16 遊ばれる王子と楽しむ私達
いつもの時間帯になり、イージオ王子とリヤルテさんが私の許を訪れた。
ホワイティス王国訪問に向けて、私から少しでも情報を聞き出そうとここ数日はリヤルテさんもよく来てくれる。
今晩は丁度リヤルテさんにお願いしたい事があったから来てくれて本当に良かった。
……いつもは来てくれても、有力な情報を寄越せと脅されたり、反対に訊きもしないのに、アスリア嬢との攻防戦の戦況を話されるから、時々面倒くさいと思ってしまうんだけどね。
「……と、そんなわけで、イージオ様の『写真』を魔女に見せる事になってしまいました」
晩酌の準備をして皆が席に着いたところで、私は神妙な顔をして今日あった出来事(お祭り見学は割愛した)をイージオ様とリヤルテさんに報告した。
「ミラ、『写真』てなんだい?」
首を傾げるイージオ様を見て、そういえば、この世界に『写真』なんてものはなかったなと思い出す。
実際に私が見せるのも、鏡に映った映像を切り取って魔力でプラカードに貼り付けただけのもので、厳密には写真とは言えないだろう。
「私がたまにお見せするプラカードに描いてある、凄く精巧な絵の事ですよ」
今まで制作したプラカードをまとめて入れてある押し入れから、適当に1枚選んでイージオ様達に見せる。
「あぁ、君がたまに見せてくれるそれの事か。鏡に映ったものをそのままの状態で絵として保存する技術なんだっけ?」
私が出したプラカードを見て合点がいったのか、イージオ様が小さく頷く。
その隣ではイージオ様同様、プラカードを見て、リヤルテさんがスッと目を細めている。
「そうです、そうです。これを私の世界では『写真』と呼んでいるんですよ~」
「ミラの世界には凄い技術があるんだね」
ニッコリといつも通りの綺麗な笑みを浮かべてくれるイージオ様。
そんな彼に私も笑みを返すと、隣でプラカードを凝視したまま固まっていたリヤルテさんが視線を私に移し、手を突き出してきた。
「なるほど。……では、ミラ嬢、ひとまずその『写真』を私に寄こしなさい」
「え?」
「その『写真』はアスリア嬢ですね?それなら、私の手元にあるべき物でしょう。寄こしなさい」
リアルテさんのコメントにハッとして自分が持っていたプラカードに恐る恐る視線を向ける。
……しまった。『写真』を説明する為だから何でもいいやと思って、適当に選んだら、まさかのアスリアさんだった。
このプラカードは、以前にリアルテさんに何か頼み事をする時の餌にと思って作った、アスリアさん泣き顔ベストコレクションの内の1つだ。
作った後で、リアルテさんのアスリアさんに対するドS丸出しのアプローチを見て、彼女への罪悪感からお蔵入りさせたはずだったのに……。
「……え、えへ?」
「ミラ嬢?」
愛想笑いを浮かべて、何もなかったかのようにプラカードを下ろして隠そうとしたら、リアルテさんが満面の笑顔で威圧を掛けてきた。
うぅ、怖いよ~。
だから、私はお局様耐性はあっても、ドS様耐性はないんだって!!
「いやでも、ほら私や私が魔力で作った物はこの鏡の外に出せないですし?」
背中に冷汗を浮かべながら訴えると、リアルテさんの顔から笑みが消えた。
「チッ。使えないですね」
ちょっとは本心隠そう!?
