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14 不機嫌なドS様と私と王子


「ミラ嬢、ひとまず貴方、小さくなって下さい」



晩酌タイムに久々顔を出した不機嫌なオーラ全開のドS様ことリヤルテさんは、第一声でそんな意味のわからない要求を私にしてきた。


「……申し訳ありませんが、私は鏡の精であって、7人の小人ではないので小さくはなれません」


「誰が7人に分裂しろと言ったんですか?人の狩りを邪魔するような迷惑な鏡がそんなにあったら、粉々に砕いてマグマの中に放り込みたくなってしまうじゃありませんか」


「扱いが酷いっ!!」


頭に疑問符を大量に浮かべながらも、至極真っ当な返答をしたつもりだったのに、リヤルテさんは黒い笑みを浮かべて酷い事を言う。


あ、でもよく考えたらこの世界って、童話の『白雪姫』自体が存在しないから、元のネタが通じないのか。


なんて不便な!!



「リヤルテ、もうちょっと順を追って説明してあげてよ。それじゃあ、ミラだってわかんないよ」


不機嫌そうなリヤルテさんの半歩後ろから顔を出したイージオ様が苦笑を浮かべながら注意してくれる。


どうでもいいけど、普通立ち位置的に主従って逆じゃない?


騎士様とかは王族を守る為に前に出る事もあるだろうけど、自分が言いたい事を言う為に主の前に立つのは臣下として駄目なんじゃないだろうか?


まぁ、イージオ様自身があんまり気にしてないみたいだし、公の場ではさすがにやらないだろうからいいのかもしれないけど。


「わかりました。では、貴方のその屑硝子しか詰まってない頭にもわかるようにご説明して差し上げましょう」


「ちょっ!私鏡の中にいるけど人間ですよ!頭に詰まってるのは脳味噌ですよ!!っというか、屑硝子って鏡ですらないじゃないですか!!」


「ではまず、何処から話し始めましょうか……」


「って、私の反論聞いて下さい!!」



……見事にスルーされました。


いや、「はんっ!」って感じで鼻で笑って却下された雰囲気はあったけどね?私はあれを返事とは認めません。認めませんからね!!



「貴方に勧められた獲物ですが……確かにとても良いものでした。その点に関しては、まぁ褒めて差し上げます」


「……それはどうも」


背後に黒いオーラを滲ませつつ、とても良い笑顔を浮かべるリヤルテさんに、私は頬を引き攣らせながらもなんとか笑みを返した。


私が勧めた獲物って……やっぱり、どう考えてもアスリアさんの事ですよね?


ごめんなさい、アスリアさん。ここまで厄介な人だとは思わず貴方を勧めてしまいました。


いつかお会いする機会があったら、土下座して謝るんでどうか呪わないで下さい。



「そこで私は、折角見つけた獲物――愛玩動物を捕獲する為に、ここ暫く狩りを楽しんでいたんです。事前に罠を仕掛けて目的の位置に自ら来るように誘導したり、隙を狙って攻撃を仕掛けてみたりして、逃げ纏う獲物を徐々に追い詰めていくのはとても楽しくて……」

「……って、ちょっと待って、リヤルテ!君、何の話をしているの!?ミラに小さくなってもらうって事についての説明は!?」


恍惚とした表情で狩りについて本格的に語り出したリヤルテさんの様子を見て、イージオ様がストップを掛けた。


下手にリヤルテさんを突いてドSを出したくなかったから、敢えて聞き流そうかと思っていたけれど、やはりこれは話の本筋ではなかったようだ。


「その点に対してもちゃんと説明はしますよ。ただ、今は先に狩りの邪魔をされて苛立っている私の思いをぶつけさせて下さい」


「私怨優先ですか!?」


「フフフ……」と魔王様も真っ青もしくは仲間に勧誘したくなるような黒い笑みを浮かべたリヤルテさんが、その視線を私にロックオンした。


や、やめて下さい!


私、お局様耐性はあってもドS様耐性はそこまで強くないんで!!



