第一章・三話〜奇跡の大地〜
「確認だが、こういった地図に見覚えはあるか?」
「えっと……」
見ると、地図はかなり簡単なもののようだった。日本地図みたいな土地の高低差や緯度や経度が書いてあるわけじゃない。
右上に十字の記号があり、多分方角を表してるんだろう。文字で水、火、土、風と書かれていて北が水、南が火、東が土で西が風の位置になってる。
地図自体はいっぱい四角の描かれた所から線が伸び、合間に木々や川と思える絵があるだけ。
見た覚えはないけど意味なら分かる……けど何か不用意に言ったらどう解釈されるか分からないし、どうしよう?
「見覚えはない、です」
「そうか」
とりあえず今は覚えていないで通して、何か言われたら思い出した事にしよう。
うう……騙してごめんなさい。
「まぁ君ぐらいの歳の子が地図に見覚えがあったら、それはそれで怪しいだろう」
「そ、そうですよね!」
あっぶない!? ナイス選択だよ私!!
「まずは現在地はここ、クスクの町とテラレマの森の中間あたりだ。地図上では王都アンベジオから水土の方角になる。ちなみに王都から馬車で約三週間の距離だな」
初めて聞く王都の名前に、知ってたのか知らないのかどっちの反応をしようか悩んでいたら、ティナさんが頭を撫でてきた。
「分からないならそう言ってくれたほうが助かるわ」
「わ、分かりました」
何だかお見通しって感じがして、もういっその事全部話そうかと思ったりもする。
……けどそんな短絡的な考えをしないでいられるのは、二人が腰に下げている日本では見慣れない物のおかげだろう。
鉄製の鞘に収まっている武器、騎士っていうくらいだから皆持ってるはずのーー剣、だ。
旬ちゃん言われてレベル上げをしていたゲームでも、確かにあんなのが出てきた。両手剣とか、ロングソードとかそういった名前だったはず。
正直、そんな危ない凶器を持ってる人を一晩で信じれる程、私は能天気じゃないと思いたい。
神様とかの話は、今はまだ出来る状況ではないはずなのだ。
「話を続けるぞ。王都アンベジオから各方角に忠都が一つずつ、そこから更に国境までに大小の町や村がある。アルネの髪色は水の忠都と王都でよく見られるものだ。仮にそこまで行くとしたら一ヶ月以上掛かるのを念頭に置いていないといけない」
「覚えてるか分からないけど、四季祭ってお祭りが季節毎に各忠都であって、そろそろ水の忠都で行われるからね。もし今から出ちゃったら商隊や観光旅団の馬車に巻き込まれて大渋滞ってわけ」
「忠都に四季祭……」
「何か思い出したか?」
何も言えずにいると、「とりあえず一通り教えておこう」とジルさんが場を仕切り直してくれた。
「王都アンベジオでは一年の始めに聖誕祭が行われる。これは創造神テラレマがこの世に顕現された日とされ、テラレマ教もこの時は祭に参加する」
「祭に参加ですか? 主催者側って事ですよね?」
「国教だからな、もちろん主催者側だ。創造神テラレマに所縁のある品物を公開したり、本来は寄付を貰わねばやらない祝詞を、人々に無償で行ったりしている。……噂では裏であくどい事をしているとも言われているが、これは関係ないな」
質問はあるか? と目線で促されたので首を横に振ると、ジルさんは説明を続けてくれた。
「四季祭のほかにも細々した記念祭などはあるが、これはいいだろう。ちなみに我らがアンベジオ王国はテラレマ教を国教とし錬金術を推奨しているが、他国は違う思想、異なる文化を持っている。そこの説明は……して欲しそうだな」
「お願いします!!」
「アルネさんの半分でもここの騎士団がやる気や興味を持ったら色々変わるのにね」
「たらればの話は止めておけ、ティナ。それで他国だが、私の知る範囲で教える。まず我らが住む『奇跡の大地』にはーー」
「奇跡の大地って何ですか?」
「……創造神テラレマの逸話として聖典に記されているのだが、この世界が出来上がった時大地は無く、生き物も居なかったそうだ。空虚な場所でしかなかったこの世界にテラレマは姿を現し、何も無い事を嘆き、その御業によって奇跡の大地と豊潤な海を創造した。海には魚や貝、大地には植物と獣と、最初の人が生まれた。人は瞬く間に奇跡の大地の覇者となり、そして御業に気付いた人々はテラレマを創造神と崇め、今日に至るーーテラレマ教徒なら誰もが知ってる話だ」
「わ、私も聞いた事あるような、ないような……」
「バレバレよアルネさん」
「とにかく、奇跡の大地に人々は国を築いたんだ。最初は一つだったが時代と共に分裂し、今ではアンベジオを含め六つの国がある。それがアンベジオ王国、メトラニオ皇国、カノワノクニ、海上帝国エンヴィオ、カーヤ地底王国、名も無き浮遊城塞だ。浮遊城塞は国と認めるかどうか色々と意見があるが、時折落ちてくる高度な錬成具や建築物からして、文明があるのは確かと思われている。国教はアンベジオと違うそうだが、そこら辺は私も詳しくない。ただエンヴィオやカーヤは独自の文化が育ってるので、創造神テラレマのいない神話が伝えられていると聞く」
「まぁ、戦争でも起きない限りは他国と関わる事なんてないわ。ちなみに戦争もここ百年は起きていないから安心してね」
ジルさんは説明は終わりとばかりに盛大に溜息を吐いて、ティナさんが笑いながら肩を揉んであげている。
二人の甘い雰囲気を視界に入れないようにしつつ、私は教えてもらった事を忘れないよう、何度も反芻した。
海上に地底に、果ては浮遊城塞とか……旬ちゃんが聞いたら喜んだだろうな。
やっぱりあれかな、大きな積乱雲の中に浮遊城塞はあるんだろうか?
