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第一章・一話〜転生〜

暗い暗い意識の奥深くで、最初に感じたのは肌寒さだった。

次いで、濃い土の匂いと枯れ葉が風に舞う音を感じる。


「う、んーー」


そこでやっと、私は声らしい声を出す事ができた。

しかし身体はまったくといっていいくらい動かず、目蓋を開ける事さえ出来ていない。


(意識ははっきりしたんだけど、何で身体が思うように動かないの? こんな匂いや音は神界では感じなかったから、あの魔法陣ぽいのを通って異世界に来たと思うんだけど……来て早々、トラブル発生だよねこれは)


身体中に神経が巡っていくように、徐々にだけど動く事ができた。と言っても指を折り曲げたりするくらいで、寝そべっていると分かる身体を起こす事はできていない。

枯葉のカサカサという音の中に、明らかに何かが踏みしめる音が混じった。聞こえた瞬間ぞわりと鳥肌が立って、私は軽くパニックになる。

目蓋はまだ完全に開けきれていないし、身体もやっと上半身を持ち上げきれるかなっていうくらいだ。

そんな時に何かわからない音が聞こえるのはものすごく怖い。


「だ……れ?」


何とか言ってみたものの、自分でも分かるくらい小さな声だったので聞こえてはいないと思う。

仮に聞こえたとしても野生動物だったら返事はないし、人間だとしても異世界なら言葉が通じるのか?

