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お菓子の家

※桜がローズランドに来て半年も経ってない頃です。


 アステルが部屋で本を読んでいると、扉の向こうから桜の声が聞こえてきた。


「アステル。開けてー」


 いつもなら返事をすると自分で開けて入ってくるのにどうしたことか?

 疑問に思いながらも扉を開けてやると、片手にケーキ、片手にお茶の入ったカップを持った桜が立っていた。

 いかにもおやつだ! という出で立ちである。


「どうしたんですか?」

「部屋で食べるとエレーヌとソフィアが、お茶を飲むときに音を立てるなとか、もっと上品に食べろとかうるさくって。ここで食べさせて!」


 桜としては美味しいものをもっと楽しんで食べたい。横からいちいち口出しされてしまっては、お菓子の魅力も半減しようというものだ。

 アステルの脳裏に一瞬小言めいた言葉が浮かんできたが、たまのことだからまあいいか、と敢えて無視しておくことにした。彼がローズランドで過ごす時間は限られている。


「どうぞ」


 アステルは零さないようにお茶を受け取り、扉の前から身体をずらして桜を招き入れた。桜が満足そうに頷いて、中へと入っていく。アステルが扉を閉めて振り向くと、既にテーブルへケーキを置いて長椅子に陣取っていた。

 アステルはケーキの横にカップを置いてやった。

 桜が満面の笑みでありがとうと述べる――と思ったら、急にあっと声を出して気まずそうな顔を浮かべた。

 その百面相的な表情の変化に、アステルが何事かと驚いていると――


「アステルの分、持ってきてない……」

「俺は今、喉も渇いていませんしお腹も空いていませんから気にせずに食べてください」


 なんだそんなことかと拍子抜けし、桜の隣に腰かけながら安心させてやった。桜がまたニコニコと嬉しそうな笑顔に戻り、甘美な世界へ入るべくフォークを手に取った。


「ケーキと言えば、私の世界にはお菓子の家が出てくる童話があるんだよ」

「お菓子の家……ですか。全てがお菓子でできているんですか?」


 甘い物が苦手なアステルにとっては、ちょっと入るのは遠慮しておきたい家である。

 近付くだけで胸焼けしそうだ。


「そうそう。何でできているかは色んなパターンがあるんだけど、食べることができるんだよ」

「食べる? 家と言うからには野晒じゃないんですか? 汚いでしょう」

「や、まあそこは童話だし……。それでね、その家には魔女が住んでるの」

「魔女? 魔術師のことですか? その魔女はどうやってその家を造ったんです? 例えば原型のお菓子を作ってそれを巨大化したとか? それとも1から全ての作業を魔術でこなしたんですか?」

「そんなこと知らないって! (気を取り直して)それからその魔女は、お菓子の家で子供をおびき寄せて食べようとしちゃうんだよ」

「子供を食べる? その魔術師はそんなに飢えているんですか? それだったら家を造るよりも、自分の空腹を満たすために食材を使えばいいでしょう。大体、お菓子の家に住んでいたら身体がべとつきませんか? それとも内装は普通の家と同じなんでしょうか?」

「注目するのはそこじゃないでしょうが! (さらに気を取り直して)魔女はおびき寄せられた子供を太らせようとするんだけど、子供は動物の骨を魔女に触らせてなんとか誤魔化すんだよ。賢いよね」

「骨と肉の感触は全く違うと思いますが……。いくらその子供がやせ細っていたとしても、気付かないとはその魔術師は相当感覚が鈍っていたんでしょうか?」

「年取ったお婆さんの魔女だったんだよ……」

「年老いていたのなら、いくら子供の肉が柔らかそうだといえ噛むことはできないでしょう。歯も相当衰えているでしょうに」

「別の話しようか……」


 ――この現実主義め!

 桜は、アステルに2度とこの手の話題は振らないようにしようと決心してケーキを食べ終えた。

 アステルはそんな桜の口元についているクリームを指で拭い、ペロリと舐めた。これだったら甘ったるい味も悪くない。

 ぷりぷり怒っている桜を膝に乗せると、アステルは宥めるように頭を撫でてやった。


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