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「そういえば、負けた方は見学してる人に愛を叫ぶっていうルールがあったよな?」
「うわっ、出た。そんなルールないってば。ねぇ、アイさん?」
「確かにあったな。でも、適用は次からでええんちゃう?」
「アイさん!?」
今、思い出したという顔で即席の独自ルールを追加した。嫌そうに顔を歪めたカーディナルが、アイボリーに裏切られて目を大きく見開く。やはり見学者を対象にして正解だった。アイボリーを味方に出来れば、独自ルールが通る確率も跳ね上がる。
案の定、アイボリーの巧みな話術でカーディナルが丸め込まれた。リーフグリーンは最初から展開を読んでいたのか、諦めたように苦笑して受け入れている。見事に独自ルールのねじ込みに成功した。胸を期待で弾ませながらカーディナルの負けをそわそわと待つ。
「にゃあああ、負けた!」
「悪いな、カーディナル。『リーフティフォーネ』!」
リーフグリーンの掛け声で行われたジャンケンはカーディナルの負けだった。恥ずかしそうに顔を赤らめるカーディナルのカボチャの周囲に、木の葉の渦が巻き起こり対象を覆い隠す。カーディナルのゲージが千百から九百になった。カーディナルはゲージに見向きもせず、視線を彷徨わせて「うう」と唸っている。伏し目がちな瞳を逸らし、頬に含羞の色を滲ませて、ポツリと呟いた。
「し、しおん、アイさん。あ、愛してる……ッ」
「カーディナルぅぅぅ! 俺も愛してるぞぉぉぉ!」
「ちょっとしおんくん、抜け駆け禁止やで!」
照れ気味に呟かれた愛の言葉に歓喜したしおんはカーディナルに飛びつく。すぐさま反対側からアイボリーがカーディナルを抱き締めた。カーディナルは羞恥心にジワジワと支配され、真っ赤な顔を両手で隠して悶えている。耳まで真っ赤になったカーディナルの顔を是非とも拝みたいところだ。
しばらく二人の腕の中で縮こまっていたカーディナルが、「俺、合格?」と羞恥で潤んだ瞳で見つめてきた。叫んでいないから駄目なんて言えるはずもなく、しおんは不安そうに首を傾げるカーディナルの頭を撫でて肯く。カーディナルがホッと安堵の息を吐いて肩の力を抜いた。
「カーディナル、部外者をくっつけたままで良いから、さっさとジャンケンするぞ。鍋パーティーの準備が遅くなる」
「あっ、うん。じゃんっけん、ぽんっ!」
軌道を修正したリーフグリーンに肯き、カーディナルがジャンケンの掛け声を告げる。結果はまたもやリーフグリーンの勝ちだった。カーディナルが「あにゃあ!? また負けた!」と、チョキを繰り出した自分の手を見つめる。再び『リーフティフォーネ』がカーディナルのカボチャに襲いかかった。カーディナルのゲージが九百から七百になる。リーフグリーンがジリジリと差を縮めていた。
「大好き! 超好き! めちゃくちゃ愛しい!」
自棄気味にしおんとアイボリーに愛を叫ぶカーディナル。語彙力が乏しい告白でも、カーディナルの口から吐き出されただけで、胸の中を歓喜で満たしていく。しおんは上機嫌な面持ちでカーディナルを抱き締め、グリグリと二の腕に額を擦り付けた。緩んだ顔が引き締められない。恥ずかしそうに頬を紅潮させて、一生懸命に愛を伝えている姿も、可愛らしくて顔が綻んだ。
「じゃんっけん、ぽんっ!」
「ふにゃあぁぁぁ。勝てないぃぃぃ」
「俺はそいつらに愛を叫びたくないからな。『チェリーブロッサムストリーム』!」
幸福感を溢れさせるしおんを引っ付けたカーディナルが、リーフグリーンの掛け声で行われたじゃんけんに負けて項垂れる。三連敗して落ち込むカーディナルのカボチャに、容赦なく吹き荒れる切れ味抜群の桜の花びら。枚挙にいとまがない量の桜吹雪だ。
サラッと失礼なことを言ったリーフグリーンの魔法で、カーディナルのゲージが七百から百になる。ムッと頬を膨らませたカーディナルが、自分を取り囲むアイボリーとしおんを見上げた。眉尻を垂らした切なげな表情と潤んだ瞳で、弱々しく二人のズボンを掴む。
「しおん、アイさん。もう、許して? これ以上、好きって言ったら、恥ずかしくて溶けちゃう……」
「かわいいから許す」
「許さんわけがない」
ほんの少し色づいた頬、羞恥によって水気を帯びた瞳、弱々しく垂れ下がった眉。そして、縋るような上目遣いと、懇願するように吐かれた言葉。全てが愛らしくて庇護欲に駆られる。しおんとアイボリーは一周回って真顔になりながら即答した。カーディナルがぱっと顔を輝かせて立ち上がり、しおんとアイボリーに「ありがとう!」と抱きつく。
負けても恥ずかしい思いをせずに済む。そのおかげか、元気を取り戻したカーディナル。ふにゃふにゃとした顔を引き締め、赤色の瞳に好戦的な光を宿している。独自ルールは消えたものの、崖っぷちな事には変わりない。お互いにゲージは百。次にジャンケンで負けた方が、ゲームにも負けてお菓子の雨を浴びることになる。
「いくよ、リーフさん」
「黄金のキャベツはそう簡単に渡さねぇぞ。じゃんっけん、ぽんっ!」
ギラギラと煌めかせた双眸をかち合わせるカーディナルとリーフグリーン。完全に野菜を売る気ゼロなリーフグリーンの掛け声でジャンケンが行われる。結果はカーディナルの勝ちだった。グーを繰り出して勝利したカーディナルが、「俺の勝ち! いけぇ、『フレイムキャット』!」と魔法を撃つ。
炎の塊となった子猫たちが大量に現れ、リーフグリーンのカボチャに突撃した。引っ掻いたり体当たりをして、ジワジワと百しかないゲージを減らしていく。遂にゲージがゼロになった瞬間、真っ二つに割れるカボチャ。そこから十指に余る量の飴が降った。




