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11 私と王子とドS様

夜になると、イージオ様がいつ来ても良いように、私は準備万端で鏡の前で待機する事にした。


今日の服装は、真面目そうに見える襟がしっかりと詰まったシンプルな濃紺のワンピース。


イージオ様は今日はリヤルテさんも連れてくるって言ってたから、印象が少しでも良くなるように考えてのコーディネートだ。


彼は絶対に気に入らない相手は無視するか、排除するか、チクチク苛めぬくタイプだから、第一印象は凄く大切になるだろうと見当をつけた結果だ。



「ミラ、知ってると思うけど、彼がいつも私を助けてくれる優秀な部下のリヤルテ・サーディックだ」


「……」


寝室からイージオ様の私的スペースにある応接室に移動させられた後、布を外されたその先に、私にとっては見慣れた美男子が2人立っていた。


その表情は対照的で、一方は神々しいまでの穏やかで美しい笑みを浮かべ、もう一方は眉間に皺を寄せた仏頂面をしている。



「リヤルテ、彼女がミラだ。今は見ての通り、ホワイティス王国の王妃によって鏡に閉じ込められている」


「はじめまして、ミラです。見ての通り魔女の鏡の精をやってます……というか、やらされてます」


「……」



ニッコリ営業スマイルを浮かべて頭を下げた私に、リヤルテさんは無言のまま品定めするような視線を向ける。


「……」


「……」


私は笑顔で、リヤルテさんは警戒心を露わにして眉間に皺を寄せながら、無言でお互いを探り合う。


うん。やっぱりここは私が動くしかないな。


10秒程したところで、私は今日の昼の間に用意しておいたプラカードをサッと取り出し、リヤルテさんに見えるように掲げた。


「……何ですか、それは?」


私の顔からプラカードに視線を移したリヤルテさんの瞳がキランッと輝く。


私は笑顔を崩さないまま告げた。



「ミラが選ぶ、グリーンディア王国、泣き顔が萌る女性ランキング城勤め編です」


……と。


「……ブッ!ちょっ、ミラ!?」


イージオ様が私の言葉に吹いた。


しかし、私は今リヤルテさんの信頼を勝ち取る為に必死だ。そんな事に構っている場合ではない。


「なるほど」


リヤルテさんは私の提示したプラカード見て小さく頷き興味を示す。


ベスト3と、特別枠の「おすすめ」1人。


そこに挙げられた名前を上から順に確認していったリヤルテさんは、「おすすめ」の人物の名前で視線を止め、首を傾げた。


「なぜ、ここに『氷の女』で有名な財務部のアスリア嬢の名前があるんですか?」


指摘された女性――アスリア・クーディストさんは、財務部にお勤めの仕事の鬼。


理不尽な事で怒ったりはしないけれど、適当な仕事をすれば、それこそ周囲が凍てつくような冷たいオーラを身に纏い、淡々と温度のない声で容赦なく指摘をする。


仕事はとても出きる人だし、一生懸命やっている人には何も言わないから、私は嫌いじゃないタイプだけど、彼女に打ちのめされた人は多くて、彼女を見ただけで逃げ出す人が後を絶たない。


図星を指されて逆ギレして酷い言葉を浴びせかける人もいるみたいだけど、そこは『氷の女』の異名を持つ女性なだけあって、正論というなの剣で一刀両断してしまう。


そんな一見涙とは縁遠いイメージの女性が「おすすめ」に挙げられていた事が、リヤルテさんには意外だったようだ。



「フフフ……。よくぞ聞いて下さいました!実は彼女、内に『ギャップ萌え』を秘めた逸材なのです!!」

  

プラカードを持っていな方の手で、ビシッとアスリアさんの名前を指差す。


そんな私の言葉に、意味がわからないとでも言うように、リヤルテさんが眉間の皺を深める。


その隣では、何をどうしていいのかわからないらしく、イージオ様が「は?へ?ちょっ!」と意味を持たない声を発しているけど、スルーする。ここが私にとっての正念場なのだ。