いつもお偉方には心の内隠して笑顔で対応してる……はい、そうですね。私に愛想を振りまいてもリヤルテさんに得はないですね。
「わかりました。では、可愛いアスリア嬢の『写真』を手に入れる為に、少しだけ本腰入れて貴方をそこから出す為の対策を練る事にしましょう」
「って、今まで本腰入れてなかったんですか!?」
私の指摘に、リヤルテさんが一瞬宙に視線を泳がせてからニッコリと笑みを浮かべて私を見た。
「…………そんな事はないですよ?私は常に全力投球です」
「その間は何ですか!?満面の笑顔が反対に胡散臭いんですけど!?」
「気のせいです。ではさっさと作業に取り掛かりましょう」
笑顔のまま勝手に話を終えたリアルテさんはスッと1人席を立ち上がった。
「ん?作業って何の事だい?」
イージオ様がリアルテさんを見上げながら首を傾げる。
「『作業』、必要でしょう?」
リアルテさんの笑みに黒いものが滲み、同意を求めるように視線を私に向け首を傾げる。
……さすがリヤルテさん。話が早いですね。
「そうですね。必要ですよね」
私もリヤルテさんと同じように黒い笑みを浮かべて頷き返した。
そして、2人同時にその視線をリヤルテさんの隣で戸惑っているイージオ様に向ける。
「え?え?な、何?一体何だっていうんだい?」
私達の笑顔から不穏なものを感じたのか、イージオ様が顔を引き攣らせ後ろに下がろうとする。
ギッという椅子が鳴る小さな音を聞きながら、私達は「まぁまぁ」と笑顔を浮かべたまま彼の質問には答えない。
「丁度良いものがあるので、持って来ますね。すぐに戻ります」
リヤルテさんがドSの本領発揮とばかりに楽し気な様子で歩き出し、イージオ様の衣裳部屋へと向かう。
「ミラ、これは一体どういう事なんだい?」
「すぐにわかりますよ。大丈夫、痛くも痒くもありません」
……肉体的には。
***
「き、君達、これは……」
戸惑いの表情を浮かべ鏡……私がいる鏡ではなく、極々普通の鏡の前でイージオ様が顔を引き攣らせる。
「プッ……お似合いですよ、イージオ様」
その様子を見て、リヤルテさんが笑いを堪えるように口元を手で覆って視線を逸らせた。
「ってか、何で似合っちゃってるんですか!?」
私はリヤルテさんとは反対に、イージオ様のそのお姿を見て愕然としていた。
「それ、嬉しくないからね!!」
遂にイージオ様が涙目で叫んだ。
……うん。私もその格好が似合ってるって言われても嬉しくない。
涙目でプルプル震えながら鏡の前に立っているイージオ様の格好はそれはもう凄い。
頭には音楽室の肖像画の人達の髪形を更にボリュームアップさせたようなド派手な鬘。
髪色はイージオ様の地毛に似せてあるのに、艶は全くと言っていい程なく、所々で絡んでいる部分もあるそれは、デザインも質も最悪だ。
顔には口元に大きな黒子を書き加え、凄くダサい眼鏡を掛けている。
服はゴテゴテと装飾品が付いていて、見るからに成金という感じだ。
格好だけみると、まんま三流の悪趣味成金悪役という感じなんだけど……何故かイージオ様が着ると妙に色っぽく見える。
服を選んだ時はさすがにこれはヤバいだろうと思ってたはずなのに、「これはこういうスタイルで最先端のファッションなんじゃないだろうか?」とさえ思えてしまう。
「リヤルテさん、異世界育ちな私からしたらこの格好はダサいように感じるんですけど、この世界ではこれが最先端のお洒落という事は……?」
「ないですね。完璧なるダサくて悪趣味な三流成金スタイルです。妙に似合ってしまって、これはこれで有りなんじゃないかと錯覚しているだけです」
「ですよね~」
あれですよね。衣装だけ見たら「うわっ。ダサッ!着たくないわぁぁ」って思うような代物でも、映画に出てくるイケメン俳優が役としてその格好をしていると「格好いい!!」と思えてくるというイケメンマジックの上級編。
「ねぇ、ちょっと君達!私を置き去りにして話してないで、何でこんな格好させられているのか説明してくれるかな!?」
イージオ様を眺めならリヤルテさんと、さてどうしたものかと話していると、イージオ様が拳をブンブン振りながら潤んだ瞳で睨んでくる。
何のご褒美……あ、間違えた。最近ドS様によるドSトークをよく聞かされるものだから、どうやら私も少し毒されているようだ。気を付けなくては。
「すみません。つい楽し……真剣に悩み過ぎて、説明するのが後回しになってしまいました」
「今、『楽しくて』って言おうとしたよね!?」
イージオ様の拳の振りが更に激しくなって、怒っていますをアピールするように唇が僅かに突き出される。
頭の鬘が重い上にバランスを保ちにくいせいで、行動が制限されている中で一生懸命訴える感じが滅茶苦茶面白可愛い。
普段の凛とした感じからかけ離れているところが尚更グッとくる。
「そんな事ないですよ!真剣に悩んでますよ!!……ここで如何にイージオ様の魅力を軽減するかによってこれからの流れが大きく変わるんですから!!」
「え?そうなの?」
頑張って真剣な表情を作って拳を握りながら訴えると、イージオ様が確認するように首を傾げ……ようとして、ずり落ちてきた鬘を慌てて手で押さえて頭の位置を元に戻した。
ちょっと、リヤルテさん。口元押さえてても肩が震えている時点で笑っているの丸わかりですからね?