……あれ? そういえば神界では普通に喋れたけど、神様も天使も日本語知ってたのかな。

今更な疑問が浮かんだときに、枯葉の音の中に微かだけど人の声を聞いた……気がする。

慌てて私は「だれ、か……」とさっきより大きな声を出し、引きとめにかかる。


「……今なんか聞こえた?」


届いたのは、幼い声だった。声の後に「知らね」と男の子の声がしたので、複数人いるのは間違いない。


「ここ……」

「やっぱり聞こえる! こっちだよ!!」

「あっおい!!」


どんどん近づいてくる足音と共に、私の目蓋も開いていき、周りの風景が視界に入ってくる。

典型的な冬に見る枯れ木の生えた森。見えるところに緑は無く、あるのは枯葉と土の茶色なコントラスト。

ぱっと見は秋から冬に思える風景だけど、それにしても寒い……無意識に自分の身体を見て、硬直した。


ーー服はどうした、私。


「え、ちょ何で裸ーー」

「ここらへんかな〜」

「ぎゃあああ待って待ってえ!?」


慌てて土下座のような体勢になるのと、木々の向こうから人影が飛び出してくるのは同時だった。


「……ちじょ?」


いいえ、神様ですーー






「それで、アルネだっけ。本当にあの場所にいたのか分からないんだな?」

「うん、自分でも何が何やら……」

「おねーちゃん寒くない?」


私を一番最初に見つけ痴女呼ばわりしたのはレイ君といい、歳は小学校低学年くらいに見える。

すぐ後にやって来て目がギョッてなったのは(そんな目で見ないで……)お兄ちゃんのリン君というらしい。

こちらは前世の私と同い年か、それより少し下くらいに見える。私が裸と分かると羽織っていた外套を被せてくれ、自分の靴まで渡してくれた。

外套は肌触りが固く、靴も木をくり抜いたようなもので、私の知っているのとは大きな違いがある。

それだけならどこかの途上国に来たと思う事もできるけど、彼らは地球ではあり得ない『特徴』を持っていた。

ーー二人とも、目と髪が燃えるように赤かったのだ。

カラコンや染めてる可能性もなくはないが、まったく違和感なく似合っているのが生まれつきという印象を強くする。

旬ちゃんが好きだった漫画やゲームの世界だなと内心思いながら、自分の髪に触れた。


「おねーちゃんの髪の毛銀色で綺麗だね〜」

「ここらの地域じゃ見ない髪の色だ。ふつうは赤か青色だ」


ここには落ち着いた髪色はないのかーーとか思いながらも、自分の変容に溜息が漏れる。

元々は肩くらいで揃えていた髪は腰まであり、レイ君が言った通り銀色。一見すると白髪にも見えるが、日の光を浴びた時の反射がすごく綺麗なのだ。

自分の髪のはずなのに見惚れてしまった。

ついでに身体も小さくなっており、レイ君より若干大きいくらいなので小学校中学年ほどか。

リン君におんぶすると言われたが裸で異性にくっつくなど私の羞恥心が持たないので固辞し、今は二人とも森の出口に向けて歩いている途中だ。

木々の葉や下面の草は栄養をたっぷり含んだように青々としているけど、枯れ葉の敷き詰められたような地面も時折見かける。

まるで夏と冬が混同したみたいな森の様相に、私は首を傾げながらも二人に付き従う。


「けど、ここテラレマの森に裸の女の子か。この辺じゃ見ない銀髪に記憶喪失なんて、町の神父が聞いたら『女神様だ!!』とか言ってきそうだよな?」

「女神様!?」


素っ頓狂な声を上げるとリン君が「冗談冗談」と笑いながら返し、レイ君が離れていこうとするのを注意する。

そんな声を聞きながら、とりあえず今できる状況整理をしようと思った。


「っくし!!」


……の前に温かい飲み物と服が欲しい。

目覚めたばかりで体力がないのか歩みが遅く、時折吹く強風に外套がひるがえないよう必死で押さえながら歩いて、やっと町の中に入れたのは太陽が空の頂点に差しかかった頃だった。

二人の話だと朝早くに来てお昼に帰ってきたのは初めてだと言われ、亀の歩みだった事を反省する。

四角に切り出された石を使った、町の出入り口と思われる物を潜り、人工的に踏み固められならされた地面を歩くと、すぐに町の様子が視界に入った。

見える家は二十から三十くらいで、町というにはかなり規模は小さい。

町長に話してくるといって私をレイ君に任し、リン君は走って行ってしまう。

レイ君は私の手を取りニコニコしながら自宅に向かってくれてるようだけど、私はその際衆人環視にみまわれ、気分としては駆け足でお家に上がらせてもらい服を貸してもらいたかった。

リン君が言っていたように町の人達は赤や青の髪色をしており、ごくたまに茶髪がいるくらいだ。しかし銀髪は見当たらず、どこか視線にも余所者を嫌う様子があるように感じられた。


「町中であんな格好……」

「目を合わせちゃだめよ、指も差しちゃだめ」

「しかもあんな幼い子に手まで握らせて」


ただの痴女に対する態度だった!

子供に悪影響与えそうでごめんなさい!!


「ーー話はリンから聞いたわ。私はリンの幼馴染でレマ。リンの両親は仕事で居ないけど事情を話せば分かってくれるだろうし、とりあえず上がって?」

「あ、うんありがとう。レマちゃん、でいいかな? よろしくね」

「こちらこそ。私もアルネちゃんって呼ばせてね」

「あ、レマおねーちゃんただいま〜」


家に着くとリン君と同年代らしき女の子が待っていて、柔和な笑みを浮かべていた。

この家、外観は石造りだったけど中に入ると土壁と木のはりが見える。意外と簡素な造りだ。

外と違って暖かい空気に満たされていて、ついでに人の視線が防げるのでやっと人心地つけた。

必要最低限の生活用品とかまどのある部屋を抜けてレマちゃんのいる部屋に行くと、木の枠にツギハギだらけのシーツを被せたベッドらしきものが置いてあった。多分寝室かな?