「『ギャップ萌え』とは何ですか?」


リヤルテさんも今はイージオ様の相手はないらしく、視界にする入れる事すらせずに私に淡々と質問してくる。


「『ギャップ萌え』。それは、思わぬ人物の意外な一面を見てキュンとするやつです」


グッと拳を握り力説すると、リヤルテさんが「ほぉ……」と言いながらニヤリッと口の端をつり上げ、「で?」と続きを促してくる。


……うん、どうやら掴みは良さそうだ。


「私は知っているのです。王宮のあまり使われていない図書館の裏で、彼女がいつも人知れず泣いているのを!!」


「……」


「いつもは『氷の女』と呼ばれる程、己の弱さを見せずに頑張っている彼女ですが、それは強がっているだけ。実は、その裏で心ない同僚達に言われた言葉に、傷つき、悲しみ、泣いているんです。そんな女性が人に隠れて流す涙の愛らしさといったらもう……。しかも今ならその涙、独り占めですよ!!萌えませんか!?」


「ちょっと、ミラ!君、泣いてる女性に対して、なんて事を……」


「ふむ。悪くないですね」


「って、おい、リヤルテ!」


この時、お互いの視線をしっかりと見詰めあった私とリヤルテさんの間に、確かな絆が生まれた。


そして、そんな私達を見て、イージオ様は慌てた様子で一生懸命ツッコミを入れてくれている。


……いつも、こんな感じで周りの人にツッコミ入れられたら、親しみの湧くイケメンにイメージチェンジ出来るだろうに。ドンマイ!!


「ちなみに彼女、今、絶賛秘密の婚活中で、明日の夜に隣町の『フォックスウィン』というレストランでやるお見合いパーティーに出るらしいですよ!ちなみに、何故、王都でやるお見合いパーティーじゃないかというと、知り合いに見付かって『アイツ仕事中と態度違くね?』とか『売れ残りの性悪女がお見合いとか笑える』と普段の自分をバラされてバカにされるのが嫌だからなのと、氷の仮面を付けていない素の自分を好きになってくれる人と出会いたいかららしいです!!」


「……よくそんな事まで知ってますね」


感心したように言いつつ、さり気なく懐から取り出したメモ帳にお店の名前を書き込んでいるリヤルテさん。


あれは明日の夜、絶対に見に行く気だ。


そして、知り合いがいないだろうと油断しているアスリアさんに近付き反応を楽しむつもりだ。


自分で仕向けた事ではあるけど、さすがドS様。私の期待を裏切らない!


「王宮内のあまり使われてない図書館にこの鏡の兄弟鏡の1つが置かれているんですよね~。そこから、彼女の弱音吐きスポットが良い感じで見れるんですよ。で、彼女は職場では『氷の女』なんで呼ばれてるだけあって、あんまり親しい友人も出来ないみたいで、愚痴を言えない分、そこで色々と叫んで発散してくんですよね」


「で、それを君が聞いていた……と?」


「イージオ様の鏡の次にお気に入りな鏡です」


リヤルテさんが納得したように頷く。


表情に大きな変化はないけれど、その瞳には楽しげな色が浮かんでいる。



「……ミラ嬢、君とは仲良くやれそうだ」


「有難うございます」


僅かな沈黙の後、私達は固く握手を交わす……事は出来ないから、爽やかな笑顔で頷きあった。


よし、ひとまず難関を突破する事が出来たようだ。良かった、良かった。



「え?ちょっ!?い、今の会話の何処に仲良くなれる要素があったの!?」


私達の間に穏やかな空気が流れ始めた事に戸惑うイージオ様が、私とリヤルテさんの顔を交互に見る。


そんなイージオ様の様子を見て、私とリヤルテさんは顔を見合わせた後、もう一度イージオ様に視線を向けた。



「わからないんですか?」

「わかりませんか?」


ほぼ同時に首を傾げた私とリヤルテさんに、イージオ様は困惑の色を深めたけれど、私とリヤルテさんは微笑みを浮かべて無言を貫いた。


それを見て、更におろおろとするイージオ様がとても可愛かったのは言うまでもない。



***



「さて、冗談はこの位にして……」


ひとしきり自己紹介(?)が終わったところで、リヤルテさんが事前に用意してあった紅茶をティーカップに注ぎ、鏡の前に置かれたテーブルに3つ用意してくれる。


1つはイージオ様、1つはリヤルテさん自身の分。そして、最後の1つは鏡の前に。


鏡の中にいる私の分まで用意してくれるなんて紳士だなぁと一瞬思ったけれど、よく考えたらこれは違う。


用意してくれたお茶が、どれだけ良い茶葉を使っているかや、美味しそうなお茶菓子を勧めてくれたりしてるけれども、これも親切心からじゃない。


だって……


「リヤルテさん、いくら美味しい物を用意して下さっても、私、触れないんですけど?」


「ええ、知ってます。ただ、(悔しい)気分だけでも味わって頂こうと思いまして」


ニッコリ笑って告げられた言葉に、一瞬、副音声が聞こえた気がする。


うん、これは優しさじゃなく、美味しいものを前に飲んだり食べたり出来なくて悔しがる私を見たいだけだ。


クソッ。これがドS様流の挨拶か何かなのか!?


