因果応保
ノア視点でです。
ちょっと過激な表現が含まれます。なるべく濁しましたが苦手な方はお気を付けください。
たった今アリスが魔法を使いレイミアと共にこの場を去ったのを見届けた。
僕の視界には浅はかにもレイミアを売捌こうとしていた薄汚い男が二人、自分の実の兄であるアースこと、アシュリー兄さんに足蹴にされていた。当然僕はこの二人を助けようとはしない。当然だ。こいつらは先ほど、僕らが愛してやまないレイミアを、騙して売ろうとしていたのにもかかわらず、みっともなく縋り、助けを乞おうとしていたのだ。むかつくことにこいつらはレイミアの優しさに付け込もうとしたのだ。これは万死に値するのではないだろうか? --最も、楽に死なせるつもりはないけど......
「......」
「ッ......ッㇶ...ァ..たすぐェ」
こんな状況になってまで、いやこんな状況だからか? 片方の男はまだ助かる見込みがあるとでも思っているのかは知らないが、助けを乞おうとした瞬間、アシュリー兄さんにさらに強く頭を踏みつぶされた。まさに息も絶え絶えという感じだ。 何せ、アシュリー兄さんはただ地面に男を転がし、身体を押しつぶそうとしているのではない。兄の特異な魔法を惨死し、その的確なコントロールで男の体内を循環している血液の流れを半分ほど塞き止めている。これではこの男が死ぬのも時間の問題であろう。僕はそんな光景を見ても自業自得としか思わなかったが、如何やらついてきた護衛二人はそうでもないらしい。
護衛二人は若い見た目をしているのでその年にしてかなり優秀なのだろう。しかし、その優秀な護衛二人はあまり場数は踏んでいないように見える。故に、このような拷問に近い光景を目のあたりににして怖気づいているのだろう。--この場合僕たちが異常なのか、それとも王族の護衛で何を生ぬるいことをと言うべきなのか......まぁ、他国の兵士なんて僕にはあまり関係のないことか。
僕はグラーシアの護衛二人から目を逸らし、またしても薄汚い男へ視線を向けると、兄に踏みつけられていない方の男と視線が合う。その男の目は恐怖に染まっていたが、しばらく何もせず見ていると、全く手を出さない僕に何を勘違いしたのか少しの希望が宿る。......何だかとても不愉快だった。
「ねぇ」
「......ぅ...」
そこに、今まで何も言わずただただ男を痛めつけていただけの兄が話し出す。
「正直もう君たちみたいな薄汚い連中がレイミアの腕を握っただけで万死に値すると思うけど、優しいレイミアはそれでは満足しないだろうし、なんの証言も取れてはいない君たちを殺したところでレイミアには何のメリットもない。だから一応君たちに問おう。ここで、何を、していたの......」
--あぁ、嘘なんか吐かない方がいいよ? 吐いたら体が半分無くなっちゃうかもね。アシュリー兄さんはいつもの穏やかさなんてかけらもないどの冷たい声と表情の抜け落ちた顔で言う。そんな兄に恐れをなしたのか男たちはぺらぺらと自分たちのことを話し出す。
「ち、違うんだ! 俺たちはただ恵まれず病に苦しむ者たちに薬をやりたかっただけなんだ‼」
「そ、そうだ! 俺たちはほんの少しだけ薬の材料をもらおうと...」
「あ、あんたらは少し角を折られようが足をもがれようが生きて生けるだろう...‼ だ、だから少しぐらい恵まれない俺たちにあんたらの幸せを分けてもらおうと......」
こいつらの話す分だけその場の温度が下がっていくのが分かった。これはけして言葉の比喩ではなく、現在その場で起っていることだ。大方アシュリー兄さんの魔力が漏れて冷気を発しているのだろう。
そしてついに、いまだに己らが如何に不幸なのか、僕たちが如何に恵まれているかを語り、その理不尽さを正当化させ、他人の幸せで己の幸せを図ろうとしていた生ごみの片方が兄魔法により氷漬けになる。
「あぁ、ごめん、あまりにも汚かったから掃除しようと思ったのに失敗しちゃった......」
失敗失敗っと穏やかに笑う兄の瞳を全く笑ってはいなかった。むしろ固まっていない方のごみをどうしてやろうかを瞳をぎらつかせている。そんなことを思っている僕の瞳もきっと同じような色をしていることだろう。
「ぁっ...っま、待ってください‼」
そこで声を上げたのはやっぱりというか、この中でも一応世間でいうところの“常識”を持っているであろう男。グラーシアであった。
大晦日から正月、特に12月31と1月1は更新が難しい可能性があります。夜に成るべく上げる予定ですが親戚回りなども三頑日中に済ませなければいけませんので、其処ら辺ご容赦ください。