部屋に入るなり(レイ君が付いてこようとしたがレマちゃんに止められた)外套を脱ぐように言われ、私が恥ずかしさから逡巡しゅんじゅんしているとレマちゃんが苦笑する。

藍色の髪と瞳が印象的な、お世辞抜きで可愛らしい女の子だ。

今の私より背は大きいし、何となく前世の私くらいの歳かなと思う。となるとリン君とは幼馴染……そこまで考えて、気持ちが沈んでいくのを感じた。

まるで、私と旬ちゃんのようだなーー


「ごめんね。私も本当はこんな事させたくないんだけど怪我してたら大変だし、見るなら女の子同士がいいかなって」

「……ううん、心配してくれてありがとう」


別の事で気持ちが沈んでいたのだけど、レマちゃんは恥ずかしさから私が嫌な気分をしていると考えたようだ。

それには否定も肯定もせず、とりあえず気を取り直してお礼だけは述べる。

旬ちゃんの事は今考える事じゃないと強引に思考を切って、言われた通りに外套を脱ぐと、「綺麗な肌……」と感嘆の声が上がった。

うん、それ以上言われたら恥ずかしさで身悶えます。

それから怪我がないか一通り見られ、どこも怪我をしてないのが分かるとお互い安堵の息を吐いて服を借してもらった。

レマちゃんの小さい頃のというチュニック風の上着とズボンを着ていると(さすがに下着は借りなかった。スースーする……)、そういえばとレマちゃんが不思議そうな声を出す。


御印みしるしが見当たらなかったけど、分かりにくいところなの?」

「御印ってなに?」

「え、それも覚えてないの!?」


ものすごい勢いで驚かれて若干たじろぐと、「そんな事も忘れるって記憶喪失は大変だね」と慈しみの目線を送られてしまった。

こんないい子に嘘をつかないといけないなんて、いたたまれないなあ……

その後レイ君がホットミルクらしき物を持ってきてくれて、ようやく人心地ついた気がする。

「おねえちゃんもう平気?」と聞いてくるレイ君は興味津々といった目で私を見て、色々お話ししたそうなのが痛いほど分かる。

けど、最初に記憶喪失と言ったこともあり、私は何も話せない。

……ああ、そんな純真無垢な目を向けないで!!


