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「どう? 俺の精神攻撃、効いたでしょ?」


「めっちゃ効いたから、あとでもう一回言って」


「えー、どうしよっかなぁ」


 ニヤニヤと茶目っ気全開の表情で口元に弧を描いたカーディナルは、胸を両手で抑えたまま立ち上がったリーフグリーンに楽しそうに答えた。仲良さそうに戯れあう二人を見て嫉妬心が沸き上がり、しおんは今すぐ出て行きたい衝動に駆られる。

 しかし、カーディナルは自分の為に爆弾発掘ゲームをしてくれているのだ。もう忘れている可能性もなきにしもあらずだが、しおんが出て行って台無しにするわけにはいかない。リーフグリーンが帰ったらめいいっぱい構ってもらおうと心に誓う。


 カーディナルのカボチャが九百なのに対し、先程の『フレイムキャット』で六百削られたリーフグリーンのカボチャ。お互いに残りのゲージは九百だ。「じゃあ、勝ったら言ってあげる」と無邪気に破顔して宣言したカーディナルが、「おっ、言ったな?」とヤル気を漲らせるリーフグリーンとジャンケンをする。グーを繰り出したカーディナルの勝ちだ。カーディナルが好戦的に瞳を輝かせる。


「よーし。もう一発、行ってこい!」


「あんまり猫を働かせてやるなよ-」


「へっ? だったら次は別の魔法にする?」


「いや。かわいいから、そのままで」


 大量の炎を纏った猫たちを召喚したカーディナルは、リーフグリーンに過労を指摘されて目を瞬いた。リーフグリーンの目から見てもカーディナルが『フレイムキャット』を使うのは可愛いらしい。しかし、またもや待機させられて不思議そうに首を傾げたり、カーディナルを見上げたりしている猫達を褒められたと勘違いし、カーディナルが嬉しそうにはにかむようにふにゃりと相好を崩した。


「ふへへ、俺のにゃんこかわいいでしょ」


「うん、かわいい」


 すれ違っていると分かっているはずなのに、リーフグリーンは真っ直ぐカーディナルを見つめながら曇なき眼で強く肯く。それに「えへへ」とまた照れ笑いをしたカーディナルは、ジーッと大人しくしている足下の猫を眺めた。そして、「でも、確かににゃんこ達が疲れちゃうから、『ファイアプリズン』!」と、『フレイムキャット』とは別の魔法の呪文を唱えた。

 猫の顔の形をした炎がカボチャを呑み込む。内側も外側も元気に燃え盛る炎一色で、中に閉じ込められた対象は灰燼に帰すことだろう。可愛らしい形をしているのに、『フレイムキャット』の数倍は恐ろしい魔法だ。特殊な素材で製造されているお陰で、カボチャは炭になるどころか焦げてすらいないが、七百に減らされている。


「うにゃああああっ!?」


 すると、召喚されたのに突撃できなかった大量の猫達が、不満そうにカーディナルの方に一斉に飛びついて炎の身体をぶつけた。どうやら主であるカーディナルは炎の熱さを感じない仕組みのようで、擦り寄られたり舐められて満更でもなさそうに笑っている。

 「次は使うからやめっ、こちょばいってば」と身を捩って、楽しそうに戯れているカーディナルを真顔のリーフグリーンが無言で撮っていた。羨ましい。しおんの場所からだとレースのカーテンが邪魔だ。もう隠れていることも忘れて、何とかして撮ろうと奮闘する。


 他の魔法を使うのも認められているという、サラッと出てきた新しいルールの事なんて、気にも留めていない。何とかして撮影しようと試みているうちに、カーディナルと大量の猫たちの微笑ましく癒やされるじゃれ合いが終わってしまった。


「今度も勝って、呼んでやらないとな」


「でも、そしたら今度は、『ファイアプリズン』が怒らないかなぁ」


 仰向けの身体を上半身だけ起こしたカーディナルの頭を撫でたリーフグリーンに、感情を持っている特殊な魔法に愛されているという悩みを吐露するカーディナル。生き物の形だからだろうか? それとも、カーディナルみたいに魔法を愛すると、しおんの魔法も感情を持つのだろうか?


「なら、グー、チョキ、パーで魔法を変えれば良いじゃねぇか」


「ナイス、リーフさん!」


 リーフグリーンの提案に目をキラキラと輝かせたカーディナルが、早速と言わんばかりに手を前に出す。最早、勝負中な事を忘れているような慈愛に満ちた双眸でリーフグリーンも手を身体の前に出した。「じゃんっけん、ぽんっ!」というカーディナルの掛け声で二人が同時に手の形を変える。リーフグリーンの手がチョキなのに対してパーを出しているカーディナルの手。リーフグリーンの勝ちだ。


「悪いな、カーディナル。『リーフティフォーネ』!」


「ああっ、一気に三百まで減らされたぁ!」


「おら、もういっちょ行くぞ。じゃんっけん、ぽんっ!」


今度はグーを出したカーディナルの勝ちだった。「よっしゃぁ、『フレイムキャット』!」と叫ぶカーディナルに従い、炎で出来た猫たちが勢いよく飛び出してカボチャに突撃する。ヤル気満々らしく何度も連続で引っ掻いたり、尻尾で叩いたり体当たりをしたりしていた。カボチャのゲージを五百に減らされたリーフグリーンが、面白そうに双眸を煌めかせる。


「ここに来て粘るじゃねぇか」


「次は『ファイアプリズン』の番だから! じゃんっけん、ぽんっ!」


 カーディナルの掛け声によるジャンケンは、パーを出したリーフグリーンの勝ち。「やべっ」とカーディナルが自分の手を焦った表情で見つめる中、ニヤリと口の端を上げて聞いたこともない魔法を唱えるリーフグリーン。カーディナルに提示した手によって魔法を変える案を自分にも用いるようだ。


「悪いな、『ローズヒュプノス』の番だ」


 カボチャの下に同じ大きさの赤い薔薇が召喚され、クルクルとゆっくり回りながら花弁を撒き散らし始めた。不意に落ちてきた一枚の薔薇の花びらに触れたカーディナルがうつ伏せに倒れる。思わず飛び出しかけのをグッと堪え、しおんが片膝を突いて身を乗り出しながら確認すると、スヤスヤと寝息を立てていた。

 どうやら薔薇の花びらに触れると眠ってしまう催眠系の魔法のようだ。一枚以外は全てカボチャの周囲を舞っており、一枚だけ偶然カーディナルの方に落ちるわけがない為、リーフグリーンによる操作だろう。そんな穏やかに眠るカーディナルに、真っ二つに割れたカボチャの底から、容赦なく一口サイズのチョコレートが降り注いだ。


「みゃああああっ!?」


 一枚だと効果はそれほどないようで、お菓子の雨で目を覚まして鳴くカーディナル。大量のチョコレートにジワジワと魔力を持っていかれ、うつ伏せで疲弊気味にぐったりしていて再び眠ってしまいそうだ。「ううー」と唸りながら船を漕いでいた。

 「ここで寝てて良いぞ」とカーディナルの頭を撫でて優しく声をかけたリーフグリーンが、躊躇なく家の中へと足を踏み入れて隠れる間もなく居間に来る。割と前のめりになっていて最早隠れていないしおんの視線と、鋭く睨めつけてくるリーフグリーンの視線がかち合った。

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