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Dusk Determination  作者: ハル
プロローグ:黄昏色の少女
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第2話 プロローグ:黄昏色の少女(2)


瑠璃(るり)翔馬(しょうま)連太郎(れんたろう)は物心ついた時からずっと一緒にいた幼馴染で、

もう14年目の付き合いだった。





幼い頃、家が近所だった二人はよく瑠璃の家に遊びに来ていた。


明るく社交的な翔馬がくだらないことを言い、

素直で優しい連太郎がそれに振り回され、最後は笑う。


それだけでもう充分成り立っていた。




しかし、どんなに瑠璃が一人になろうとしても翔馬と連太郎は瑠璃の近くを離れようとしなかった。



まるで一人にはさせなくしている様に。





「…―って、聞いてんのか瑠璃!」




「え…、あぁ…。」




ハッとして返すと、怪しむように覗き込む翔馬になんだか自分の心を見透かされたような気がして、瑠璃は咄嗟(とっさ)に顔をそらす。


しかし―




「あぁ…、って嘘つけ!絶対今俺の話聞いてなかっただろ!!」



「あぁ。」




まったくの考えすぎだったことに安堵(あんど)して瑠璃は再び翔馬に向き合う。




「だから…お前は………」




が、その行為がまた翔馬に火をつけてしまった。




「ドヤ顔で即答すんなあああああああっ!!」



「だから翔馬うるさああああああい!!」




見かねた連太郎が小さな体を憤慨させて大声をあげた。


混沌とした状態はますます加速していく。






「あのぅ、」




突然、散らかりきった現場に不釣合いな甘い声が投げられた。


言い争っていた二人も、呆れて眺めていた瑠璃も、ピタリと動きを止めてそれぞれに声の方を向くと、ちょうど瑠璃の後ろに同じように学生服を着た三人組の女子が立っていた。



スカートは下着が見えんばかりに短く、明らかに自分たちの学校のものとは異なっていた。




「何?」




遠慮する様子もなく冷ややかな口調で返す瑠璃の様子に、一歩後ろで翔馬と連太郎が目配せし合う。

二人の間に気まずい空気が流れる。



だが、先頭にいた長い茶髪の少女は(ひる)むことなく瑠璃に余裕のある笑顔を向けた。




「見たことない制服だけどどこの学校かな、って。私たち今から遊びに行く所なんだけど…もし良かったら一緒に遊ばない!?ほら、丁度人数もぴったりだし!」




瞬くたびに揺れる長い(まつげ)の間から、不自然なほど大きな目が瑠璃の顔を見上げて言った。


自分に向けられた好意に満ちた瞳――

その色に耐えられなくなり、瑠璃はフィッと視線を外す。





「いや。時間ないんだ、もう帰るから。」



「あっ、待って!!」




大胆にも、歩みだそうとした瑠璃の前にバッと立ちふさがった少女は慌てた様子でバックを探ると、小さなメモ帳のようなものを取り出した。


そして突然何かを書きだしたかと思うと勢いよく瑠璃にその紙を差し出してきた。紙に視線を落とすと、数字とアルファベットの羅列が書かれている。




「これ、私の携帯番号とメールアドレス!暇なときでいいから連絡して下さい!」




そう言って瑠璃の手に強引にメモを押し付けると、「じゃあ…待ってるから!」と手を振って友人たちと黄色い声を響かせながら去って行った。


その場に取り残された三人は、カラフルな三つの傘が人混みに溶けていくのをただ呆然と見ているしかなかった。





「…っ、はあああぁぁぁ~」




最初に沈黙を破ったのは翔馬の盛大な溜息だった。




「瑠璃く~ん…お前、モテるのはいいけど怖すぎだぞ?」




瑠璃の肩にポンと手を置いて、翔馬が身震いして言った。




「お前が何時(いつ)心無い一言であの娘たちをぶった切るんじゃないか、って俺たちは心配で心配で…」



「おかげですっかり目が覚めたよ……」




連太郎も隣に並び、凍えるような仕草で腕をさすってみせた。




「行こうぜ…もうそろそろ集合時間だもんな…」



「うん、帰ろう……」




さっきの惨状が嘘のように、すっかり二人が冷静になって傘を広げはじめたので、瑠璃にとっては好都合だった。


だが――




「あ。」




声を発した瑠璃にビクッと体を震わせて、一歩前にいた二人がそろりと振り返る。




「どっ、どうした瑠璃!?…本当は怒ってるとか?」



「あっ、あの娘たちきっと友達欲しかったんだよ!!ね!」




「いや、」




慌てふためく二人に背を向け、瑠璃は再びショッピングビルの入り口の方へ向く。


そして振り返ってから一言付け足した。




「傘、トイレに忘れてきた。先に行っててくれ。」





* * *





幸運にも傘はトイレの手洗い場の隣にかけられたままだった。

傘に手をのばすと指先に痛みが走り、見ると小さな切り傷が出来ていた。




(いつの間に…)




水道で傷口からかすかに滲んだ血を流し、ポケットからハンカチを取り出した。

すると、その拍子に何かがポケットからヒラリと舞い落ちる。




瑠璃はかがむと、ピンク色が基調になっているその可愛らしい紙を拾った。


先ほど渡された番号とアドレスが書かれたメモ用紙だ。




「馬鹿じゃないのか?」




氷のように冷たく整った表情を崩すことなく、その紙を躊躇(ちゅうちょ)なく破ってゴミ箱に捨てた。


細かく破かれた白い紙がヒラヒラと舞い落ちていく中、先ほどの少女が自分に向けていた、好意の色を宿した瞳がフラッシュバックする。





と、その瞬間。


激しい頭痛が瑠璃を襲った。




「…っ!」




頭痛は眩暈と吐き気を誘い、瑠璃はすがるようによろめく体を壁で支えた。

飛びそうになる意識を自分の呼吸の音を聞いて必死に保つ。


氷のように整った顔は痛みに歪み、額からは汗が流れていた。




「大丈夫…大丈夫。俺は一人…俺だけだ。」




しゃがみこんで、誰もいないトイレで魔法のように唱えた。






五分ほどすると徐々に呼吸が整って行き、ようやく落ち着きを取り戻した。

ぼやけていた視界もクリアに晴れ、

心臓は再びいつもと同じ速度でリズムを刻み始めていた。




すると、もう片方のポケットに入っていた携帯電話のブザーが鳴り、メールの受信を通知した。

画面には"翔馬"の文字があり、開くと「傘あったか??」の短い文章と、心配そうな顔をした絵文字が表示された。



瑠璃は「ちょうど今見つけたとこ。」と嘘をついて返信すると、ゆっくり立ち上がった。




「顔色、大丈夫そうだな。」




鏡に写った自分に小さくつぶやくと、再び出口に向かって歩き出した。




* * *


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