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翌日
「ルミナ、また君はあのクロエを庇っているのかい?」
王太子エドワードは、心底心配そうに眉を寄せ、ルミナの手を優しく包み込んだ。
「彼女は今日も午後の祈祷を欠席した。それどころか、昼食の席にすら顔を出さない。聖女の名を冠しながら、国民が汗水垂らして働く時間に眠り耽っているなんて、あまりに不誠実だと思わないか?」
「……エドワード様。ですから、彼女には彼女の役割があるのです。夜の休息……いえ、夜の仕事が必要なのです」
ルミナは必死に声を絞り出した。本当は叫びたかった。『彼女が昨夜、国境沿いに溜まった死の瘴気を一人で飲み込んだから、今日のこの青空があるのよ!』と。
けれど、闇魔法の性質上、余計な恐怖を民に与えないよう、夜の浄化は秘匿する。それは、クロエが平和を守るために自らに課した孤独な誓いだった。ルミナと大司教のみが知っている誓いである。
「ルミナ、君の慈悲深さは国の宝だ。だが、その優しさが彼女をダメにしている。明日の昼の式典には、僕の権限で彼女を強制出席させることにした。彼女も聖女として、少しは日光を浴びて、民の前に立つ義務を果たすべきだ」
「そんな......! 無理です、明日の昼間は彼女にとって、最も体力を回復させなければならない時間で……!」
「いいかい、ルミナ。君が彼女の分まで背負う必要はないんだよ」
エドワードはルミナの言葉を「自己犠牲的な優しさ」だと完璧に誤解し、満足げに微笑んだ。
「大丈夫、僕が君を楽にしてあげるからね」
ルミナは絶望的に目の前が暗くなるのを感じた。
今夜も、クロエはボロボロになりながら帰ってくるはずだ。そして明日、万全でない状態で太陽の下へ引きずり出されれば、クロエの魔力は暴走するか、最悪の場合、命を削ることになる。
(……このままじゃ、クロエが壊れてしまう)