「貴方がイージオ様に余計な事を言ったせいで、イージオ様がホワイティス王国に行っている間に、獲物を完璧に囲い込もうと思っていたのに、御供を命じられてしまったではありませんか。責任取って、私を置いていくように説得して下さい」


「なっ!それ、完璧な八つ当たりじゃないですか!?大体、状況や立場から考えて、イージオ様がホワイティスに来るのなら貴方も同行するのは当然ですよね?」


「そこを言いくるめて置いていかせようと思っていたのに、貴方のせいで私が残る目的がバレてしまって、強制的に同行させられる事になったのです。こちらとしてはいい迷惑です」


「いやいやいや!そんな理由で居残ろうとしないで下さい!!イージオ様を単身ホワイティスに送り込む気ですか!?いくら優秀なイージオ様でもあの魔女の相手は……って、あれ?イージオ様、ホワイティスに来るんですか?」


リヤルテさんに詰め寄られて反射的に言い返していた私の脳に、ワンテンポ遅れてその内容が入ってくる。


瞬きを繰り返して、確認するようにイージオ様を見ると、その麗しい顔に苦笑を浮かべながら私に向かってゆっくりと頷いて答えてくれた。



この綺麗な人がホワイティスに……魔女の前に……。


く、食われる未来しか想像できない。



「き、危険ですよ!?だって、相手はあの男好きの魔女ですよ!?純粋で綺麗なイージオ様が単身で来たらパクッと食べられちゃいますよ!?」


全身の気がブワッと逆立つような感覚を覚えて、必死で言い募るとイージオ様が少し驚いたように目を見開いた。



「え!?マージア王妃は人を食べるの?黒の魔女って確か美への執着が強くて『悪い魔女』に堕ちた人だよね?男を食べると美しさを保てるとかそういう秘術があるって事?」


「そこにそんなボケ要りませんから!!少し考えれば、色っぽい意味での『食べちゃう』だって事はわかりますよね!?……リヤルテさん、これでもイージオ様に貴方抜きでホワイティスに来るよう説得しろと!?」


カッと目を見開き、リヤルテさんに詰め寄……れはしないから、鏡面に詰め寄ってドンドンと叩きながら訴える。


リヤルテさんはリヤルテさんで、イージオ様のこの抜けっぷりを見て、何か思うところがあったようで、思案顔をしている。


1人だけ状況を掴めないイージオ様は「え?え?」と私とリヤルテさんを交互に見つつ戸惑いを露わにしていた。


その様子も可愛いいけど、今はそんな事は言っていられない。


ボケてもいい時と悪い時っていうものがあると思う!!


「こんなんでも、いつもは外交の場面に出るとそれなりにきちんと仕事をこなすんですが……確かに今回は相手が悪いかもしれませんね。貴方がきちんとフォローをして下さいね?」


「鏡の中からどうやってフォローしろと!?しかも、相手、認めたくはないですけど、最悪な事に私のご主人様的な人なんですよ!?」


ニッコリと満面の笑顔で私にイージオ様の面倒を押し付けようとしたリヤルテさん。でも、微妙に視線が合わない辺り、きっと無理だというのはもう理解してるんだと思う。


「いや、今回は私とスノウフィア王女との縁談についての話と顔合わせも目的に含まれるから、さすがにマージア王妃がちょっかいを出してくる事はないんじゃないかな?ほら、ホワイティス国王の目もあるわけだし」


