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さよならがあたしの胸に残したもの

作者: 歌川 詩季

 さよならは油断した頃に来るのです。

 あたしの胸のなかには

 じゃらじゃらした鎖はないから(つな)いでおけない

 あたしが好きだったものはきっと

 白くておっきなつばさをはやしてて

 それぞれの空めがけて飛んでゆく

 そのほんのちょっとした羽休めに

 あたしのなかに宿り木をみつけただけなのだろう


 だからいつだって くちばしには

 さよならを(くわ)えていたんだろうし

 顔よりも背中のほうがひろく見えていたのは

 たぶん そのせいなんだろうね

 翼をばさっとひろげたり

 宿り木につけた(かかと)を浮かせるたび

 あたしはびくっとして

 くちばしに(くわ)えていたさよならを

 置き手紙にして

 あたしの好きだったものはこの瞬間に

 飛び立ってしまうじゃないかって(おび)えていたよ


 そして やがて

 そのくちばしがゆるんで

 (くわ)えていたさよならが

 ひらりと落ちたとき

 あたしは(おび)えていた瞬間が

 とうとう来てしまったと悟った


 さようなら ありがとう

 なんかごめんね だけど……ばかぁ

 そのあと でいいからちゃんと

 好きだったよ 大好きだったよ って伝えられたら

 さよならは あたしたちのあいだに起きた

 避けられない出来事ではあっても

 悲劇や単なる喪失ではないはずだ


 だから涙で(にじ)む視界を晴らすように

 目を見ひらいて

 めがけるべき空へと飛び去ってゆく

 おっきな翼とひろい背中を灼きつけよう

 ううん それだけじゃたりなくて

 そのすがたを胸に刻みつけておくんだ

 (しば)りつける じゃらじゃらした鎖はなくても

 刻みつけておく場所なら ちょうどいま

 羽を休めるもののいなくなった

 宿り木のした あいたスペースに

 埋めるべき空白があるからさ


 さようなら ありがとう

 なんかごめんね だけど……ばかぁ

 好きだったよ 大好きだったよ

 胸に刻みつけたすがたは その深さのぶん

 あたしの傷にもなるけど

 痛みを忘れないでいるためには

 むしろ ちょうどいいや


 あたしはこうやって

 羽を休めるもののいなくなった宿り木と

 そのしたに深く刻みつけた

 翼と背中のシルエットを またひとつ増やして

 じゃらじゃらした鎖のない

 がらんどうに見えて

 たくさんの傷が()きつめられた胸をしながら

 これからも生きていくんだろう


 そんな生きかたをやめないかぎりは

 好きだったものとのさよならは

 過去に風化して崩れることなんかない

 いまも生々しく 血が(にじ)みでてきそうな

 傷として 指を()わせることができる

 そんな生きかたをやめないことが

 あたしが好きだったものに対して

 あたしができるせいいっぱいのことなのかも


 そしたらこれからも ふとその翼と背中だけじゃなくて

 かすれそうな面影(おもかげ)に浮かぶ顔を

 思い出しては また(つぶや)くんだ



 さようなら ありがとう

 なんかごめんね だけど……ばかぁ

 好きだったよ 大好きだったよ

 でも、ありがとうだよ。

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― 新着の感想 ―
然様なら  会い仕合せに  有り難う  さようならあいしあわせにありがとう  m(_ _)m 
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