第四節 狩〈シュ〉
※注意※
異常者の話なので結構グロいです。そういうのが嫌いな方は読まない事をお勧めします。
刃を肌に突き立て、通し、裂く。乱れている息が、抵抗を嘲笑うかのように弱々しくなっていく。肋骨を断つ感触を楽しみ、心臓を掴み、引き千切り、心臓に残った血を飲み干す。
胸の奥深くまで届いている刃を伝い、液体が滴り落ちる。光無き闇の世界に、鮮やかな血の綺想曲が響く。
声を立てることすら叶わず、少女は絶命した。
人を殺す事を生業とする者の中でも取り分け優秀な者として、『彼』は所属する組織の長から『鬼』の一字を賜っていた。
組織への忠誠など欠片も無かった。人を殴りたいが為に格闘技をするのと同様に、人を殺したいが為に組織に入り、殺し屋となった。しかし、殺し屋の仕事は彼を満足させる事より苛立ちを与える事の方が多かった。
彼が殺したいのは女、特に、よく泣き叫び、肌の張りが良く、肉が柔らかい十代の女であった。
彼は殺し屋をする代わりに暗殺対象以外の殺したいと思った人を殺す権利を要求し、組織はそれを受け入れた。
彼は人を殺す事にしか性的オルガズムを感じない異常者であった。抵抗し、泣き叫ぶ姿に堪らなく興奮した。中でも、必死に抵抗する女を壊していく事はこの上ない悦びだった。
今日も一人、彼は夜道を歩いていた女を殺した。後始末をさせる為に担当者を電話で呼び出し、彼はその場を後にした。
彼の父は有名な医者だった。医者になれと父に言われ、医者になった。初めて生きた人にメスを入れた時の興奮は忘れられない。それまでの価値観が崩れ、またこの感覚を味わいたいと思った。その感覚を味わいたいが為に、寝る間を惜しんで手術に没頭した。
やがて、人は彼を聖者や名医と呼び、尊敬の眼差しで見るようになった。
名声も富も女も手に入れた。だが、それらは彼を満足させるには及ばなかった。満足出来たのは手術の間だけであった。
最後に残ってしまった唯一の欲望は次第に拡大していった。手術をしていないときでも人を切る事しか考えられなくなった。
そんなとき、彼は再会した。
研修時代、初めてメスを入れた患者。彼に人を切る悦びを教えた少女。当時の小学生は美しい女性になり、その手術の担当医に会いに来ていた。
かつての少女の姿を今の彼女と重ね、彼は遂に抑える事が出来なくなった。
彼女の跡をつけ、襲った。
翌日、そのニュースは全てのテレビ局にこぞって取り上げられた。白昼堂々行われた、手慣れた者による残忍な犯行。変死した美少女。退屈な主婦を驚かせるには格好の話題だった。
少女が生き絶え、彼は理解した。彼が人を殺したという事を、彼が満足しているという事を、彼がこれからも人を殺し続けるという事を。
そして、彼はつまらない日常を止めた。
一人のうら若き乙女の命を弄んだ興奮の余韻に浸りながら、彼は住家に戻っていっていた。犯行現場と違い、街灯が道を照らしている。辺りには桜と思われる木々が青々とした葉を揺らしていて、車も人も通らないお陰で、葉の擦れる音だけが響いていた。
「さすがだね。見事な『解体』だったよ」
背後から、今まで誰も居なかったはずの場所から、やや高めの男声がした。立ち止まり、武器であるメスを手に隠し持ち、振り返った。
男は白無垢に黒い着流しを纏い、般若面をつけていた。
「慌てなさんな。別に、殺りに来た訳じゃあないよ」
般若面は言った。呼吸を整え般若面を見据える。彼は最大限に警戒していた。
「君の欲を最も満足させてくれる人を、知っている」
再び般若面が口を開いた。彼は動じなかった。般若面は続けた。
「彼女は、君の望みを受け入れられる。彼女は何せ、あの大御所の娘だからね」
彼は一瞬眉を震わせた。
大御所。彼の組織の最高責任者であり、この国を裏で操る老翁の通り名。『鬼』の一字を賜った際、彼は大御所に会った。後にも先にも、大御所を見たのはその時限りである。
捕らえどころが無い不気味さを感じたのを覚えている。普通の人とは違う、非日常の住人とも違う異質さがあった。
大御所の娘。彼の興味は般若面の正体からそっちに移っていた。
「その女の年齢を言え」
警戒はそのまま、彼は口を開いた。
「十二歳。嘘じゃあないよ。彼女は試験管で作られた。現代医学の不妊治療技術でね」
般若面の声には呆れと嘲りが混ざっていた。彼の顔は少し緩んでいた。
「居場所と顔と名前を言え」
彼の声は先程より大きかった。
「それはわからない」 般若面は言った。
彼の顔が再び険しくなる。両者が黙り、静寂する。一触即発の痛い沈黙が場を包む。
「だが」
般若面がゆっくりと口を切る。
「それを知り、全ての情報を管理している者なら知っている。第九支部の責任者の植山という中年男だよ」
第九支部は組織の大きな拠点の一つで、横浜にあった。ここからは車で飛ばして一時間程度の位置にあり、表向きは大手系列会社に偽装してある。彼も数回行った事があった。
「その話の証拠は何だ」
彼は言った。
「確実に信頼出来る筋からの機密漏洩〈リーク〉があってね。信じるも信じないも君の勝手さね。まあ、信じなくても君は必ず彼女を求める」
般若面は言い終わると目の前から消えた。現れたときのように、その痕跡はどこにもなかった。
誰も居ない桜並木。木々が囁く中で、彼は笑いを堪えていた。徐々に声は大きくなり、終いには遠慮無く大きな声で笑っていた。
彼は第九支部に向かった。
大御所の娘。彼にはもう彼女しか考えられなかった。
彼は快楽殺人者であった。
一人ネガティブキャンペーン実施中です...orz
こんな文章力皆無のしょうもない作者の書いた作品なんて誰も読まないよとばかりの自虐思考で軽く鬱です。
今までで一番ノリノリで書きやすかったのも鬱の原因です。orz
今月(九月)に入っても数件アクセスがあったので、もしかして見てくれてる奇特な方がいらっしゃるのかなぁ〜と思って、更新してみました。
はい、自意識過剰ですね。すいません…orz