「「考えが甘い!!」」


見事に私とリヤルテさんの声が重なった。


同時に、2人分の鋭い視線が向けられてイージオ様がビクッとする。


イージオ様は見た目が綺麗過ぎるせいで、パーティーに出てもいつも遠巻きにされるか、ご令嬢方がポーッとしている間に会話が終わってしまう事が多い。


そんな状況の中で長年培われてきた「自分はモテない」「人気がない」という感覚は、最近少しずつ改善はされているけど、まだ彼の中に根深く残っている。


その結果、女性からターゲットとして狙われるという危機感が非常に低いのだそうだ。


リヤルテさん情報だから、この辺は間違いない。


何とも危険極まりない事だ。



「リヤルテさん、ここは諦めてイージオ様と一緒に来て下さい」


「折角、狩りが大詰めになってきて楽しい所ですのに……」


リヤルテさんは私の言葉に舌打ちはするものの、今度は無茶な提案をする事はなかった。


自分の本能に忠実な人ではあるけれど、この辺の分別はしっかりとしているようでよかった。


「それでしたら、作戦を変える……という考え方はどうでしょう?」


「作戦を変える?」


私の言葉に、意味がわからないというように眉間に皺を寄せてリヤルテさんが首を傾げる。


私はそれに対してニンマリと笑みを浮かべた。



拝啓、アスリア嬢。


もうここまで来たら、きっと貴方はリヤルテさんからは逃げられないと思います。


ですから、腹を括って生贄……ゲホッゴホッ……幸せになる道を選んでください。


……いつの日にか、土下座には伺いたいと思います。



「そうです。押してダメなら引いてみろ作戦です」


罪悪感はあるけれど、もう既に1度リヤルテさんに差し出してしまった以上、アスリアさん回収は諦めた方が良い。


なら、ここは腹を括ってアスリアさんを犠牲にする前提で策を練らせて頂こう。



「押してダメなら引いてみろ……ですか?私には押し切れる自信がありますけれど?」


ニッコリと笑みを浮かべて宣言しつつも、私の言葉に興味を示してくれたリヤルテさんに、私は乾いた笑みを浮かべつつ「いやいやいや」とツッコミを入れる。


「確かにリヤルテさんなら出来るでしょうが、そこは敢えて相手が自分の所に自ら転がり落ちてくるように仕向ける方向でいきましょう!」


グッと拳を握って訴えると、リヤルテさんは「ほお」と言いつつも、私の作戦を聞く体勢に入る。


ちなみに、この間イージオ様は私達の会話に頭が追いつかないのか、戸惑った様子でキョロキョロするだけで、言葉を発する事はない。


「おそらく、アスリアさんはここ暫く続く『狩り』の効果で、リヤルテさんに追われる事に慣れてしまっているでしょう。それに、きっと貴方の事だから、追い詰めるだけじゃなくて飴と鞭の使い分けもしていますよね?」


リヤルテさんはドSだから相手を追い詰めたり泣かせたりする事に楽しみを見出している。


けれど、本気で捕獲――手に入れようと思っている女性相手に、追い詰めるだけ追い詰めて、その心が手に入らないようにしてしまうような馬鹿な真似をするような人ではない。


あくまで、自分に好意を抱かせつつ、自分の一挙一動に焦らせ、自分の為に泣かせる事を楽しむタイプだ。


そんな彼が、お気に入りへと昇格させたアスリアさんに鞭だけ与えて飴を与えていないなんて事は考えられない。好意を育てる事を怠るなんて事はあり得ないのだ。



「まぁ、そこは当然ですよね?私は愛玩動物を所望しているのですから、懐かなくては意味がありませんし」


あの、言っている事が最低な事には気付いてますか?


まぁ、私自身も生贄を差し出そうとしている時点で最低は最低なんですけどね。


っというか、愛玩動物と言いつつ、その目が愛情に溢れているのが反対に怖いんですけど!!


し、知らない!わからない!私は貴方のその仄暗い愛情になんて一切気付いてませんから!!




……ごめん、アスリアさん。本当にごめん。何度でも謝ります。



「……で、でしたら、想像してみて下さい。嫌だ嫌だと逃げつつも、気になり始めている相手が急に自分の前に姿を現さなくなったら?当然のように与えられていた愛情(?)が急に途絶えたら?嫌でも気になりますよね?」


素直に慣れなくて距離を取ろうとするのに、実際離れられると寂しくていられない。


失って初めて相手の大切さを知り、自分の思いに気付く。


そして、今度は自ら相手を追う……恋愛小説でよくあるパターン。所謂王道というやつだ。


若い頃は、結構こういう展開が好きで、胸をキュンキュンさせながら読んでいた。


大人になってからは、「世の中こんなに上手くいかないし!」と毒づきつつも、一時だけでもその世界に浸れるのが楽しくて、ツッコミを入れつつ読んでいた。



でも、目の前のリヤルテさんを見て私は思う。


……この人だったら、相手を見事操作して、夢物語のような王道の展開をやり遂げるに違いないと。


リヤルテさんにはそれだけの(腹黒い)オーラがある。



「なるほど。確かにそれで相手に泣いて縋らせるのは楽しそうですね」


「っ……そうですね」


リヤルテさんの嬉しそうな表情と相反したS発言に、咄嗟に発しそうになったツッコミの言葉を飲み込み引き攣った笑みを浮かべる。


ここで私が余計な事を言って、リヤルテさんに「やっぱり居残り組になります」と言われたら困るのはこちらだ。


イージオ様の大切な貞操の為にここはアスリアさんに頑張ってもらう他ない。


だ、大丈夫。きっと、泣いて縋らせた後には飴が待っているはずだから!!