「リヤルテ、お前にしては気が利くね」


リヤルテさんの言動に屈託のない笑みを浮かべるイージオ様。


執務中は絶対見る事の出来ない種類の笑みにちょっとほっこりするけれど……イージオ様、それは気が利くとは言いません。


悪意籠りまくりだから!気付いて!!


そして、「お前にしては」って言った瞬間にリヤルテさんの目がキラッと光って、どす黒いオーラが滲み出た事にも気付こうよ!!


じゃないと、明日の執務の時間が大変な事になる事間違いなしだから!!


「……お褒めに与り光栄です。お礼に、明日は私の分の仕事も殿下に何割かプレゼントさせて頂きますね」


「え?」


あぁ、ほら。凄い良い笑顔で仕事押し付けます宣言されちゃってるし。


「私もいい歳ですからね。そろそろ真剣に婚活をしてみようかと思いまして。明日は隣町のレストランでやるお見合いパーティーに出席する予定なんですよ」


って、やっぱりアスリアさんに会いに行く気か!!


……アスリアさん、ごめん。でも、貴方の涙が可愛いと思ったのは嘘じゃないんです!


それに、考えようによっては、リヤルテさんって(ちょっとドSだけど)結構好物件だと思うし、お見合い相手としては良いと思うんだ!!(……多分)


「そ、そうか。確かにリヤルテも私と同じで、結婚を考えた方がいい歳だもんな。いいぞ、行って来い。何だったらお忍びで私も付き合って……」

「「貴方にお忍びは無理でしょう」」


私とリヤルテさんの声が綺麗に揃った。


どうやら彼も私と同じ事を思ったようだ。


……イージオ様は美し過ぎる上に妙にオーラがあるから、どんな格好をしててもすぐにバレるってね。


「私だって、ちゃんと庶民のフリ位でき……」

「「無理だから」」


またもや揃った。


いや、でもしょうがないって。


この天然王子様に、庶民のフリは難易度が高過ぎる。出来て、上級貴族のお忍びのフリ位だ。


要するに、バレバレの変装をしている上級貴族って事ね。


少なくとも、アスリアさんレベルの地位の人――商家や騎士、下級貴族の子息令嬢が集まるお見合いパーティーになんて参加すればあっという間に浮いてしまう。


そして、場所が場所なだけに、下手にバレて醜聞になるのは避けないといけないだろうから、当然連れて行く事なんて出来ないに決まってる。


「私だって可愛いお嫁さんが欲しい……」


「ええ、是非とも私も早く結婚して世継ぎをもうけて頂きたいと思いますが、探しに行く場所が間違ってます」


「まぁ、イージオ様には白雪姫ちゃんもいますしね!」



私達2人に即否定された事でいじけた表情を見せたイージオ様に、リヤルテさんが全くつけ入る余地を与えずに答える。


それに合わせて、私もニッコリと笑顔で付け加えた。


うん。何処の馬の骨ともわからない人にイージオ様を持っていかれる位なら、美男美女で地位もバッチリ合うスノウフィア王女と結婚してもらった方が良い。


少なくとも目の保養になるツーショットになる事は間違いないからね。



「ああ、そうだ。そこです」


「そこ?」


私達の言葉に、それでもまだ何か引っかかるものがあるのか、不満そうな顔をしているイージオ様を華麗にスルーして、リヤルテさんが私に向き直る。


私は、そんなリヤルテさんに首を傾げながら、『自分で出した』お茶を1口飲んだ。


よし。リヤルテさんから、私の悔しそうな顔が見れなくて残念そうな顔と、それでいて面白い物を見つけたような視線を頂戴しました!