「お、少し顔色が良くなったみたいだな」

「リンにーちゃん!」

「リン、入るときはノックくらいしなさいよ」


突然開いたドアから顔を覗かせたのはリン君だ。それを見てレイ君は笑顔で駆け寄り、レマちゃんは呆れながらも嬉しそう。

ああ、仲が良いんだなって見てて幸せになる光景。

……特にレマちゃんとリン君を見てると旬ちゃんの事を思い出し、ともすれば今いるこの場所は夢で、目が覚めたら旬ちゃんがいてーーと、つい思ってしまう。


「でも……夢じゃないんだよね」

「どうしたのアルネ?」


前世の自分に比べたら小さくなった掌を見ていたらレマちゃんが心配そうに聞いてきた。


「なんでもないよ、ありがとう」


私は笑顔でそう返す。

もう戻れない、旬ちゃんの傍にいれた何気ない幸福に胸を焦がしながらーー







村長さんは明日会う事になったらしく、今日はリン君達の家に泊めてもらえるそうだ。

私としては知らない世界にいきなり放り出され右往左往な状態なので、ご飯と寝る場所、そして服ををもらえるのはすごく助かる。

だけど、一応断る姿勢を見せとかないと居心地が悪かった。そこら辺、建前と本音を使い分ける日本人だなあってしみじみ思う。


「あの、森で助けてもらったばかりじゃなく服も貸してもらって……それだけでも感謝してるのに、これ以上迷惑をかけるわけにはいきません」


というわけで今私が話しかけているのは、ダイニング兼キッチンで夕食の準備をしているリン君達のお母さん、ララさんである。

さっき帰ってきた時は背負った籠にいっぱいの野菜を入れていて、今はそれを洗って切って鍋に入れて竃の火を調節したりと大忙しだ。

恰幅のいい肝っ玉母ちゃんの外見通り、とても元気だしよく笑う。さっきも私を見るや「記憶がないんだって、そりゃ辛かったろうね〜」と強く抱きしめてきた。

あまりに強かったので気絶するかと思った。

それを話したらごめんごめんと言いながら快活に笑うーーそんなララさんは私の言葉を聞いてキョトンとし、真っ赤な目を優しく細め言った。


「子供がそんな事気にするんじゃないの。困った時はお互い様っていうし、アルネが来てくれて家の中が華やかになったから、なんならずっといてくれて構わないよ?」

「……ありがとうございます」


頭を撫でるララさんの優しい手に、不意に胸の奥がきゅっとした。昔、お母さんがよく頭を撫でてくれたのを思い出してしまった。


「どうしたんだい?」

「いえ、ならお言葉に甘えてお世話になります」


胸に去来した寂しさを隠すように笑ってお礼と言う。ララさんは何かを言おうと口を開くが、結局何も言ってこなかった。

私はもう一度軽く頭を下げると、そっとその場を後にした。


「こりゃまた、えらいべっぴんさんが来たものだ」


夕食の席。畑仕事から帰ってきたリン君達のお父さんーーセイムさんが開口一番そう言った。


「リンにはもうレマちゃんがいるけど、君が良かったらレイのお嫁さんにならないかい?」

「セイム! 馬鹿な事ばかり言ってないで井戸で身体の汚れを落としてきな。アルネは悪いけどリン達を呼んできてくれない?」


ララさんに怒られると皆と同じ赤い髪を掻きながら、「冗談だよララ」と苦笑いしながら出て行った。


「ごめんよ、うちは息子ばかりだから娘ってのに憧れててね。あの人の言う事は気にしないでいいからね?」

「は、はい。優しそうな旦那さんですね」

「ただ気弱なだけさね。まあ、威張り散らす旦那よりかは扱いやすくていいけど」


ララさんと顔を見合わせ笑った後リン君達を呼びにいったら、すごく微妙な顔で部屋から出てきた。


「さっき井戸に向かう父さんが変な事言ってきたけど、アルネは気にすんなよ」

「おねえちゃん、ずっといるの?」


無邪気に聞いてくるレイ君の頭を「やめろ」とグリグリ撫でながら、リン君は済まなそうにしていた。

ーーああ、家族って感じがするな。

食事が始まってもセイムさんは私に色々話してきて、その度にララさんやリン君に窘められたり呆れられたりしていた。

そんな家族の団欒を見ていると、隣のレイ君が袖を引っ張り無邪気に笑いかけてくる。

何だかすごく、幸せだった。

どうして自分がここにいるのか、何をしにこの世界に来たのか忘れるくらい、今はただ目の前の家族が幸せそうにしているのを見ていたかった。


ーードンドン、と。


その団欒を壊す音は、けれど前触れもなく部屋の中に響いた。


「こんな時間に誰だろうか?」


玄関の扉を叩く音がしてセイムさんが言うと、聞こえていたのか扉の外から声がした。


「夜分に申し訳ない。こちらはテラレマ教会信徒騎士団きょうかいしんときしだん、クスクの町及びテラレマの森守護の任につくジル・セントメントだ。記憶喪失の子供がこちらに保護されたと聞いたが、開けてもらえぬだろうか?」


その声にセイムさんは緊張した顔になり、ララさんと無言で頷きあうと、扉の方に向かう。


「あんた達はこっちに来な」


ララさんに半ば強引に連れられ、私達子供三人は奥の部屋に入れられた。

私を探しに来たのに、私まで隠すようにするのはなぜだろう。その訳を聞こうとした時、玄関扉の開いた音がした。


「騎士団の方がこんな時間に来るなんて、一体どうしたんです」

「保護された少女について気になる話を聞いたので、念のため確認しに来たのだ。手間を取らせるつもりはない、その少女は今どこにいる?」

「もう寝てるわよ。よほど疲れていたのか、怖い目にあったのか……とにかくもう遅いんだから、明日村長と話をしてそれからよ」


ララさんが固い声で騎士団の人に言うのを、私達は扉の隙間から見ていた。

明らかに二人の態度は騎士団の人に対して友好的ではない。理由がわからず隣のリン君を見ると、視線に気づいたのかチラッと見た後、重そうに口を開く。


「……テラレマの森は別名女神の森って呼ばれてて、創造神テラレマ様が住んでいた場所だって伝説がある。ここクスクの町は森から一番近い町で、俺の小さい頃は観光客でもう少し活気があったんだ。でも、テラレマ教の神父と信徒騎士団が来てからは……神に仕える者に尊敬と感謝を捧げよとか言って、徴税してきやがったんだ」


