いたからなぁ。
こっちの世界で蒸気機関車を再現ってのも、そう難しくないかも知れない……。
蒸気機関車が走るようになれば、流通革命くらい軽く起きるな……。
……そんな凄い人達を訳の解らない偏見で迫害して追い出すとか、つくづく帝国も馬鹿やってるよなぁ……。




