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ジトッとした半眼のアイボリーが、いつの間にかそばに来ていた。黄色の瞳に嫉妬の色が滲み出ている。容赦なくベリベリッとカーディナルとしおんの身体を引き剥がし、二人の間に身体を滑り込ませてきた。しおんの毒牙から守るみたいにカーディナルを抱き締め、「何も気にする必要なんてないで」と言い聞かせる。
「ナルちゃん、しおんくんの言葉は全部忘れても大丈夫や。所詮、カボチャに言わされてる偽りの言葉やねんから」
「くっ。薄々、予感はしてたが、やっぱり邪魔してきたか」
「当たり前やん。俺の目が黒いうちは、変なことはさせへんで」
しおんはアイボリーの妨害に歯を食い縛りながら悔しさを顕にした。目の前で大切なカーディナルを口説きすぎたようで、アイボリーがジロリと睨めつけてくる。もう一人の過保護代表であるリーフグリーンは、経営の見直しに忙しくてそれどころじゃないらしい。仕入を記録した紙を見ながら、真剣な顔で唸っている。
カーディナルは口説かれて照れているものの、しおんに対する恋心なんて欠片も持ち合わせていない。そんな現実を突きつけられたところなのに、アイボリーの邪魔まで入ってくるようになってしまった。それでも、口説き続ければ伝わるかもしれない。しおんはジャンケンの掛け声を口から出した。
「アイさん、いくぞ。じゃんっけん、ぽんっ!」
「……しおんくん。ナルちゃんを口説くために、わざと負けてるやろ。『エクレールタイフーン』」
連続の勝利を怪しんだアイボリーが湿っぽい視線をしおんに突き刺す。しおんはアイボリーの疑うような眼差しから逃げるべく視線を逸らした。しおんのカボチャ周囲だけが暴風雨に襲われ、すぐ近くで雷が何度も落ちる。しおんのゲージが九百から五百になった。
カボチャの双眸がキラリと輝き、しおんの身体の主導権を奪い取る。身構えるカーディナルをギュッと抱き締めて、パチパチと瞬く赤い瞳と目を合わせた。眉を垂らした切ない表情で、不安の色を濃く滲ませた瞳を揺らし、鳴きそうな声で懇願する。
「嘘でも言いから好きって言って?」
「好きだよ?」
「カーディナルぅぅぅ!」
恐らく家族としてとか友達としてだろう。それでも、カーディナルの口から好きだと告げられ、しおんは感極まって抱き締める力を強くした。不平な気色を両頬に漲らせたアイボリーが、しおんとカーディナルの肩を掴んで引き剥がす。
胸の中が不快感で熱くなっているであろう仏頂面だ。カボチャから解放されたしおんからカーディナルを回収し、「ナルちゃん、俺は?」と尋ねる。「アイさんも好きだよ?」と首を傾けただけで、アイボリーの機嫌がみるみるうちに直った。
ハートを乱舞させて上機嫌にカーディナルに擦り寄るアイボリー。しおんは引き剥がそうと距離を詰める。それよりも先に、アイボリーが手を前に突き出した。「じゃんっけん、ぽんっ!」と不意に言われ、しおんは反射でチョキを繰り出す。結果はしおんの勝利だった。
「あっ、勝っちゃった。『グラヴィティスペース』」
しおんは少し残念に思いながら、アイボリーのカボチャの周囲だけに絞って、重力を操作する。無事にアイボリーとカーディナルを巻き込まずに、アイボリーのゲージを千五百から九百にできた。アイボリーの頭上に浮かぶカボチャの瞳が輝く。アイボリーが抱き締めていたカーディナルの身体を離し、腰に手を当ててグイッと引き寄せた。向かい合う形で腰を抱かれたカーディナルがキョトンとする。
「口説き落とされる覚悟はええか?」
不思議そうに見上げるカーディナルの唇を親指で撫で、アイボリーが悪戯っぽく楽しそうに双眸を眇めた。醸し出される年上の色気に呑まれ、カーディナルが薄らと頬を紅潮させて目を丸くする。しおんは先程の仕返しと言わんばかりに二人の間に割って入った。もしも負けていたら、自分がカーディナルの細い腰を抱いて、唇を撫でていたのかと思うと悔しい。
「勝利の女神よ、今は俺に微笑まないでくれ! じゃんっけん、ぽんっ!」
悔しさを胸に勝利の女神にとんでもないお願いを叫ぶしおん。結果、神様は見捨ててくれず、チョキで勝利してしまった。「畜生!」と叫喚しながら魔法を撃つ。アイボリーのカボチャの周辺に『グラヴィティスペース』が炸裂。ゲージが九百から三百になる。
途端、カボチャの芽が怪しい光を帯びた。アイボリーがカーディナルの両手を握り締め、普段と変わらない表情を横に背ける。ほんの少しだけ頬に含羞の色が滲んでいた。「ナルちゃんとやったらどんなことでも楽しい」と、照れ臭そうに視線を逸らしたまま小さく呟く。
「俺もアイさんと一緒なら何だって楽しいよ」
「ナルちゃん」
すると、カーディナルがギュッとアイボリーの手を握り返し、はにかむような無邪気な笑みを浮かべた。ふにゃりと気の抜けた笑顔は照れ臭さを含んでいる。アイボリーが感極まった表情で胸から溢れる歓喜に従って飛びつこうとした。
それをカーディナルの身体の前に立って阻止したしおんは、アイボリーにジャンケンを仕掛けるため拳を向ける。さっきやられたことの仕返しだ。突然、間に入られて驚くアイボリーに、「じゃんっけん、ぽんっ!」と不意打ちで告げる。
「ああっ!? もう負けても口説けないから勝ちたかったのに!」
「勝利の女神に変なお願いをするからや。『サンダーフェニックス』」
「ぎゃあああああっ!」
結果はパーを繰り出したしおんの負けだった。しおんは頭を抱えて天を仰ぎ見る。そんなしおんのカボチャに、アイボリーが雷と炎を纏った不死鳥を放った。ゲージが五百からゼロになり、しおんの上に降り注ぐ大量の個包装されたミニドーナツ。あまりの量と勢いに押し倒されたしおんは、床にうつ伏せで倒れる。背中の上に築かれた山が何気に重い。