……うん、何でもアニメや漫画とかに例えるのはダメだよね。
「それで、教会派と騎士団派っていうのは?」
「事細かに話せば一昼夜かかるだろうから、簡単にいく。二つの派閥はつまるところ、この二冊の本だ」
ジルさんはテーブルに置かれた二冊の本を指して言う。片方はやや古ぼけた感じで見た目も革張りしてあるだけだ。
もう片方は新しいようで、しかも装飾がゴテゴテとくっ付いている。持ってみるとずしりと重く、実用的じゃないようだ。
「それらを見てどう思う?」
「片方は古いけど実用的で、もう片方は新しくて豪華だけど読みづらそうです」
「そうだな、その古い方が騎士団派、新しく豪華なのが教会派だ」
「? ええと……」
「この本はテラレマ教の訓示が書かれたものなのよ。数十年前まで訓示本は一冊だったんだけど、王都のテラレマ教司祭が改訂した訓示本を作っちゃってね。しかも自分達に都合の良い事ばかり書き加えて、逆に削除したりしていて、受け入れる人と受け入れられない人で別れたの。それが派閥の成り立ちで、今も続く根深い問題」
「新訓示本は神職や貴族にやたら甘い事が書かれている。信徒騎士団の中には地方貴族で当主になれない三男や四男もいるから、結果騎士団も派閥が出来上がってしまったわけだ」
「ジルさんやティナさんは貴族じゃないんですか?」
「私もティナもただの田舎者だ。正直貴族なんてものは害悪としか見ていない」
「だから騎士団派のリーダーになれたっていうのもあるけどね。ジルなら教会派に靡く事がないから」
「貴族や教会に都合のいい事って、どんな事が書かれてるんです?」
「挙げればキリがないが、分かりやすいもので土地の貴族に納める税とは別の税を教会が取り立てる事だな。神父が家々をまわって教えを説く際に、物品を献上等がある。最初は金銭だったが、当時反発が強すぎて物品に変更したらしい……金がかかる事に違いはないがな」
別の税はリン君から聞いた気がする。というか二つ目は押しかけ商法みたいだ、しかもすごく悪質。
「その教会派っていうのがどうしようもないのは分かりました……」
「……別に彼らも信仰心が無いわけではない。ただ一度良い思いをしてしまうと止められなくないのだ。ここらは田舎だから目に見えてというのは無いが、王都に行くと顕著になって現れる……歯痒いやら情けないやら、そんな感じだ」
苦笑したジルさんに、私もぎこちない笑みを送った。
お金の絡んだ組織が腐ってるのは、どの世界でも一緒みたい。
日本に例えるなら県議会が貴族と教会関係者で構成されて、国民からかなりの税を搾り取っている。
警察に頼ろうとしても警察内部も汚職してる人達がいるから頼れない……しかもテラレマ教は国教だから、下手に逆らえない、と。
(リン君達が教会や騎士団を嫌いだったのも分かるな……人間ってどの世界でも怖いな、うん)
などと一人で納得している時に、ふと思い出した。
レマちゃんと話しをしていた時に聞いた、御印という不思議な単語の事を。
説明回は設定の確認が行えるから良いですが、読む方としてはつまらないと思っておりますのであまり入れたくありません。
ちなみに著者はジ◯リが凄く好きというわけではないのですが、なぜか例えに使ってしまってます。




