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第一話「プロローグ」①

 僕の名前は、高倉健太郎。


 ……親の代から続く、このコンビニ「イレブンマート 桐生2号店」の二代目オーナーだ。

 

 元々は、名門私立の慶桜義塾大学の経済学部卒の肩書を持つエリート銀行マンなんてやってたんだが……。


 親父が過労で倒れて、赤字続きだったコンビニを畳むとか言い出したんで、銀行マンをすっぱり辞めて、この店を引き継ぐ事にしたんだ。

 

 それが10年ほど前の話。

 

 順風満帆の経済エリートコースと、東京での暮らしを捨てて、群馬の田舎町のコンビニオーナーへ転向。

 当時の上司や同僚からも正気の沙汰じゃないと、やかましく言われたのだけど。

 

 満員電車に押し込められて、毎日毎日、金勘定。

 口ばっかりで、責任を取るということも知らないクソったれな上司。


 くだらない見栄の張り合いや、互いの足の引っ張り合いばかりに熱心な同僚たちに、失点ばかり恐れて、自分からは何もしないゆとり世代の部下達。

 

 そんな奴らに囲まれて、毎日残業、終電帰り、休日出勤当たり前。

 

 そんなサラリーマン生活に、いい加減うんざりしていたし、山も見えないビルの谷間で暮らしていると、故郷の群馬への郷愁の念が、いつの間にか降り積もってしまっていたのだ。

 

 都会の風は、土の匂いがしない……日々、当たり前のように見ていた赤城山や日光の山々だって、東京じゃ見えない。


 見えるのは、ビルの谷間の隙間から覗く、灰色の空。

 吹きすさむのは、時より東京湾から漂ってくる生臭い潮風とアスファルトとコンクリの匂い。


 ……東京には、空がないとはよく言ったもんだ。


 僕は、都会の生活にもサラリーマン生活にも、疲れ果てていたのかもしれない。


 赤城の山も渡良瀬川のせせらぎも……かつては当たり前だった故郷の風景。

 ……何もかもが懐かしくなっていた。


 それに、僕は自分が思っていた以上に、長年育った我が家でもあるこのコンビニに、愛着を持っていようだった。

 

 もう店を畳むと言われた時、居ても立っても居られない気持ちになった。

 

 だから、僕は周囲の猛反対の中、一切迷わなかった。

 それに店を立て直す自信もあった……僕の銀行での業務内容は、個人事業コンサルタント。

 

 要するに、個人事業主に資金の貸付を行う傍ら、業務内容改善のアドバイスや儲け話を持ちかける。

 投資のお勧めとか、取引業者の紹介とか……まぁ、そんな感じのお仕事だ。

 

 銀行さんが、なんでそこまでするのかって?

 

 そりゃむしろ、当然と言ってもいい。


 銀行さんだって、ボランティアじゃない。

 貸したお金はきっちり返してもらってこそ、銀行と言う業務が成り立つ。

 

 投資先が潰れたり、破産されたら、貸し損になる。

 いわゆる不良債権問題ってヤツだ。

 

 そうならない為に、銀行も貸した相手の経営状態を小まめにチェックして、少しでも儲かって、末永くお付き合いできるように、様々なアドバイスをするのだ。


 一応、顧客サービスの一環でもあるのだけど、これはリスクマネジメントとも言える。


 何より、個人事業主ってのは、給料振り込まれて、ATMで右から左と引き落とすだけのサラリーマンと違って、金融商品売買の有力顧客でもあるからね。


 であるからこそ、銀行さんってのは、個人事業主を大事に扱うし、専属の担当者が付くことだってままある。


 なお、この業務……あくまで僕はアドバイザーと言う立場。

 決して、こうしなさいとか、ああしなさいと命令するようなことはない。


 こうしたら良いかも知れないとか、ここの無駄は省いたほうがいいとか、こんな商品があって、儲かるかもしれない……とまぁ、そんな感じのアドバイスをする。


 資金が足りないと言う相談なら、儲かる見込みがあるなら、はい喜んで!

