第9話 素人判断はいけません!
覚悟を決めて、シイタケ(多分)にかぶりつく。
隣でバクバクとシイタケ(多分)と食べていたエスが、「あ」と言ってぴたりと動きを止める。
そして、持っていたキノコをひっくり返してじっと見つめた。
「これ、きのこの傘の裏が赤いんですね」
「ああ、本当だ」
「これは毒キノコです。チイタケに似ているけれど傘の裏は赤い、ああ、これは一口食べただけで死に至る猛毒……ニセタケです……」
彼女は震える声でそう言う。
「え? ちょ、まって、それ、死ぬじゃん」
俺の言葉にエスはばたりとその場に倒れた。
「うわっ?! エス?! 大丈夫か?!」
「大丈夫です。まだ生きてます」
エスは無表情で答えた。
ホッとした俺はエスの隣に寝転んだ。
「せっかく色々と思い出して異能も発動できるようになったのに、その異能のせいで死ぬはめになるとは……」
そこまで言うと、悔しくて涙が出そうになる。それをぐっとこらえた。
女の子の前で泣くわけにはいかない。
エスだってきっと泣くのを我慢してるはず。
そう思って彼女の方を見ると、目を閉じていた。
驚いて起き上がると、寝息が聞こえてくる。
「寝てんのかよ!」
俺の言葉にエスは目を開けた。
「緊張感のない奴だなあ……。もうすぐ死ぬってのに……」
「おかしいですね」
エスはそう言ってむくりと体を起こす。
そして彼女は続ける。
「この毒キノコを食べた直後に全身に激痛が走り、苦しみながら死ぬそうです。それなのにまったく症状が出る気配がありません」
「そうだよな。それどころか体中から力がみなぎってくる感じがする」
俺はシイタケのような毒キノコを見て言う。
「これ、本当に毒キノコなのか? エスの見間違いじゃないのか?」
「そんなはずはないですよ! 本でちゃんと読んだんですから!」
「その割には最初は、毒がないとか言ってたよなあ」
俺がそう言ってため息をつくと、突然、頭の中で声が聞こえてきた。
(おひっさー! 神だよん!)
神?! ああ、あの寿司Tシャツの!
(そうそう。お主の能力は食べられる以外に、別の機能があったことを昨日ふと思い出してな)
え? なにそれ。
ってゆーか昨日、思い出したんだ。
(歳を取るとなあ。人の名前とか最近聞いた言葉とか、すーぐ忘れるんだよねー)
だよねー、じゃねえよ。
(それで、お主のもう一つの能力はな、なんと!)
なんと?
(毒のある植物や毒の入っている料理を見分けられること!)
え? それだけ?
ってゆーか、もっと早く言ってほしかった。
(まあ、そんなことせんでもヤミーの能力が発動している時に口にした物は毒もエネルギーに変えられるからな)
よかった。本当に良かった。
(どくどくみえーる、と唱えれば毒入りかどうか分かるから、試してみるが良い)
なんか急に口調が神らしい。
でも呪文がマヌケだ。
(神らしいじゃなくて、神じゃ。ちなみにこの呪文を考えたのはワシなんじゃが……)
ああ、だろうな。
ってゆーか、神なら今夜、盗賊が村に来るのをなんとかしてよ。
(えー。それはお主が解決する問題じゃなーい?)
じゃなーい? じゃねえ。
(わしは忙しいんじゃ。なんせこれから)
これから、人でも救うんですか。
(新婚旅行に行くんじゃ! 若いハニ―と結婚したんじゃよ)
もういいわ。俺は一人で強く生きていく。
(おお、頑張れよ、少年! あー、ハニ―、今行くよー)
神の声はそこで唐突に途切れた。
俺はため息をついてから、手に持ったままのキノコを見て、ものすごく声のトーンを落としてから「どくどくみえーる」と呟く。
すると、きのこの上に『ニセタケ。猛毒注意!』と赤い文字が表示された。
おお、こりゃあ便利だ。
ってゆーか、やっぱり毒じゃねえか!