「貴方個人の問題はこの際置いておいて」


「置いておかないで下さい。私、困ってます」


興味なさ気に私の現状に関する問題をあっさりと切り捨てようとするリヤルテさんに、思わずツッコミを入れてしまった私は悪くないと思う。


「仕方ないですね。『二の次にして』という事にしておきましょう」


「それ、あまり状況変わってませんよね?」


「まずは、イージオ様のホワイティス王国との婚姻の問題です。本当にその姫自体は問題のない人物なのですか?」


「うわぁ、見事に無視された。」


ニッコリ笑顔を向けられ、さっさと質問に答えろと促される。


そこに、魔女によって鏡の中に閉じ込められている私への同情は一切存在しない。



「はいはい、わかりましたよ~。答えれば良いんでしょ、答えれば!!」


「さっさとして下さい。現時点で、私は時間外勤務状態なんですから」


内心「チッ」と舌打ちしつつ、リヤルテさんを軽く睨むと、彼はそんな私の様子なんて全く意に介さす、懐から取り出した懐中時計を見て、早くしろとプレッシャーを掛けてくる。



「白雪姫ちゃん――スノウフィア王女の事は直接は見たことないですけど、お城での評判はかなり良いですよ。見た目も凄く可愛いし、性格も素直で明るくて、頭も良いそうです」


「貴方が直接見た印象は?」


私が一般的な評価を告げると、リヤルテさんが目をキランッと光らせて尋ねてくる。


「それが、私は直接見た事がないんですよね」


「それは何故?」


苦笑する私に、リヤルテさんは当然と言えば当然の質問をしてくる。


その横では、自分の不満を綺麗に受け流された事を悟ったイージオ様が大人しくお茶を飲みながら私達の話に耳を傾け始めた。


「私は鏡に閉じ込められた時に色々と制約を受けてるんでね。魔女――マージア王妃様の言う事に逆らえない部分があるんですよ。訊かれた事に嘘を吐けないとかね」


それから私は、リヤルテさんに自分が鏡に閉じ込められた時に状況や制約の内容、契約が不完全な状態な為、一部の制約が無効になっている事等をザッと説明した。


リヤルテさんは、イージオ様から事前に聞いていた情報もあったようで、特に質問を挿む事なく私の言う事に頷いてくれる。


「……ですから、マージア王妃にとってただでさえ邪魔者なスノウフィア王女の情報を下手に知っていると、尋ねられた時に誤魔化し切れず、彼女を窮地に陥れる手伝いをしてしまう事になる可能性があるので、極力視界に入れないようにしてるんです」


お伽話の『白雪姫』の話を省いて説明すると、イージオ様もリヤルテさんも眉間に皺を寄せ渋い顔をした。


「母が血が繋がってないとはいえ、娘をそんなに毛嫌いするなんて……」


「それはうちも似たようなもんでしょう」


痛ましそうに顔を歪めるイージオ様を、何の躊躇いもなくリヤルテさんがバッサリと切る。


言われてみれば確かにそうだ。


スノウフィア王女を憐れんではいるものの、イージオ様自身も、継母に嫌われ、実父である王様には溺愛されているというとても似た状況下にいる。


むしろ、異母兄弟からも嫌がらせを受けている時点で、スノウフィア王女よりも状況は悪いかもしれない。


「あ、そうそう。ちゃんとした証拠はまだ揃っていませんが、やっぱり昨日の襲撃事件の裏で手を引いていたのは王妃のようですよ。ミラ嬢の話も踏まえて考えれば、きっと好物件の王太子妃を得て、王太子としての地位を盤石なものにされる前に始末しておこうとでも考えたんでしょうね。とても浅はかな考えだとは思いますが……ミラ嬢がいなければ、実際始末されていた可能性もあるんで、実際問題、危なかったですね」


まるで雑談でもするかのようにサラッと告げられた事実に、思わずギョッとしてしまう。


リヤルテさんの隣では、私以上の驚きとショックを受けたらしいイージオ様が固まっていた。


「何をそんなに驚いているんですか。今までも何回も王妃からの刺客は来ていたでしょう?」


「し、知らな……」


イージオ様がプルプル震え、酸欠の金魚のように口をパクパクさせつつ答えると、リヤルテさんが呆れたように溜息を吐いた。


リヤルテさん、もう少し相手の気持ちを思いやって伝えてあげても……あ、ドSな貴方にそれを求めても無理でしたね。ごめんなさい。


「全く、本当に気付いていなかったんですね。相手が相手なだけに、おおよその見当は付けつつも皆口にはしなかっただけで、今まで送られてきた刺客のほとんどが王妃や王妃の取り巻きの仕業ですよ」