いや、確かに私も「イージオ様、すぐ信じ過ぎ!!確かに嘘は吐いてないけど、どう見ても怪しいでしょ!?」と心の中でツッコミを入れたけどね。
私はコホンッと小さく咳払いし、苦笑しそうになる自分を落ち着かせて、再度真面目な顔でイージオ様に説明をした。
「以前にもお話した通り、魔女は無類の男好きです。そして、とても嫉妬深く陰険で、国内でも人気のあるスノウフィア王女の事を嫌っています」
私の言葉に、イージオ様が眉を僅かに顰める。
その瞳には、スノーフィア王女への同情が浮かんでいる。
「今、イージオ様とスノーフィア王女の縁談の話が順調に進んでいるのは、あくまで御2人の縁談が上手くいかないようにとグリーンディアの王妃様が流した『モテない行き遅れ男』という偽の情報を信じているからに過ぎません」
「……それは偽の情報ではなく事実じゃ?」
私の言葉に、今度は眉尻を下げてしょぼんとした表情になる。
本当はがっくりと俯きたかったんだろうけど、ここでもやはり頭に乗せた大きな鬘が邪魔をしているようだ。
……いい加減取っちゃえばいいのにと思いつつも、見ていて面白いのので黙っておく。
「いいえ、『偽の情報』です。イージオ様、このやり取りにも飽きたので、いい加減ご自身の美貌を自覚して下さい」
私がサラリッと言い切ると、イージオ様は頭のバランスを取りながらに器用に上目遣いになり、不満を訴えるように私を見てくる。
「要するに、魔女はイージオ様が結婚相手には好ましくない相手だと思っているからこそ、この縁談に乗り気なのです。それがスノーフィア王女への嫌がらせになりますからね。でも、それがもし偽の情報だとバレたらどうかなるでしょう?……答えは簡単です。縁談の邪魔をしイージオ様を自分のものにしようとするでしょう。魔女は良い男は全て自分のものと思ってますから」
その状況を想像して、私の顔が必然的に険しくなる。
確かに見た目的には絵になる2人かもしれない。
魔女も容姿だけは極上だし。
でも、やっぱり中身は腐りきっている最低女だ。
私の癒しであり聖域ともいえるイージオ様が穢されるのは耐え難い。
思わず唇を噛み黙り込むと、私の代わりに今度はリヤルテさんが口を開いた。
「縁談がある程度進んでいる状態で、ホワイティスの国王陛下のお目通りも済んだ後であれば、立場もしっかりと固まり対応もしやすくなりますが、そうなる前に破談にされ、裏から個人的に狙われると少々厄介な事になるでしょうね」
説明の言葉を継いでくれたリヤルテさんの表情も、嫌そうに歪む。
その状態はきっと、リヤルテさんにとっても好ましいものではないのだろう。
「立場的にはこちらも王太子という地位があるのでそうやすやすと愛人にはされないでしょうが、相手は魔女ですからね。人目、それも夫の目があるところでは堂々と動くことは出来ないでしょうが、人目のない状態ではどんなイレギュラーな手を使ってくるかわかりません」
