第二十五話「凱旋、戦いのあとで」②
「さて、我はプラド達の様子を見に行くとするか。ケントゥリ殿は、ゼロワンとか言うやつと見張りを頼む。テンチョー……お主は回復魔法の類は使えるか? それにしても、ドエラい魔術を使いこなす割には、魔力配分やら後先も考えとらんとか……貴様、戦いに関してはド素人同然ではないのか? 我で良ければ、色々教えてやらんこともないぞ? まぁ、とにかく、こんな年寄りばかり働かせんで、ちょっとは手伝え!」
「わかったにゃー!」
……さすが、アージュさん。
テンチョーもあっさり言うこと聞いてるし……。
まぁ、テンチョーがいれば、怪我人は大丈夫だろう……。
残った敵の主力もテンチョーにブチかまされて、壊乱してる上にブンちゃんの弟分やら、ラドクリフさん達がどんどん狩っていっている。
と言うか、それなりにしぶといはずのスライムも、ほとんど一撃でやられてるらしい。
…….50口径、12.7mm弾の威力なんて、はっきり言ってデタラメだもんなぁ……。
前に、人体を模した弾道ゼラチンの着弾ムービーってのを動画サイトで見せてもらったことがあるんだけど。
あのクラスの銃弾に当たると、着弾時の衝撃波だけで、文字通り爆発してしまって、弾道も何もってな状態になる。
人間に当たっても、概ねそんな調子でボディーアーマーとか着てても関係なく、文字通り木っ端微塵に吹き飛んでしまう……。
多分、スライムも直撃、爆散ってそんな調子なんだろう。
空撮映像でも、一瞬で水風船が弾けたようになっているのが解る……これじゃ、いくら数が居ても話にならないだろう。
森の木々だって、遮蔽物の役に立ってない……スライム共の生き残りも、結構な数が残ってたはずなのに、あっという間にその数を減らしていっている。
ラドクリフさんたちの使ってる自動小銃はそこまで威力はないみたいだけど、それでも一発で動かなくなってしまっているようだった。
「……一方的じゃないか。あいつらってコアを破壊しないと死なないんじゃないの?」
『イエス、.50口径弾だと、コアもろとも爆散するので、コアの1m以内に直撃させれば一発で駆除できます。歩兵部隊の装備も対擬態生物用の特殊化学弾頭です。擬態生物の体内で炸裂、致死性の化学物質を散布することで、30秒以内に無力化させます。当機の装備は対人及び、竜型異世界生物との戦闘を想定しており、AP弾搭載のため、コアを直撃で破壊する必要がありますが、対策弾なら当たりさえすれば一撃です』
思わず、独り言みたいに呟いたんだけど、ゼロワンがしっかりと答えてくれる。
静かだったんだけど、ちゃんと会話とか聞いてたのね。
ラドクリフさん達の戦況は……。
戦車隊がドンドン突っ込んでいって、片っ端から薙ぎ払って、撃ち漏らしたり、仕留め損なった手負いを歩兵が掃討する。
堅実な戦術ながら、もはや敵も秩序だった動きをしていないので、ワンサイドゲームだった。
人間相手なら、とっくに降伏勧告でもしているところだけど。
相手は、交渉どころか、意思の疎通も出来そうもないし、一匹でも生き残らせたら、厄介なことになる。
なんか、すごく単細胞生物っぽいんだけど、見てると、時々数が増えてるみたいだし、どうも細胞分裂みたいに増えていくとか、そんな感じっぽいんだよなぁ……。
こっちの方へ逃げてるのもいるんだけど……アージュさんの作った低温地帯に入ると、露骨に動きが鈍くなって、ブンちゃんのお仲間が長距離狙撃であっという間に仕留めていく。
何気に、ここらも最大射程圏内じゃあるんだよなぁ……流れ弾とか飛んできませんように……。
『報告。オッドボール少佐より、退路の確保に成功したとの報告あり。周辺気温も最低気温が-50度まで上昇。その装備では少し過酷かも知れませんが、布などで口元を覆えば、呼吸も問題ないでしょう。現時点より、撤収行動に移ることを推奨します』
ゼロワンからの撤退のお薦め。
まぁ、確かにこれ以上ここに留まる理由もない。
-50度なら、日本でもそれくらいまで下がった事もあるらしいし……長時間とどまらなければ問題ないだろう。
「じゃから、この程度の傷……もはや、なんともないと言っておるじゃろう! 自分の足で凱旋してこそ、勝利というもの……良いから、もう離さんかい!」
「やかましいわ! 怪我人は荷物扱いで、大人しく運ばれておけ!」
プラドさんも持ち直したみたいで、アージュさんと喧嘩しながら、リアカーに押し込まれている。
「おいおいおいっ! 猫のねーちゃん! アンタのその回復魔法! おかしいだろ! そんな千切れた足をくっつけるんじゃなくて新品の足生やすとか、癒やしの聖女レイン司教だって、そこまでぶっ飛んでねぇぞ!」
