1 そうです。私が鏡です。
「鏡よ鏡……」
パリンッ……。
透明な1枚のガラスのような物を隔てて、妖艶な美女が私に呼び掛けてくる。
「鏡よ鏡……」
パリンッ……パリンッ……。
その度に私の中で何かが割れる音がする。
「……鏡よ鏡!!」
パリンッ……パリンッ……パリンッ……。
この声に呼ばれるのはもう何回目だろうか?
数えるのすらバカらしくなってくる。
「ちょっとミラ!寝転がりながらお菓子を食べてアンニュイな雰囲気出してんじゃないわよ!!この私の声が聞こえないの!!ちゃんと返事をしなさい!!」
「へ?あ~、はいはい。ミラ、ここにいまぁす」
パリンッ……バリボリ……ゴックン。
口いっぱいに頬張っていたお煎餅を飲み込み、渋々と声のする方に視線を向けた。
ガラスのようにも見える、あちらとこちらを結ぶ唯一の物――『鏡』には美女の皮を被った般若が映っている。
その顔を見て、私はのっそりと起き上がり、鏡の前に立った。
……このおばさん、あんまり放置し過ぎてキレさせると厄介なんだよね。
「で、なんの御用でしょうか、ご主人様?」
ここは『白雪姫』に出てくる魔女の鏡の中。
その閉ざされた世界で、私、賀上美環は今日も図太く逞しく不満たらたらに、煎餅を貪りながら生きています。