1.2.火の魔法使いが、口から火を吹かないのはなぜか?
これから先の話を簡単にするために、まずはこの「火の魔法使いが、あまり口から火を吹かないのはなぜか?」という問題について考えていきます。この問題はいわば、前回指摘した「どうして火の魔法使いは、炎を身にまとう必要があるのか?」といった問いをより具体的に言いなおしたものになります。
口から火を吹くことをもっともらしく説明するとしたら、たぶん「体内のどこかしらに宿った燃料を食道から逆流させ、口にて着火し相手めがけて吹き付ける」というような説明になるでしょう。
この「口から火を吹く」というアイデアは書き手にとってなかなか秀逸です。まず最大の特徴として、描写が楽な点が挙げられます。おそらく、今カギカッコ内で説明した以上のことを叙述として付け加えると冗長になりますし、描写にもよい影響を与えてくれるとは思いません。
二つ目のよい特徴として、設定に無理がないことが挙げられます。いかに魔法が超自然的であるからといったって、その設定までもが超常的では読み手がついていけません。その点「口から燃料を吹き出して火をつけて燃やす」という構造は説明もしやすいですし、想像の範囲を超越しない限りにおいていい感じに「超自然的」です。
このように書き手にとっては利点が多いはずなのですが、実際はあまり採用されていないようです。その理由として、おそらくメリットよりもデメリットの威力のほうが大きいからだと私は考えます。
最大のデメリットは、「『火を吹く』という行為を魔法だけに限定する必要はない」ということがあります。構造としてあまりにもシンプルですから、たとえばたいまつを利用して火炎放射をはく場面は、多くのサーカスなどで存在します。
要するに燃料と着火材料さえ存在すればよいのですから、無理に魔法を介入させる必要もないわけです。シンプルすぎるがゆえに、却って魔法の存在が邪魔になってしまうのかもしれません。
それゆえもう一つのデメリットとして「魔法を使って口から火を吹いたとして、いったい魔法はどこに影響しているのか」という問題点が浮かび上がってきてしまうのです。
魔法が影響を及ぼせるのは、主に次の二つに絞られます。
①燃料そのものが魔法である。
②燃料の着火材が魔法である。
これ以外の要因を魔法として特定することは難しいでしょう。無理をして「③炎を相手に目掛けて発射するためのエネルギーが魔法である」などを付け加えてもよいのですが、そこまでを考えると火の魔法から遠ざかりますし、そもそも①に含んでしまっても差し支えのない内容です。
このように二つの要素が、魔法が影響力を及ぼせる範囲として絞られます。しかしながら、この段階に来ても共通する問題点が一つ浮上してきます。それが前回にも指摘した「魔力は可燃性であるのか?」という問いかけです。
「口から火を吹く」という設定を採用したにしても、「魔力は可燃性であるのか?」という火の魔法に共通する問いかけは残ったままですし、そもそも口から火を吐くという技術は、別に魔法使いだけの特権ではありません。
こうした理由のために、火の魔法使いが口から火を吹く設定は少ないのだと思います。そしてこの設定が封じられてしまった以上、やはり火の魔法使いは「炎を身にまとう」という設定がやむを得ず出現してくるのだと思います。
次回は二つあげた疑問のうちの一つ「魔力は可燃性であるのか?」という問いについて考察していきたいと思います。