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第三話 再生

曇天の空から優しい小糠雨が降っていた。十月の紅葉した樹木と松や樺やウルシの樹がどこまでも続いていた。

カイネは自動車両を西へと走らせた。道路は土嚢に砂をかぶせて固めたものだったが、霊柱(電柱)や霊導線(電線)が架設されていない。竜人の仲間が敷いた補給路だった。連絡は無線で飛ぶから霊柱がないのだ。やがてみすぼらしいコテージ群が見え、まさかあのボロ家ではなかろう、とレインは祈ったが、カイネはにやりと笑っていた。

「さあ着いたよ。レイン、君は魚は食べるよね。」

「なんだっていいよ。」

「まあ、そう言うと思ったよ。」

カイネがそう言った。


カイネの秘密基地とは竜の襲撃によって廃棄された軍事基地だった。コテージの内装は見た目のわりに堅牢で、リビングには石造りの暖炉が据えられていた。


それから六日間、レインはカイネと一緒に過ごした。周りには大いなる悠久の原野だけがあった。カイネはレインと一緒に森に入り、お気に入りのハイキング・コースを教えてくれた。それから、魔法瓶というものを使って暖かいカモミール・ティーを飲ませてくれた。夜には暖炉の前で一緒にチェスをした。


何の混乱も儀式も無く、カイネはレインが必要とするものをそっくり提供してくれた。カイネの強靭さは驚くべきものだった。カイネは六日間、実にきっぱりとした沈黙を貫いた。生まれはどこなのか。どうして天使隊に入隊したのか。どうしてそれをふいにするような真似をしたのか。そういった質問を意思の力を用いて口に出さないようにしていた。


でも竜人カイネはきっと分かっていたのだろう。何といっても硝石の豊富なこの新大陸への開拓と入植は旧大陸ではほとんど『明白な使命』とされていた。そして天使隊に入ることはほとんど若者の栄えある責務とされていた。


要するに、レインは社会的外圧に屈服して徴兵に応じ、そしていくつかの筆記試験と口答試験に合格して士官候補生となった。そのようなごく普通の青年だった。そして初めての任務で恐慌をきたして脱走兵となった。ただそれだけの平凡な青年だったのだ。


カイネにはきっとそれが分かっていたのだ。


カイネは少なくとも外見上は同世代の若い娘のように見えた。カミソリのような細い目。カイネは鋭敏な感性で、夕暮れの鳥たちを眺めていた。鳥たちが森の上空で円を描くその姿を眺めていた。

「レイン。」

とカイネは声を発した。

「綺麗だよね。」

そう言って鳥たちを見つめていた。


六日間をどうやって持ちこたえたのか、レインにはわからない。カイネが冬支度をするのを手伝った。薪割りをやり、ジェム川に流れ込む小さな川で釣りをした。釣った魚を捌いて燻製にしたり、破けた上着の補綴ほていをしたりした。そうして夜眠ろうとすると猛烈な怒りがあり、悲しみがあり、自己憐憫があり、そして無感動があった。それが体力が尽きるまで繰り返される。食べた物を戻してしまうこともあった。レインは消耗し、そして怯え切っていた。


そしてそれはカイネと六日間過ごすうちに、次第に良くなっていった。明日はもっと体調が戻るだろう、と思えたから安心して夜を過ごすことができた。


それが出来たのは、なんといってもカイネのおかげだった。


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