「そうなると、出発までに色々と仕込みをしておいた方が良いですね」


ウキウキと今後の事を考え始めたリヤルテさん。


これで、イージオ様がホワイティス王国に来た時に魔女にパクッと食べられちゃう確率は大幅にダウンしたけれど……何故だろう?素直に喜べない。



「……イージオ様、ホワイティス王国から無事帰られた際には、是非アスリアさんにご褒美をあげて下さい」


私の土下座だけでは足りない気がして、アスリヤさんの犠牲の上に貞操を守られる事になったイージオ様にアスリヤさん用のご褒美を用意してくれるようにお願いする。


イージオ様は、まだしっかりとは状況を理解出来ていないようだけど、リヤルテさんがホワイティス王国に同行する事が決まった事、その事でアスリアさんが迷惑を被る事になった事は察する事が出来たようだ。苦笑いを浮かべつつも承諾してくれる。


「ご褒美は休暇が良いですね。私と彼女、一緒に1週間程のお休みを下さい」


「いや、それはアスリア嬢にとってはご褒美にならないんじゃないか?」


そこはちゃんとわかってるんですね、イージオ様。偉い偉い。


「大丈夫です。休みを頂く頃には、全方角包囲を完了しておくつもりなんで。きっと彼女も喜んでくれます」


「……その件については、帰国後、アスリア嬢本人に訊く事にしよう」


賢明な判断です、イージオ様。


さすが、プライベートでは天然ボケ連発だけど、仕事は出来る素敵王子様!!


「わかりました。彼女も私との休暇を望んでくれるよう、調きょ……愛情を育んでいきたいと思います」


仕事中はまず見る事の出来ないキラキラした笑顔を浮かべながら、物騒な言い間違えを平然としてみせたリヤルテさんに私とイージオ様は頬を引き攣らせる。


「ほ、程々にね?」


「もちろんですとも」


釘を刺すイージオ様の言葉にとってもいい笑顔で返事をするリヤルテさんに不安しか感じない。


でもまぁ、最悪、イージオ様が何とかしてくれるだろう。


今はひとまず……見て見ぬふりをしておこう。



「さて、重要な問題が解決した所で、話題を戻しましょうか」


いや、確かにリヤルテさんが同行するかしないかは重要な問題かもしれないけれど、行かない理由は「重要」どころか「くだらない」レベルの問題でしたよね?


単純に、リヤルテさんがきちんと社会人らしく個人の娯楽より仕事を優先してくれれば問題にすらなってなかったですよね!?


……もちろん、そんな事を言って、前言撤回されても困るから言わないけど。



「ホワイティス国王からイージオ殿下に、1月後に開かれるホワイティス王国の建国記念日のパーティーへの招待状が届きました。そこで、スノウフィア王女との顔合わせや、ホワイティス国王陛下との会談が出来るそうです」


やっとまともな説明を聞く事が出来た事にホッとしつつ、「あぁ、なるほどね」と頷く。


言われてみれば、もうすぐホワイティス王国の建国記念日だ。


お城にある鏡の向こうでは、お城勤めの人々が通常の業務に併せ毎年行われる建国記念のパーティーの準備に追われている。


現在、イージオ様とスノウフィア王女は正式な婚約関係ではないけれど、水面下では少しずつ話が進んでいるところだから、この機会に1度王女自身や父王と顔合わせをしておく方が良いだろうという事だろう。



「婚姻の話は追々考えていくにしても、ミラの件についてはなるべく早く解決した方が良いからね。手紙や使者を通してのやり取りでは、マージア王妃に情報が漏れる可能性も高いし、ホワイティス国王の反応も読み取りにくい。直接話せる機会がもらえるというんなら、誘いを受けておこうと思う」


ニッコリと微笑むイージオ様に、少し胸が熱くなる。


イージオ様が私の話した話を信じてくれて動いてくれているだけでも嬉しいのに、色々な事に気を配りつつもなるべく早めに解決しようとしてくれている事が更に嬉しい。


リヤルテさんの黒さ全開の笑みで荒んでいた私の心が癒される。


「まぁ、そういうわけで、1週間後にはイージオ様にはホワイティス王国に向けて出発して頂く事になりました。……その際に困るのが貴方の存在です」


イージオ様の麗しの癒しスマイルにほんわかしていたら、リヤルテさんがその空気をズバッと切る。


如何にも面倒くさそうな表情で指を指されて緩み掛けた顔が引き締まる。


物語の中で『困る存在』的な事を言われた後って、大概「死ねぇぇ!!」と襲われるか、「さっさと何処かに消えてくれ」と追い出されるのがパターンだよね。


さすがに、今までの話の流れからしてそうはならないだろうけど、ここは真面目に話を聞いておかないと怒られる場面だ。


それ位、私にだってわかる。


「ここに貴方の鏡を置きっ放しにして、もし壊されたり盗まれたりしたら私達は重要な証拠を失う事になります」


そこはせめて一言だけでも私自身を心配する言葉を下さい。


「それに、イージオ殿下来訪直前という1番向こうの出方に注意を払うべき時期に、ホワイティス側の情報が入って来ないのも痛いです」


だから、私自身を心配する言葉を……はい、すみません。私は鏡です。道具です。ドS様に鏡の役割として惜しんで頂けただけで十分です。


だから、私の心を読んだように冷たい目で見るのは止めて下さい、リヤルテさん!




