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第8話 死の森へ。

「……マズイですよ!」


 盗賊がどこかへ消えると、エスがそう言った。


「ああ、マズイな。また村が襲われる。でも、これでやたらあの村に盗賊が来る理由はわかった」


 俺はそこまで言うと、彼女の方に視線を向ける。


 エスは岩をなめていた。


「……大体、想像はつくけど一応聞く。何やってんだ?」


「さっきの石が美味しかったので、これも美味しいかなあって」


「歯が折れるぞ」


「それは大変ですね!」


 エスはそう言うと慌てて岩から離れた。


「そんなことより、村がヤバい」


 俺の言葉に、エスがあっけらかんとして言う。


「コメルさん、魔法使いなんですから戦えません? こう、ちょっちょっと魔法を使えば盗賊なんてすぐにやっつけちゃえますよ!」


「いや、無理無理! 俺、前世ではケンカなんかしたことないし!」


「前世?」


 エスはそう言って首を傾げる。


「とにかく、魔法使いって言ってもヤミーの能力しかないんだから」


「うーん……」


 エスは考え込んだ。


 すると、ぐーきゅるるるるる、という音。


「えへへ。考えたらお腹が減っちゃいました」


「燃費の悪い体だな」


「さ、森へ急ぎましょう!」


 エスはずんずんと森の方へ歩いて行く。


「先に言っとくけど、あの森は……」


「知ってますよ。『死の森』って呼ばれていることは。村人から聞きましたから」


「なんだ。知ってるのかよ。じゃあ、話が早い。森は木の実からキノコ至るまで、ぜんぶ毒しかないんだよ」


「もしかしたら食べられるキノコもあるかもしれません」


「素人判断は一番、危険だ」


「実は私、本で調べたんですよ。だから大丈夫です」


 へー。この世界で本を買える家の生まれって。


 それなりお嬢様なのか?


 それにしては食い意地はってるけど。



 森に着くと、昼間にも関わらず中は暗かった。


 確かに『死の森』って感じがする。


 視線を上に向ければ、木になっているのは、黒い実。


 視線を下に向ければ、地面に生えているのは、赤や青のやたらカラフルなキノコ。


 絶対に毒あるやつらだろ。


「エス、やめよう。やっぱ食べられるキノコなんかありそうもねーよ」


「わかりませんよー」


 エスはなぜか楽しそうに言いながら、先をずんずん先を歩いていく。


 こいつを野に放つと毒きのこでも食べかねない!


 なんせ一度、散歩で死にかけている前例があるわけだし。


 俺は暗くじめじめとした森を、小走りで駆け、エスの腕を掴もうとした瞬間。


 エスが突然、立ち止まる。


 そして、しゃがんで地面のほうを指さす。


「これ、食べられるキノコですよ!」


 エスの細く長い指の先を見ると、確かにシイタケに似たキノコが生えている。


「え? 本当に?」


「本当です! 街でこのキノコの串焼きを売っている屋台もありました」


 キノコの串焼き。


 そう聞いて、俺の腹もぐるるるるとまるで獣のように鳴る。


 いかん、いかん。


 情報源がこのドジ娘だと思うと、いまいち信用できない。


 キノコに手が伸びるエスを、俺は「待て」と制する。


 それから、キノコをじっと観察してみる。


 どこからどう見てもシイタケにしか見えない。


 シイタケかもしれない、と思ったら、頭の中で色々な料理が浮かぶ。


 でも、一番は、肉厚のシイタケを炭火で焼いて醤油を数適かけるやつだな。


 だめだ、俺も限界だ。


 ごくりと唾を飲み込んで、呪文を唱える。


 もしかしたら毒キノコかもしれない。


 だが、今日、この呪文を発見しなければ、あのまま死んでいただろう。


 それに、毒があるのは何もキノコだけじゃない。

 

 土だって石だって木だって、人体に毒があることもあるだろうし。 


 それなら一か八か、キノコを食べてみたっていいじゃない。


 ……というのは、言い訳で。


 純粋に食材にありつきたいだけだ。


 砂とか石とか木じゃなくて。

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