苦々しく言うリン君の肩は怒りに震えていた。

徴税は領地を治める貴族(この世界には貴族がいるんだ……)にも払っているのに、それとは別に神父さんは税を強いた。

もちろん最初は反発したけど、相手はこの国の王様すら信徒であるテラレマ教。

リン君達平民が何を言おうと教会には敵わず、むしろ本当に逆らったら国に反逆の意思ありとして、厳しい処罰を与えられるって……


「レマのお父さんは何度も減税を進言しに行って、最後は信心が足りないからって……殺されたんだ」

「っそんなーー」

「だから町の皆は教会の奴らも、騎士団の奴らも大嫌いなんだ。王都にいる王都騎士団もこんな辺境まで来るわけないし、誰も助けちゃくれないんだ。アルネも何されるか分かんないから、ここで大人しくしてろよ?」


リン君の言葉に頷いて、玄関扉のほうに注意を向けた。と、レイ君が不安そうな顔だったので優しく抱き寄せ「大丈夫だよ」と呟く。

けどその言葉は、本当は自分に言い聞かせたのかもしれない。


「あの子は迷い子か、あまり考えたくはないが……人売りに攫われて逃げ出したと思います。教会が思うような子ではありません」

「しかしこの辺りでは見ない銀髪であろう。王都の近くなら分かるが、辺境にあるテラレマの森にいたのは……何も取って食おうなどとは思っていない。少しだけ時間をもらえないか?」

「悪いけど、あんた達教会の奴らは信用できないのさ。私らの親友を殺し、レマを父無しの子にしたあんた達はね」

「……神父から目を離したのは騎士団の責任だ。あの事件については、本当に申し訳なく思っている」

「謝ってあいつが生き返るわけじゃない、やめてください」


(ーーざっと聞いただけなんだけど、あの騎士団の人はそんなに悪い人じゃない気がする)


リン君の話の通りだと、信徒騎士団というのは警察で、あの人は地方の駐在さんみたいなのかな。

他にも王都騎士団というのがあるらしいから、こっちは自衛隊的なもの?

そしてレマちゃんのお父さんが殺されたのは、あの騎士団の人からしたら謝らないといけない事なのだろう。

つまり、自分の非を認めているーーそれをララさん達は、恨みとか負の感情のせいで受け取れないんだ。

これじゃいつまで経っても堂々巡りだし、何より怖ろしいのは騎士団じゃなく、神父さんなんだろう。

前の発言でも、レマちゃんのお父さんは騎士団じゃなく神父さんのせいで死んだみたいだし……それが本当かは分からないけど。

でも、これ以上この家族に迷惑はかけられないし、かけたくない。


「私は何を話せばいいんですか?」

「アルネ!?」

「アルネちゃん!?」


扉を開けた私を見て、リン君とララさんが同時に叫ぶ。騎士団の人は一瞬で怪訝な顔をしたけど、私が目的の人物だとわかると、苦笑を浮かべた。


「……本当に銀髪とは。これでは悪目立ちしてしまうのも無理はない」


騎士団というだけあって、鎧を着た強そうな人だった。浅黒い肌に焦げ茶色の髪と瞳。歳はセイムさんと同じくらいに見える。

名前は……なんだったっけ?


「なんで出てきたんだい!? いいから戻っときな」

「心配してくれてありがとう、ララさん。でもこの人、思ったよりも悪い人じゃないと思いますよ」

「教会関係者に悪人じゃない奴なんていやしないさ!!」


正常な判断ができてないみたい。それほどまでに憎たらしい相手なんだろうけど、それだと話がこじれるだけなのだ。

それにもしこの場を追い返せたとしても、多分、その後が厄介だと思う。


「あの、騎士団の人。もし今日私に会えなかったら明日はどうするつもりでした?」

「……俺個人は何もする気はないが、神父の事だ。信徒騎士団は使わなくとも私兵を数名寄越すくらいの事はするだろうな。しかも奴らは傭兵崩れが大半、荒事が専門といってもいい」

