第五話 侵入
旧文明の遺跡はまさに洞窟だった。天井に鍾乳石、地面には石筍(せきじゅん:上方に向かってたけのこ状に成長した洞窟生成物)が生じていた。どこかの通風孔から不気味な唸りが響いていた。動物的なぬめり気のあるアモニアルコ(アンモニア)が強く鼻やのどを刺激して目を潤ませる。壁面にはほの白い硝石の結晶模様が生じていて、それらが混然となって通路の続く限りに続いていた。レインは周囲の光景に圧倒されて一瞬、仕事のことを忘れていた。
「レイン。」
カイネが様子をうかがう声を出し、レインは、何でもない、というように首を振った。カイネが頷き、顎で足元の小さな砂丘を示した。
「私の足元を見てみて。赤黒く積もったような小さい岩が続いているでしょう。これを見つけたら語り葉(リトマス紙)を当ててみて。それで語り葉が青に変わったらアモニアルコが染み出している証拠だから、リン鉱石の可能性が高い。つるはしで砕いて、自動車両を止めた場所まで持ち帰ってきてね。」
そう言って、カイネが語り葉をかざした。語り葉が青を示すと、カイネは、えい、という掛け声を上げてつるはしを構えて思いきり振り下ろした。岩が砕け、カイネは岩の破片を残らず背負い籠に入れた。そうしてレインに視線を向け、やってみて、というようにレインに笑顔をみせた。
見ることと歩むことは異なる。仕事は簡単だったが、思った以上に体力勝負の仕事だった。リン鉱石を見つけ、つるはしで砕く。破片を背負い籠に入れて坑道を戻り、渡し板を登り、ロープを手繰る。そうしてようやく自動車両のある場所に辿り着く。水筒の中の水はとっくに空になっていた。
慣れないうち、レインはリン鉱石を入れた背負い籠に重心を持っていかれてうまくバランスが取れなかった。気を抜くと突き出した石筍で大けがをしてしまいそうだった。レインは体全体に力を込めて背負い籠をひたすらに運んだ。苦しいときの癖で、レインは心の中で詩編を紡いでいた。
何というむなしさ
何というむなしさ
見よ、すべては風を追うようなことだった。
太陽は昇りそして戻る。
命は生まれいずれ朽ちる
何というむなしさ
見よ、すべては風を追うようなことだった。
天使隊に入る以前、レインはシーラ教会が養う子供たちの一人だった。レインはこの詩が好きだった。この詩には心に寄り添う何かがある。すべては風を追うようなことなのだ。
そしてこの仕事は怪力を発揮できる天使には向いているかもしれない、とも思った。コツさえつかめば無心で体を動かせそうだった。レインは糞塊の化石を運びながら、心の中で詩を紡いで苦痛を紛らわせた。
カイネはほとんど口を利かずにレインの持ち出したリン鉱石を選別し、仮置き場に集積する作業に没頭していた。そうして作業をするうちに、ついにカイネが、仕事終了の声を発した。カイネは、さすが天使だね、と言った。タフだね、と付け加えていた。
レインは苦笑いでその賛辞を受け取った。タフでないことは、レイン自身がよく分かっていた。