 自転車操業状態なら、なんとかそこから抜け出す為の助言をする……そんな調子だ。

 

 良くも悪くも無責任な仕事だとは思う……僕の予想通りに行かなくて、顧客が大損した事だってもちろん、ある。


 つまり、あくまで、決断するのは顧客の側で……僕自身は、何一つ責任は取らない。

 コンサルタントってのは、そんなもんだ。


 それでも、なんだかんだで損させるより、得させることの方が多く、必然的に顧客からも信頼され、同部署でも僕の経営コンサルタントとしての手腕は、トップクラスと評されていた。

 

 だからこそ、僕は経済の専門家を自負している。

 個人的にも、株の運用やマネートレードで少なからぬ利益を得ていて、給料よりも多く儲けている位だ。

 

 元々大学で経済学なんて学んだのだって、家業の手助けが出来ればってのが志望動機。

 

 そう……僕は本来、このコンビニを……家業を継ぐつもりでいたんだ。

 

 けど、東京の大学で学業にいそしむうちに、群馬の田舎町に収まるよりも、相応のエリート人生を送るべきだって、思うようになっていた。


 何より、銀行に就職が決まり、その事を報告した時の親父らの喜びようと来たら……。

 

 要するに、いつのまにか、そんなエリート人生こそが、正しい道だって思うようになっていた。


 今となっちゃ、そもそもそれが間違いだったって、後悔している。

 なんで僕は、あの時大学を卒業してすぐに、親父達の手伝いに家に戻ろうと思わなかったんだと。

 

 もし、そうしてれば親父だって、倒れるまで無理を重ねることも無かったはずで、きっと今頃、車椅子生活なんかじゃなくて、元気に気楽な引退生活でもやってただろうに……。


 とにかく、コンビニを継ぐに当たり、まずは地域ローカル系列だったのをきっぱり切って、全国最大手フランチャイズだったイレブンマートに加盟。

 

 内装も大幅改装して、看板も付け替え、店舗も改装し、駐車場も大型トラックが駐車できるくらいに馬鹿広いものにした。


 なんせ、田舎だから土地代は安い……駐車場なんて、土地をならしてアスファルトを敷き詰めるだけだから、コストも掛からない。

 

 無理や無駄もガンガン減らして、電気代節約のために屋根の上にソーラーパネルを並べたり、従業員もそれまで社員として直接雇用していたのを全員バイトに変えて、とにかくケチれるところはケチったりと、様々な工夫を凝らした。

 

 元々、立地も万年渋滞の国道の迂回ルートに面していると言う、それなりに悪くない立地条件だったので、ターゲットをドライバー客や観光客に絞り、品揃えも相応のものにして、道路看板やらの設置で、集客も向上。

 

 それを皮切りに経営も軌道に乗って、無借金経営で売上も安定……地域に根ざした優良店舗として、ほんの2-3年程前までは、上手くやっていたのだ。

 

 けれど、商売ってのは、水物なんだ……。

 時の流れや流行り廃り、景気や世の中の移り変わりに翻弄されるもの。

 

 長年、延伸工事を続けていた北関東自動車道がついに東北道と接続。

 群馬県民の悲願だった群馬と栃木、東北方面を繋ぐ高速道路網が実現した。

 

 これ自体は喜ぶべきニュースだった。

 

 けれど、それを境に、それまで栃木方面と群馬を繋げていたメインルートだった国道50号の交通量が激減。

 この国道50号……栃木と群馬を結ぶ、交通の要衝と言える国道だったのだが。


 その国道が北関東自動車道の延伸工事と同時に進められていたバイパス工事などの影響もあって、あまり混まなくなった結果……。

 

 渋滞よけの裏道とされていた店の前の道が徐々に寂れていった。

 所謂、動線の変化ってやつだ。

 

 元々、ここは地方都市の片隅の田舎道。

 

 過疎が進行していたこともあって、地元住民を相手にするよりも、観光客やドライバー客をターゲットにした事自体は間違っちゃいなかったんだが……。

 

 そのドライバー客が右肩下がりに激減していった事で、あっという間にジリ貧状態に陥ってしまった。

 

 売上は最盛期と比較すると、文字通り半減状態……。

 弁当やらおにぎりの類もちょっと見積もりを間違えるともう、廃棄の山……。

 

 バイトも昔ほど集まらなくなって、深夜帯は大体僕一人のワンオペ体制。

 休みなんて最後にいつだったか覚えてないような有様だった……。


 これはもうダメかもわからんね……。

 まさに、そんな感じでピンチを迎えつつあるのであった!

さて、色々グダって間が空きましたが。

MITT新連載でございます!


今回も異世界転移ファンタジー!


ちなみに、元ネタは20年程前のPCゲーム「ザ・コンビニ アナザーワールド」です。

もはや、コンビニ+異世界以外に共通項目が無い程度には原型とどめてませんが。(笑)


同じ元ネタを扱った別作者の書籍化作品もありますが。

私、共同原案者として、後書きに名前が出てるほどなので、パクリ呼ばわりされる筋合いはありません。


北関東自動車道について。

実際は2011年の東日本大震災直後の3月19日に全線開通してたりするんですが、この作中ではもうちょっと後に開通した設定になってます。

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