リヤルテさんの話によると、今までもイージオ様は何回も刺客に命を狙われており、明確な証拠が出てきていないだけで、「まぁ、状況証拠からしたら王妃が犯人だろうなぁ」という事は何度もあったらしい。


もちろん、人気のあるイージオ様への暴挙だ。


水面下での周囲の怒りの声は大きかったようだが、イージオ様が王妃への態度を変えなかった事で、周囲は勝手に「きっと何かお考えがあって、今は泳がせているのだろう」と判断して納得していたらしい。


……イージオ様本人は、単純に気付いていなかっただけみたいだけどね。



「今回の件や、ミラ嬢との出会いはイージオ様には良い切っ掛けになったみたいですね。今後は今まで以上に気を付けて下さい。……私の仕事を減らす為に」


ちょっ!最後に本音が出てるから!!


最初の方はちょっといい事言ったみたいな雰囲気もあるのに台無しだから!!



「あぁ、わかった。王妃の事は今まで私も仲良くしたいあまりに冷静に見れていなかった部分もあったと思う。今後は気を付けるよ。……ミラにも怒られちゃったしね」


力なく微笑むイージオ様、綺麗。


まるで絵画みたい……ってそうじゃない!イージオ様、リヤルテさんの本音に気付いて!!そこしんみりして反省するシーンじゃなくて、ツッコミを入れる場面だから!!



「わかって頂けて何よりです。さて、ミラ嬢の話だと、今回の結婚の話、問題は王女そのものではなくマージア王妃にあるという事ですね。それに、マージア王妃は貴方というとても優秀で厄介な間諜を強制的に動かしていると」


「……そういう事ですね」


最早、リヤルテさんのスルースキルの高さには何も言うまい。


「ひとまず、貴方死んで頂けませんか?」


「わか……りましたなんて言うと思いますか!?」


ちょっと、この人サラリッととんでもない事言いやがった!!しかも、直接本人に!!


あ~、イージオ様驚き過ぎて、お茶が気管に入って噎せちゃってるし。


そこでさり気なくハンカチを差し出せるところは優秀だと思うけど、それ以前に噎せさせたの貴方ですからね、リヤルテさん?


「いえ、ちょっとした冗談です。先程の話からして、貴方が死んでも次の『鏡の精』が呼ばれるだけみたいなんで、問題は何も解決しませんしね。それよりも、私達に協力的な貴方がこうやって情報を流して下さる方が助かります」


……この人、絶対に人を使える人か使えない人が排除するべき人かで区別してる。


あ、後は泣き顔が可愛いかも判断基準には入ってそうかな。



「今頂いた情報は精査する必要があるので、まだ貴方を信じきる事は出来ませんが……まぁ、ひとまずのところ、協力体制を取る方向で検討してみたいと思います」


「リヤルテ、君はミラを疑うのか!?」


「いや、イージオ様、そこは是非とも疑って下さい。一般的に見て私はどう考えても怪しい人です」


リヤルテさんの発言に不満を露わにするイージオ様に嬉しく思いつつも、苦笑は浮かべつつ止めに入る。


私から見てもリヤルテさんの判断は正しいと思うしね。



「ホワイティア王国の件は、我が国の未来にも関わってくる事なので、こちらでも色々と調べてみます。その過程で、貴方に協力出来る事があれば、力を貸しましょう。……放っておいても、どうせお人好しなイージオ殿下が暴走するだけなので」


「ミラは私の命の恩人だ。当然だろう?」


「あ、後、いくつか情報があったら教えて欲しい事がありまして……」


やり手なリヤルテさんは、ちゃっかりと私を間諜としても利用する気らしい。


まぁ、基本的に鏡の中で暇してるから別に良いんだけどね。



「わかりました。よろしくお願いします」


私は姿勢を正してペコリッとお辞儀をする。


そんな私に対して、イージオ様とリヤルテさんはしっかりと頷いてくれた。



こうして、私はリヤルテさんから手渡された大量の調べて欲しい事リストと引き換えに、頼もしい仲間を2人も手に入れる事となったのだった。

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