「つまり、この町の人に何をするか分からない……という事ですか?」


騎士団の人が黙って頷くと、ララさんやセイムさんは青ざめた。いつの間にか出てきたリン君やレイ君も一様に不安な顔をしている。

と、セイムさんが恨みを吐き出さんばかりの声で唸った。


「これ以上、クスクの町から何を奪えば気がすむのだっ」

「俺とてそれは本意じゃない。だからこそ神父の動き出す前に一人でやって来たのだ。銀髪の子供、改めて名は何という?」

「……御蔵森或音です」

「やはりこの辺りでは聞かぬ名だ。君はここにいる者達より自分の状況が理解できているようだ。ついて来てくれるか?」

「は、話を聞くだけじゃなかったかい!?」

「……わかりました」


私が頷いたのを見て、ララさんは表情を更に悲痛なものにして、私を強く抱きしめた。


「この子は何も悪い事をしちゃいないだろ! 国に守られてるからって、平民に何してもいいって事じゃないだろうに!!」

「ララさん……教会の事とかよく分からないけど、このまま私がここにいたら皆に迷惑をかけちゃうんです。あの騎士団の人は望まない結果にならないよう尽力してくれるみたいだし、多分敵じゃないと思います」

「そんなのわかった事かいっ」


聞き分けのない駄々っ子のようなララさんの肩に手を置きながら、私は騎士団の人と初めて目を合わせた。


「ーーあなたは、私を守ってくれますか?」


神父さんの私兵というのから、という意味で気軽に言ったつもりだったけど、騎士団の人は目を見開いて身を硬くすると、かかとを合わせ右手で胸を叩き、鎧をガシャリと鳴らして声を張り上げた。


「このジル・セントメント! 信徒騎士団の名誉と創造神テラレマの名にかけて、ミクラモリアルネを守り抜くと誓おう!!」


私はその言葉に満足するように頷き(本当は大声出されて死ぬほどビックリした、あとそんな名前だったねこの人)、心配してくれる人達を見やる。


「リン君、外套と靴を貸してくれてありがとう。必ず返すから靴はもう少し貸してね? レマちゃんにも服のお礼伝えて……セイムさん、短かったけど話せて嬉しかったです。ララさん、ご飯、美味しかったです。抱きしめてくれて、本当にありがとう」


袖を引っ張られ下を見ると、事情は飲み込めずとも雰囲気は感じるのだろう。

レイ君が不安な顔をして見つめていた。


「おねえちゃん、どこか行っちゃうの?」

「レイ君ーーうん。ちょっとお出かけするけど、また会えるよ。私を見つけてくれてありがとう、レイ君」


頭を撫でられても不安な表情は崩れず、結局、ジルさんに連れられて玄関扉を閉めるまで、レイ君はずっと不安そうに私の事を見つめていた。


「悪かったと思う。君にとっては怒涛どとうの一日だろうし、あの家族にも悪い事をした」


少し歩いて立ち止まると、ジルさんは振り返らずにそう言った。もう暗いからなのか外には誰もおらず、家の窓から漏れる小さな蝋燭の灯りと、月の光だけが辺りを淡く照らす。


「あのまま私がいたら、神父さんの私兵が来るって言いましたよね。その時にどんな事が起こるかも……貴方には助けてもらったんです、悪いなんて思いません」

「記憶喪失と聞いたが君は聡明だな。正直俺の話す危険性を分かってもらえなかったら、君をかどわかしてでも連れて行くつもりだったんだ。結果そうならずにホッとしている」


やっとこちらを向いた顔は苦笑を浮かべていて、騎士というよりも中間管理職みたいな苦労の色を滲ましている。

神父さんと町の人たちの間で四苦八苦してる苦労人なんだろう、ガンバ!!


「君があの家にいない事を神父には明朝伝えるとして、とりあえず騎士団の宿舎に来てもらう。外観は古いが清潔にしているし、女性騎士もいるから多少なりとも気が許せるはずだ。急がせて悪いが、今夜の月が雲に隠れる前に着きたいと思う」

「あの、どうやら私足が遅いらしくて……そこも考慮してもらえたら助かります、えと、ジルさん」


思案顔のジルさんはおもむろにしゃがむと、「背中に乗れ」と言ってきた。


「今やっと名前を覚えてくれたからな、今夜は背負ってやろう。騎士の背中におんぶされるなんて中々ないぞ?」


あ、気付いてたんだ。なんかごめんさいーー




構想段階ではチョイ役だったジルさんが存在感を出して出演場面を増やしております。

合流予定の天使に会うまでまだまだかかりそうです。

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