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紳士、淑女になる前に

淑女に迫る暗雲

作者: 若山 竹子
掲載日:2026/10/25

五人の淑女(レディ)達。マリエラ、ミラーベル、パトリシア、リゼノア、ディアンナ。彼女達は重要な職種に就く家系の娘達である為、国営の学園においても周りとは一線を引く立場にあり、それは彼女達の放つ一種のカリスマ性によるものでもあった。学園は一年から六年まであり、現在、彼女達は学園の三年生で年の頃15、6。周りは既に婚約者に成り得るパートナーを見つけていた。彼女達が出遅れたのは、一重(ひとえ)に王族のせい。に他ならない。不敬極まりない話で、表立てば、王族の怒りを買いお家取り潰し、打ち首までは行かずとも、勾留、島流し、屋敷の中で幽閉されてもおかしくはない。が、彼女達が公言せずとも、上層の役職に就く貴族達のみならず、国王ですら、その責を理解し彼女達には気を使っている始末だ。


「姫様から、手紙が届いたわ。」リジーは、封印が押された封筒をヒラヒラさせながらテーブルに置いた。リジーが住まうタウンハウスの客間で、五人は恒例のティータイムを過ごしていた。

「…見なきゃ駄目?」パティは情けない顔をして、子犬の様にリジーを見る。「見なきゃ駄目でしょうね。」ため息混じりにアンナが答えた。「なんでこちらに寄越すのかしら。どうせ、一度開いて検閲してるでしょうに。」マリーは肩をすくめ、首を振る。「せっかく、輿入れなさったのだから、大人しくして下さればいいのに。」ベルは、諦めたようにリジーが置いた封筒を開ける。中からバラの透かしが入った封筒が、蝋封が開いた状態で入っていた。やはり、一度開かれたのだろう。

「何々?“親愛なる、お友達。皆、変わりはないかしら。私(わたくし)は、慣れないながらも、我が祖国と国交を強固にすべく、学びの絶えない日々を過ごしています。”」リジーが、朗々と読み上げる。「姫様、だいぶ、しごかれてるみたいね。」パティは、ウフフと笑う。「“学びの絶えない”なんて、こちらじゃ考えられないもの。」「嫁ぎ先で粗相なんてしたら、取り返しつかないもの。姫様だって解ってるわよ。」マリーは紅茶のカップを手に、以前、世話役をしていた第二王女の事を思い出していた。「けれど、第三王子(愛した相手)の為なら、頑張れるんじゃない?」その言葉に、他の三人も頷く。が。

「…“こちらに嫁いで早や5ヶ月。私(わたくし)の心を、夏の夜の様に寂しさが襲い、包みこんでしまうのです。”?」手紙の続きを読みあげながら、首を傾げるベル。「“つきましては、夏の長期休暇に、是非とも我が国へ逗留なされるがよいかと”?」四人も、手紙を読むベルに注視する。「“楽しみに待っています。ティタニア,ポルテッシオ”…。」読み終えたベルは、手紙を下ろす。「「「「「はぁ?!」」」」」五人の言葉が、重なった。「ちょ、ちょっと待って。ほんとに書いているの?!」リジーは、手紙を鷲掴み、内容に目を通す。「冗談じゃないわ。夏の長期休暇なんて、各家々でパーティーが開かれるじゃない。絶好のチャンスなのよ?!」マリーは青ざめて、頬を両手で包む。「…見なかったふりって出来ない?」パティはテーブルにうつ伏せながら、隣のアンナに聞く。「…無理ね。検閲が入った上で、私達の元に届いた。つまり、王族も認めた結果なのだわ。」客間に重苦しい空気が溢れ、誰も言葉が出てこなかった。


しばらくの沈黙のあと、ふいに、リジーが口を開いた。「おかしいわ。」リジーは姿勢を正すと、「あの姫様が、たとえ寂しさを感じられたとして、私達を呼ぶ様な事するかしら。」魂が抜けていた四人も、リジーの言葉に身体を起こす。「…確かに、私達(わたくしたち)が行ったとして、優しく嗜(たしな)める事も労う事も、いたしませんわ。」アンナは屹然と、とんでもない事を言った。「私達、どんだけ涙ぐましい日々を過ごしたか。」マリーも、まなじりを厳しくして言葉を発する。「けど、手紙の内容は?まさか、偽物?」パティは、不安げに手紙を見つめる。「…いえ、筆跡は姫様のものです。便箋も姫様専用のもので間違いないわ。」ベルは、リジーから手紙を受け取ると光に透かして確認する。「じゃあ、なんで?」再びパティが不安な声を上げる。しばらく、五人とも考えていたが「…まさか。私達を品定めに出す…?」リジーの言葉に、他の四人は驚愕する。「品定め?何よ、それ。そんなのまるで…!?」ベルは言いかけて、言葉が詰まった。「何?どゆこと?」パティはリジーの袖を引っ張る。「…あくまで、私の考えだから、絶対じゃないわよ?」リジーは、釘を指してから、「私達、身分は高いけれど、婚約者が、まだ決まってないわ。」マリーもアンナも、下を向く。「近々、姫様と第三王子の御婚約のパーティーが開かれるわ。」ベルは、手紙を静かに封筒に戻す。「それには、他の国からも来賓がいらっしゃる。つまり…。」パティは、息を飲んだ。「私達は、国交の為の餌になるって事よ。」最後は、声が震えた。

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