第7話 盗みの盗み聞き。
「なんだか一気に話したらお腹が空きました」
エスは地面にのの字を書きながら、照れくさそうに言う。
一体、どこを恥じらってるんだよ。
「さっき食べただろ」
「食後のデザートが食べたいです」
にっこりと微笑むエスをなんかかわいいな、と思って「しかたないな」と呟いて呪文を唱えようとした。
その瞬間。
「あの森とかいいですよね」
言うが早いか、エスは森へと歩き出していた。
確かに、この村のすぐそばには森があるんだが……。
俺は慌てて呪文を中断し、それから大声で言う。
「待て、待て! 早まるな!」
「待てないんですよー。私、食べ盛りの十三歳なのでまだまだ足りないです!」
ぷくーっと頬をふくらませるエスは、まるでリスのようだ。
「この村の近くにあるのは『死の森』だけだ。あそこには食べ物なんかない。それどころか」
そこまで言うと俺は顔を上げる。
既にエスは村を出て、森へ続く道を歩き始めていた。
俺はそれを慌てて追いかける。
なんて手のかかる子だ!
エスの両親は苦労したんだろうなあ。
俺はため息をついて急いで銀髪の少女の後を追いかけた。
そもそも、この村の近くにきのこやら木の実がなるような森があったら、村人も俺もみんなでそこを食いつくしている。
それをしなかったのは、森が毒に侵されているからだ。
さすがに俺の能力でも毒キノコとか毒の実は食べられない……と思う。
試す度胸もない。
しかし、怖いもの知らずなのか、ただのバカなのかエスは、村を出てずんずんと歩いていく。
ごつごつした岩の多い道を真っ直ぐに行くと、『死の森』がある。
エスは真っ直ぐにそちらに突き進む。
思ったより足が速い。
俺がエスを追いかけるのに夢中になっていると。
左の方から、こちらに歩いてくる足音が聞こえてきた。
複数の足音に俺とエスは立ち止まり、顔を見合わせる。
念のため、俺はエスを引っ張って、すぐそばにあったひときわ大きな岩の背後に隠れた。
つい最近も盗賊らしき集団が村に来たことがあり、その時は何もせずに帰ってくれたのだが。
今回もそうだとは限らない。
ってゆーか、あんな何もないどころか滅びそうな村に何の用なんだよ。
もしかしたら、この辺りは荒れ果てているせいで、盗賊のねぐらになっているのかもしれない。
だからこそ、見知らぬ集団には用心せねば。
エスも同じことを考えたのか、大人しくしてくれている。
岩影から、足音のしたほうを覗いてみると
ガタイが良く顔も服装も柄の悪そうな男が二人。
ああ、あれ絶対に盗賊だ。
良かった、先に隠れて。
「あの村に財宝?!」
そう言ったのは、比較的若い男。
「しっ! ばーか声がでけぇよ!」
若い男を叱ったのは中年の男だった。
男二人達は小声で続ける。
「あそこの村の地面に、財宝が眠ってるらしいんだ。何でも、昔、あそこに住んでいた大金持ちが死ぬ間際に隠したらしい」
「あんな今にも滅びそうな村に?」
「だからいいんじゃねーか。無駄な殺しをする手間も省けて、ゆっくり宝さがしもできるってもんだ」
「でも、その情報、本当なんですかい?」
「盗賊コミュニティで聞い情報だから確かだ」
なんだよ、盗賊コミュニティって。
「今夜は盗賊仲間を集めて、あの村でお宝さがしだ」
盗賊の視線の先には、俺の故郷の村があった。