「それに、私がいない間にミラにもしもの事があったらって考えると心配だしね」


リヤルテさんの冷たい視線に晒されてビクビクしていた私に、イージオ様が気遣うような笑みを浮かべてくれる。


さすがイージオ様!私の事を心配して下さるなんて、リヤルテさんとは大違い!!癒され……リ、リヤルテさん、ごめんなさい!だからそんなに凍えそうな笑みを向けないで下さい!!



「まぁ、そういうわけで、貴方にも……正確には貴方のいるこの鏡にも同行して頂くつもりなのですが、いかんせんこの鏡は大き過ぎて、目立ちますし持ち運ぶのにも邪魔です。ですから、隠し持てる位のサイズに小さくなって下さい」


なるほど。それで、話は冒頭に戻るわけですね!……って、んな事あの一言だけでわかるわけないでしょ!!


ってか、小さくなれって私にどうしろって言うの!?私、ここから出られないし、この中ではある程度魔力で好き勝手出来るけど、外に対しては一切、力を使えないんですけど!?


「いえ、私には無理です」


「じゃあ、黒の魔女にでも頼んでみますか?」


「本末転倒!魔女に私とイージオ様達が繋がっている事がバレたらアウトでしょうが!!」


「我儘ですね」


「我儘とかそういう問題じゃないですよね!?」


めんどくさそうに溜息を吐くリヤルテさんに、文句を言う私。でも、私の言ってる事、間違ってないよね!?


「リヤルテ、ミラをからかうのはそれ位にしておきなよ」


私達のやり取りを見ていたイージオ様が苦笑を浮かべながら間に入ってくれる。


うん、安定の優しさですね。


「すみません、殿下。このキャンキャン吠える感じが楽しくて」


「……いや、本当に止めてあげて?」


対してすまなそうな様子も見せずに詫びるリヤルテさんに、イージオ様が頬を引き攣らせる。


どうやら、リヤルテさんの提案は冗談だったらしい。


……彼が言うと冗談が冗談に聞こえないのが恐ろしい。


「鏡を小さくする位の魔法だったら、私にも使えるから大丈夫だよ。出発直前に魔法を掛けて鏡を小さくして私が持ってく事になるから、ミラは移動中、私が良いという時以外は静かにしていてね?私のポケットや荷物から人の声がして調べられたら面倒な事になるかもしれないから」


「あ、なるほど!了解しました。移動中は気付かれないように静かにしています!!」


イージオ様の説明に納得してコクコクと頷く。


割れた鏡を魔法で修復する事が出来たイージオ様だ。鏡のサイズを小さく出来ると言われても不思議はない。


それであれば、鏡面が小さくなる分、見えにくいとか多少不便な事もあるかもしれないけど大きな問題はない。


むしろ、ずっとイージオ様の傍に鏡を置いてもらえて、気分だけでも旅が出来て、彼と繋がる唯一の手段である鏡の安全も確保出来るその状況は大変有難い。


「不便を掛けて申し訳ないけど、よろしくね」


「大丈夫ですよ。この鏡の中の世界には私以外誰もいないので、特に声を出す必要もないですし。たまに魔女が来たりする事もありますけど、この鏡自体をしまっておけば、こちらで話している声がそちらに聞こえる事はないはずです」


魔女と繋がっている鏡だけは特殊で、常に魔女の声が届く所に移動してくるけれど、他の鏡は片付けてしまえはそれまでだ。


片付けられた鏡は外界との繋がりが一時的に切断されるのか、目につく所まで引っ張りだして来ないと、そこから外の音が漏れ聞こえることはないし、反対にこちらの音が向こうに聞こえる事もないと……思う。


前に、イージオ様がまだ帰ってきていないと油断して、大声で歌いながら早めに晩酌の用意をして、鏡を用意したらもう既にそこにいたなんて事があったけど、その時も私の歌はイージオ様には聞こえていなかったし。


「そう?それなら良いんだけど」


私が「声を出す必要もない」と言った時、一瞬だけイージオ様が切なそうな表情を浮かべたけれど、それには気付かないふりをした。


イージオ様も、その後その点について何か言う事はなかった。



「ミラの件が少しでも前進するように頑張るから、ミラも協力してね?」


「はい、もちろんです!」


私達はお互い笑顔で頷きあった。


……あ、リヤルテさんだけは笑顔ではなく面倒くさそうな顔してました。

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