話しながら、リヤルテさんの表情が更に苦々しいものへと変わる。
いつも執務室では厄介な貴族相手に飄々と躱している彼がこんな表情をするという事は、私が考えていた通り、とても不味い状況になると予測しているという事だろう。
「それに、もし現段階で縁談の話がなくなれば、ホワイティス王国にグリーンディア王国の王太子自らが赴く理由も、あちらの国王陛下に1対1の対談を求める理由もなくなってしまいます。ミラ嬢の事について探りを入れたり、協力を求める場も失う事になります。そんな事になったら……アスリア嬢の泣き顔『写真』が手に入るのが遅れてしまうではありませんか」
「……お前はブレないな、リヤルテ」
「……ブレませんね、リヤルテさん」
私とイージオ様はほぼ同時に呆れ交じりに呟いた。
彼のこのブレなさはある意味とても安心する。
「まぁ、そういうわけなので、イージオ様にはモテない男に見えるような格好をして頂き『写真』を取る必要があるのです」
そんな私達の言葉など、まるで聞こえていないかのようにリヤルテさんは説明を終えた。
私は溜息を1つ吐いて気持ちを切り替え、ニッコリと笑顔を浮かべ、イージオ様に頭を下げた。
「魔女から受けている制約のせいで黙っている事は出来ても、嘘を吐く事や命令を拒否する事は出来ないので、本物の『モテないイージオ様の写真』が必要なんです。なので協力してください」
リヤルテさんの最終的な目的はともかくとして、説明してくれた内容は私が言いたかった事、頼みたかった事そのものだ。
私からもその内容に協力してもらえるよう、イージオ様に頼む必要がある。
「……そういう事なら仕方ないね」
小さな嘆息の後、イージオ様の肯定声が頭上から聞こえた。
私が頭を上げた時には、イージオ様は少し困ったような顔をしつつも笑みを浮かべてくれていた。
「有難うございます!!」
よし。これで言質は取れた。
後は、イージオ様の美貌が薄れるような格好を考えて、その写真を撮って魔女に見せるだけだ。
ただ……
「でも、この格好はやり過ぎじゃないかな?」
イージオ様が両腕を広げるようにして、自分の格好を指し示す。
「いえ、私も最初はネタ的な意味でその格好をして頂いたんですけど……何故かその格好でも綺麗って思えてしまって」
本来ならどう考えてもやり過ぎで仮装にしか見えないはずなのに、素材が上質過ぎて素材の味を隠せない。
良くてちょっと変わった格好が好きな方レベルの減点しか出来ていない。
「リヤルテさん、さすがにこれ以上の格好ってありませんよね?……むしろ、この服がイージオ様の衣裳部屋にあったのも驚きですけど」
明らかにイージオ様の好みではないだろう服達。
いくら王族でお金に余裕があるとはいえ、ダサすぎて着る可能性が限りなく0に近い服をストックしておく意味がわからない。
いや、むしろ王族にこんな粗悪品を売ろうとする商人がいるのだろうか?
