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カボチャ時々お菓子  作者: 甘夏 みかん
黄金の野菜
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「ねぇ、リーフさん。黄金の極上野菜、俺も欲しい。やろうぜ?」


 キャベツの食品サンプルを両手で持ったカーディナルが、リーフグリーンの横に屈んで顔を覗き込む。すっかり仕事のことで頭をいっぱいにしていたリーフグリーンが動きを止めた。ジーッとカーディナルと視線をかち合わせる。カーディナルがこてんと首を傾けて「リーフさん?」と名前を呼ぶ。


「カーディナルぅぅぅ!」


「わあっ!?」


 瞬間、感極まった表情のリーフグリーンが、カーディナルを思いっきり抱き締めた。驚いたカーディナルが目を丸くして身体を強張らせる。が、リーフグリーンのにおいと体温に安心したのか、すぐに身体から力を抜いて肩に額をグリグリ擦り付けた。

 リーフグリーンの腕の中に居ることに嫉妬が芽生えるものの、傷心中の人から奪い取る気にもなれずモヤモヤするしおん。その隣でアイボリーが別の理由によって拗ねていた。購入した極上の野菜二つを見せびらかすように持つ。


「俺なんて二つも買ってんけど」


「リーフさんからの抱擁が欲しいなら行ってきたら?」


「いらん」


 しおんは提案してみるが、にべもなく断られた。リーフグリーンに喜んでもらいたいだけで、抱き締められたいわけではないらしい。きっと感謝を振りまくリーフグリーンの言葉を、得意満面に胸を張って浴びたいのだろう。このタイミングで突撃すると、高揚したリーフグリーンが絶対にアイボリーを抱き締める。故に、行きたくても行けず、モヤモヤしているのかもしれない。

 結果、不貞腐れた表情のアイボリーが取った行動は、カーディナルとリーフグリーンを引き剥がすことだった。グイッと強引にリーフグリーンからカーディナルを奪い取って抱き締め、胸の中に燻るもやっとした気持ちを浄化している。胸から歓喜を溢れさせているリーフグリーンは、特に気にした様子もなくカーディナルの頭を撫で始めた。ついでに、アイボリーの両手にある野菜に気付いて、アイボリーの頭も撫でる。


 元気を取り戻したリーフグリーンが、ひとしきり二人を撫でた後、カーディナルからキャベツを回収した。黄金に輝くキャベツの裏を確認し、エプロンのポケットからカボチャを出す。見慣れた銀色のカボチャだった。貼られたシールに書いてあった色は銀色らしい。

 それを察したか、カーディナルもアイボリーに抱き締められたまま、ポケットからカボチャを出す。二人同時に軸を押して、銀色のカボチャをお互いの頭上に浮かべた。しおんが此処に来てから一番見ていたはずの色なのに、何だか久々に視界に入れた気がする。


「よしっ。リーフさん、やろうか!」


「おう。じゃんっけん、ぽんっ!」


 カーディナルが赤い瞳を好戦的に輝かせた。リーフグリーンも緑色の双眸を煌めかせて掛け声を担当する。結果はカーディナルの勝ち。「『ファイアプリズン』」を唱えたカーディナルが、リーフグリーンのカボチャを猫の顔の形をした炎の檻に閉じ込める。リーフグリーンのゲージが千五百から千百に減った。

 リーフグリーンは負ければ野菜を売れるのに負ける気ゼロだ。ギラギラとした目で口の端を上げ、「もう一度だ! じゃんけん、ぽん!」と、昂ぶった声で掛け声を告げる。しかし、勝利の女神はリーフグリーンに微笑んでくれなかった。結果はまたもやカーディナルの勝ちだ。


「『フラムスタンプ』!」


 カーディナルが楽しそうに魔法を唱える。燃え盛る炎を全身に纏った巨大な猫が、リーフグリーンのカボチャにのしかかった。リーフグリーンのゲージが千百から五百になる。先程までの傷心がすっかり回復したらしく、口元に弧を描きっぱなしで興奮中のリーフグリーン。

 売れなくてショックを受けていた癖に、やはりわざと負けるつもりは一切ないようだ。次のジャンケンの掛け声も積極的に担当する。そのうえ、パーを繰り出して勝利をもぎ取った。リーフグリーンがカーディナルのカボチャに元気よく魔法を放つ。


「『ローズヒュプノス』」


「ああっ、ついに削られた!」


 声を上げたカーディナルのカボチャの真下に薔薇が咲いた。大輪の薔薇はゆっくりと旋回し、眠りを誘う花弁を大量に吹雪かせる。カーディナルのゲージが千五百から千百になった。ジーッと花弁を見ているだけで眠くなったのか、カーディナルがぼんやりと瞼を数回瞬く。

 熱い勝負を所望中のリーフグリーンが不満そうにカーディナルのそばに向かう。「起きろ、馬鹿」と額を軽く指で弾いた。カーディナルが額を手で摩りながら「起きてるもん」と不平を鳴らす。「本当かぁ?」とリーフグリーンが微笑ましそうに頭を撫でた。甘い雰囲気を醸し出す二人に、しおんはムッとする。大股で近付こうとしたが、先にアイボリーが極上野菜をリーフグリーンに投げつけた。


「どさくさに紛れてイチャイチャすんな」


「お前、黄金野菜を投げつけるなよ!?」


 貴重な光り輝く極上野菜を頭に受け、リーフグリーンが目ん玉が飛び出しそうなほど驚く。一応、厳重なほど包装されている。とはいえ、自分にとって大切な食べ物を、武器として投げつけられて魂消ていた。リーフグリーンの立ち場なら確かに驚くだろう。

 また投げつけられると困るからか、リーフグリーンが無事に目を覚ましたカーディナルから離れる。「リーフさん、いくね-。じゃんっけん、ぽんっ!」とカーディナルが掛け声を担当した。カーディナルの掛け声で行われたジャンケンはリーフグリーンの負け。パーで勝利したカーディナルが魔法を撃った。


「『ファイアプリズン』!」


 猫の顔の形をした炎がカボチャをまるごと呑み込む。愛らしい形をした檻に閉じ込められ、リーフグリーンのゲージが五百から百になった。普通のカボチャ故、敗者になにかあるわけではない。見学中の身としては酷くつまらない。しおんは独自ルールを考えた。



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