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第八章 真実の小箱

ラフェーレ家の断罪と処刑から、幾日が過ぎた頃でございます。

王都は嵐の後のような、異様な静けさに包まれておりました。民は巨悪が滅んだことに安堵しながらも、断頭台に散った気高き令嬢の最後の微笑みを思い出し、どこか寂しげに曇り空を見上げておりました。


私はひとり、主を失った屋敷の廃墟を訪れておりました。

かつて華やかな音楽が満ちていたホールは焼け落ち、風が吹き抜けるたび、煤と灰が悲しい音を立てて舞い上がります。まるで、失われた日々の嘆きのように。


その時、瓦礫を踏む微かな足音が響きました。

振り返ると、そこにアルフォンス様が立っておられました。騎士の誇りであった背は丸められ、光を失った瞳は深く落ち窪み、まるで亡霊のようにもお見受けできました。


「……彼女の……ミシティアの遺品は、何か残っていないか」


絞り出すようなその声に、私は黙って頷くと、あの日からずっと懐で温めていた小さな木箱を、恭しく差し出しました。お嬢様から託された、“最後の祈り”。


アルフォンス様は、まるでそれが壊れ物であるかのように、震える手で受け取られました。

そして、積もった灰をそっと指で払い、ゆっくりと、実にゆっくりと蓋を開けられました。


――中には、古びた指輪と、一通の手紙。

その指輪が、幼い日に自分が贈ったものであると気づかれた瞬間、彼の肩が激しく波打ちました。息が、喉の奥で詰まる音が聞こえます。

そして、手紙を手に取られた彼の瞳が、信じられないものを見るかのように、大きく見開かれました。


“あなたの信じる正義が、どうか多くの人を救いますように。

そして、あなたが救ったその誰かが、いつかあなたの孤独を救ってくれますように。”


その署名欄に記された言葉を、彼の唇が音もなく紡ぎます。

「――名無しの、令嬢、より……?」


あの夜、彼の心を苛んだ“疑念”が、残酷な“真実”となってその胸に突き刺さった瞬間でございました。

張り詰めていた糸が、ぷつりと切れるように。

アルフォンス様は、その場に崩れ落ちるように膝をつき、指輪と手紙を胸に掻き抱き、声にならない慟哭を漏らされました。


「ああ……あああああ……ッ!君だったのか、ミシティア!ずっと、私を支えてくれていたのは……!なのに、私は……私は、この手でッ!」


己の正義が、彼女の愛によって作られたものであったこと。

そして、その愛を、自らの正義で踏みにじってしまったこと。

取り返しのつかない罪の重さに、彼の魂が悲鳴を上げておりました。


どれほどの時間が過ぎたでしょう。嗚咽の狭間で、彼は灰に汚れた手で何かを探すように床を彷徨い、そして、ぴたりと動きを止められました。

そこには、すべてを焼き尽くしたはずの灰の中から、まるで奇跡のように、一輪の白薔薇が、その花弁を汚すことなく咲いておりました。お嬢様が最期の朝、髪に飾っておられた、あの薔薇でございます。


アルフォンス様は、まるでそれがお嬢様の魂そのものであるかのように、恐る恐るその花に触れ、そっと手に取られました。

そして、額に押し当てるようにして、祈るように囁かれます。


「神よ……もし、いるのならば……どうか。どうか彼女の気高い魂に、安らぎを与えてやってくれ……。彼女を穢した罪人は、この私なのだから……」


そのまま、彼は灰の中に跪き、白薔薇を胸に抱いたまま、長い、長い時間、動かれませんでした。

その姿は、もはや正義の騎士ではなく、永遠に赦されることのない罪を背負った、孤独な巡礼者のようでございました。


私は、そんな彼の背中を見つめながら、天にいるであろう主人に、そっと心の中で語りかけました。


――お嬢様。聞こえますでしょうか。

あなたの捧げた最後の愛は、呪いのように、そして救いのように、この方の心に、永遠に刻みつけられたのでございます。

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