もしいるのならば、イージオ様の美しい髪を切る事を神への冒涜として拒絶したあのメイドさんの爪の垢でも呑ませてやりたい。
「これは……その……母上が……」
「王妃が似合うからとプレゼントしてきた品々ですよ。さすがに着れないと思いつつも、これは単純に王妃の好みの問題で愛情の籠った贈り物には違いないからと大切に保管してあったので、今回使用させて頂きました」
視線を逸らしたつつ口籠るイージオ様の代わりにリヤルテさんが躊躇いなく説明してくれる。
……どうしよう。イージオ様のいじらしさが哀れに思えて仕方ない。
「これ、どう考えても嫌がらせですよね?」
「ええ、確実に。まぁ、これを着たイージオ様を笑おうと思ってやっていたようですが、その前に王妃の用意した服を着る勇気がない事に罪悪感を覚えたイージオ様が、大勢の人の前でその服を抱きしめ、大切に思うが故に着られないのだ言い訳代わりに訴えたせいで、自分のした意地悪が周囲にバレ、気まずくなって着る事を強要する事が出来なくなったようですよ」
ニッコリと微笑むリヤルテさんは、相変わらずの黒さです。
その隣で「え?あれ、上手く誤魔化せたから着るように言われなくなったんじゃ?」と驚いたように目を見開いているイージオ様も相変わらずの天然っぷりです。
「まぁ、そういうわけなので、他にも色々と仮装用の服のストックはあるので試してみましょう」
足取り軽やかに楽しそうに衣装部屋に向かうリヤルテさん。
反対に、イージオ様はあの重そうな鬘を外し、ぐったりと項垂れていた。
――1時間後――
「何故、全て似合ってしまうんでしょうか?」
「さすがに私もこれは予想外でした」
今度は私とリヤルテさんもぐったりとしていた。
ちなみに、イージオ様は精神的な疲労感だけでなく、肉体的な疲労感も加わって瀕死状態だ。
あれから、色々なパターンの服をイージオ様に着て頂いた。
思わず「お爺さん!?」と言いたくなるような地味過ぎる格好。
原色使いまくりで目が痛くなりそうな派手な格好。
吸血鬼のような真っ黒のマントを着てもらい、自分に酔っているナルシストポーズを決めてもらったりもした。
いっその事、顔を隠してしまえばどうかと思い、仮面も付けてみた。
血迷って、ピエロメイクをしたりもした。……ちなみに、何故そのメイクがリヤルテさんに出来たのかは謎だ。
とにかく、色々なイタイ格好をさせまくったのに、何故か美形オーラがなくならない。
仮面なんて顔がほとんど見えないのに、なんとなく綺麗な人だってのがわかってしまう。
これは最早呪いと言っても良いレベルなんじゃないだろうか?
「ねぇ、君達、本気でやってる?私で遊んでない?」
屍のように椅子の背に凭れていたイージオ様が涙目で私達をジーッと見てくる
ちなみに今は、超若作り少年風ハーフパンツスタイルだ。
チラッと見える膝小僧が眩しくも美しい。
「いえ、最初はちょっと楽しんでいたんですけど、あまりにも美形オーラがなくならないんで、途中からはムキになって色々試してた感じです」
うん、最初は楽しかった。
でも、『モテないイージオ様の写真』を撮らないといけないのは事実だから、途中からは焦りも入って必死で似合わない服装を考えた。そして、ムキになった結果迷走した。
おそらくそれはリヤルテさんも同じで、初めは黒い笑顔全開で楽しそうにやってたのに、途中から「チッ、これも駄目か」とイラついたように舌打ちをし始めた。
「これはもう、残念系に仕立て上げるのは諦めて、方向性を変えるしかないですかね?」
この手段は多少なりとも危険を伴う為、使いたくはなかったんだけどなぁ。
「方向性を変えるというのは?」
リヤルテさんが私に視線を向ける。
イージオ様もこのお着換え地獄から脱出できるかもしれないという期待の眼差しを私に向けてきた。
「綺麗なものは綺麗なままで。でも、結婚は嫌だと感じさせるように仕上げるのはどうでしょう?」
「具体的には?」
リヤルテさんが眉間に皺を寄せ、そんな方法があるのかと訝しむような表情を浮かべる。
イージオ様は、もうこれが終わるなら何でも良いからやってくれという感じだ。
そんな2人に対して、私は神妙な顔で言った。
「女装でいきましょう」
結論から言おう。
『結婚したくない男性』という意味でこの作戦は成功した。
普通の女性だったら、あんな綺麗な女装男子を夫として隣に立たせたくないだろう。
男性相手なのに百合っぽく見えるというのもあるし、それ以上に女性としてのプライドもボロボロになる。
おそらく、魔女の好みの『男性』からも外れる。
後は……
「魔女が自分より美しい『女性』とイージオ様を認定しなければ、良いけど」
お化粧で、本来の美しさを多少軽減させてはあるから、ギリギリ魔女と並んでも同等か若干下位の美女に見えるはずだ。
それに男だから、魔女の嫉妬対象には元々入っていないはず。……女装のせいで若干怪しいけど。
きっと大丈夫。
きっと……。
……魔女の反応が怖くて仕方ない。