ロズウェルさんが、何やら大騒ぎしてる。
そりゃ、そうだよなぁ……回復魔法ってのは、本来は元々ある治癒力を強化、加速するものらしい。
だから、傷跡とかも残るし、場所によっては、古傷みたいになって、長々と痛んだり、皮膚が突っ張ったりでそれなりの後遺症が残る場合もあるって、話だった。
なんだけど……テンチョーの回復魔法って、怪我自体を無かったことにするとか、そんな感じだからなぁ……。
と言うか、足がちぎれたって……リードウェイさん、思った以上の重傷だったらしい。
「今のは、回帰魔法じゃな……。要するに、局地的時間操作とかそう言う類いの魔術じゃよ……冗談抜きで死人ですら生き返らせられるかもしれんぞ」
「いやいやいや! アージュさんよ……回帰魔法とか、そんなもんの使い手……聞いたこともねぇよ! この猫のねーちゃん……何モノなんだよ! まさか、本当にラーテルム様の御使いとかそんななんじゃ……」
「あながち間違ってはおらんぞ……。まぁ、色々とコヤツはおかしいんじゃ。あまり、深く考えんほうがええ」
……なんか達観したようなアージュさん。
確かに、僕も太ももをざっくりやって、大量出血してたのに、傷跡すら残さず綺麗さっぱり治っちゃったもんな。
結局、あれから後遺症すら残らなかったからなぁ……。
要するに、怪我をする前の状態まで戻す……そんな感じ?
そう言う事なら、心臓に穴が空いたとか、脳みそぶち撒いたとかでも治せそうだった。
うん! なんか、色々納得いったぞ!
「あーあーっ! みんなぁ、傾注ー! 柵の外もちょっと寒いだろうけど、さっきみたいに一呼吸で死んじゃうほどじゃなくなったし、退路確保も出来てるそうだから、そろそろ引き上げるよ! 総員撤退! 整然と慌てず騒がず、この場から撤収する!」
僕がそう言うと、手早くリアカーがブンちゃんに繋がれる。
その周りをドワーフ軍団が固めて、全員こっちを見て頷いてくれる。
僕が手を上げて、振り下ろすと、ゆっくりと進み出す。
けど、すぐさまテンチョーが嬉しそうに走ってくると、無理やりお尻をねじ込んで、ブンちゃんの運転席に乗り込んでくる。
「テンチョー! 狭いって! これ本来は一人乗りなんだってば!」
「うにゃーっ! これ一度乗ってみたかったにゃーっ! 楽ちんだにゃー! 出発しんこーっ! うにゃーっ!」
……聞きゃしないし。
振り返ると、リアカーに乗り込んでいたアージュさんが苦笑していた。
何故か、同じくリアカーに乗ったモモちゃんが、ほっぺたをプクプクにしてたけど、ミミちゃんに突っつかれて、プスーとか音を立てて、潰されている。
それを見た、アージュさんが指を指して大笑い!
つられたように、皆して爆笑!
ちょうど、夜も明けてきたようで、空が白み始めていた。
視界は霧がかってるけど、道が見えないってほどでもない。
運転もゼロワンが代行してくれてるから、特にやることも無さそうだった。
「じゃあ、皆! 僕らの家に帰ろう!」
『了解、先導いたします。高倉陸准尉、貴官と共に戦い勝利を共にした事、我らのメモリーに深く刻み込みました。この勝利は……我らにとり、けして忘れ得ぬ栄光の記録となるでしょう。大変、お疲れ様でした』
何故か、ゼロワンが真っ先に返事を寄越してきた……なんかもう、すっかり仲間気分みたいな様子。
でも、悪い気はしない。
ゼロワンだって、一緒に戦ってくれた仲間なんだから。
勝利の……栄光の記録か。
確かに、これは大勝利ってやつだ。
この場にいる皆、それぞれ力を合わせて、絶望的な戦局を乗り切った! まさしく大勝利ッ!
……かくして、僕にとっては、初めての命懸けの戦いは終わった。
帝国軍の本格的な侵攻。
必然的に、最前線となってしまったうちのコンビニは、これからどうなるんだろう?
それに……鹿島さん達が送り込んできたゼロワン達戦闘機械達。
味方という意味では頼もしすぎるんだけど、こんなの……この世界の軍事バランスを軽く崩壊させるくらいの代物だっての。
色々とデカい借りも出来ちゃったし……こんな調子で、のんびり商売とかさせてもらえるのかなぁ……。
……不安の種は尽きそうもなかった。
でもまぁ……何とかなるんじゃなかろうか。
隣で、ご機嫌そうに身体を預けてくるテンチョーを見てると、根拠もなくそう思えてきたから不思議だった。
僕達の戦いはこれからだ! ……なんてね!
そんな訳で、ひとまず一旦二章完結とします。
しばらく、連載もお休みにしますけど。
間に、例によって外伝でもぶっ込んみようかなーとか、考え中。




