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カボチャ時々お菓子  作者: 甘夏 みかん
黄金の野菜
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「また売れなかった……」


 青菜に塩を振ったみたいに意気消沈するリーフグリーン。折角、現れた救世主がカーディナルに負け、野菜を売れず酷く肩を落としている。幾ら鍋パーティーをすると開き直ったとはいえ、やっぱり仕入れ額を考えると売りたかったのだろう。どんよりとした空気を纏うリーフグリーンを見て、アイボリーが小さく溜息を吐いた。


「しおんくん、俺と極上野菜を掛けて、勝負してくれへん?」


「アイさん、もう一つ買ってくれるんだ?」


「あんなに落ち込んでるリーンさんを見たら、買ってあげたくなるやろ」


 憐憫の眼差しをリーフグリーンに向けたアイボリーが、目を丸くするしおんの質問に応える。哀愁漂う小さく見える背中は、確かに購入意欲を駆り立てた。しおんも購入する権利を賭けて、もう一度、勝負を挑むべきだろうか。

 屈み込んで背中を丸くしたリーフグリーンを見て、しおんはチラッと野菜のサンプルを見る。すると、カーディナルがいそいそと台座の上の食品サンプルを集めていた。せっせと集めた野菜達を両手で抱えて、アイボリーの前へと行く。


「ありがとう、アイさん! どれにする?」


「ちょうど切れてるし、ブロッコリーがええな」


「ブロッコリーなら、愛してるカボチャだな」


 カーディナルが嬉々として差し出したサンプルから、ブロッコリーを選択するアイボリー。茎の部分に捲かれたシールには、『濃い桃色』と書いてある。カーディナルがそれに該当するカボチャを取りに行った。愛してるカボチャと言っていたが、どういった効果なのだろうか。しおんは顎に手を当てて今までの傾向から考えてみる。


「負けた方は愛の言葉がポロッと口から出てしまうとかそんな感じ?」


「よく分かったね。正確には、台詞にあった行動とか表情もさせられるけど」


「うわぁ、恥ずかしすぎる」


 ボソッと呟いたしおんは戻ってきたカーディナルの言葉に顔を歪める。負けた方はカボチャに操られて勝者を口説いてしまうなんて堪ったものではない。絶対に避けたい。苦虫を嚙み潰したような顔で決意するしおんに、アイボリーがカーディナルから貰ったカボチャの軸を押して告げた。

 

「ただ、このカボチャは誰を口説いてもええんやで」


「……つまり、負けたとしても、勝者であるアイさんを口説く必要がない」


「そういうことや」


「二人とも他に口説きたい人が居んのか?」


 神妙な顔つきで肯いたアイボリーから朗報を得たしおんがハッとした顔でカーディナルを見る。誰を口説いても良いということは、カーディナルを口説いても何ら問題ないはずだ。しおんにもカボチャを渡したカーディナルが、キョトンとした表情で首を傾ける。分かっていないらしい。


「ナルちゃんに決まってるやん」


「カーディナル以外の人なんて口説きたくない」


「うえっ!?」


 不思議そうなカーディナルにしおんとアイボリーはほぼ同時に告げる。本当に分かっていなかったらしく、不意を突かれたカーディナルが驚いて目を丸くする。ほんの少しだけ頬を色づかせ、気まずそうに視線を彷徨わせ、口説かれることに照れているのがかわいい。

 しおんはアイボリーの方に視線を戻してカボチャの軸を押す。当然、アイボリーも口説く相手をカーディナルにするつもりのようだ。つまり今回の試合、負けた方が良い思いをする回数を稼げる。ついでにしおんが負ければアイボリーに野菜を売りつけられる。リーフグリーンの機嫌を戻せるはずだ。しおんは負ける為に気合いを入れ、キッとアイボリーを睨めつけながら、手を前に出す。


「いくぞ、アイさん。じゃんっけん、ぽんっ!」


「はい、俺の勝ち。『シザーライトニング』」


 目論見通り、しおんはジャンケンに負けた。アイボリーが容赦なく魔法を放つ。大きな鋏の刃の部分の形をした青白い電気がカボチャの左右に現れた。勢いよく交差してしおんのゲージを千五百から千三百にする。アイボリーは負けるつもりがないのだろうか。あまりショックを受けているように見えない。

 なんて考えていると、カボチャの双眸が光を帯びる。瞬間、しおんの身体や表情は主導権を完全に奪われた。フラフラとカーディナルの方に歩いて行ったかと思うと、カーディナルの手をそっと取って手の甲を自分の頬に押し当てる。愛情の色をふんだんに盛り込んだ瞳を和らげて、ふにゃっと顔を緩めた。


「カーディナル、愛してるよ」


「あ、ありがとう?」


 気の抜けた柔らかな微笑みが本音だと訴えている。その所為か、溶けそうなほど甘い声で口説かれたカーディナルが、カァーッと顔を赤らめながら視線を逸らした。自由を取り戻した身体でカーディナルの脈を測ってみる。ドキドキと物凄い勢いで鼓動を打っていた。どうすればいいのか分からず、視線を彷徨わせていたカーディナルが、バッと手を引っ込める。

 なるほど。真髄に口説けば、相手に伝わるのか。しおんは本当にカーディナルを口説き落とす為、愛してるカボチャの行動や表情を参考にする。普段はすぐに大好きや可愛いと言ったり、抱きついたり頬擦りしたりするから、慣れられてしまっているのだろう。


 頭の中で今後の口説き方を研究中、アイボリーが「しおんくん、よう恥ずかしくないな」と呆れた。どうやらアイボリーはしおんと違う類の愛情をカーディナルに注いでいる故、本気で口説くのを恥ずかしく感じるらしい。どうりで勝っても悔しがらないはずだ。これはチャンスだ。

 しおんはパッと顔を明るくさせて手を前に突き出す。アイボリーに負けるつもりがない。ならば、しおんがカーディナルを口説き落とすのを邪魔してこないはずだ。ひたすら勝利の女神に嫌われ続ければいい。ニヤリと口の端を吊り上げてジャンケンの掛け声を担当した。


「アイさん、覚悟! じゃんっけん、ぽんっ!」


「おっ、また勝った。『エクレールタイフーン』」


 口では勝とうとしている風に見せかけ、しおんは見事に二度目の敗北をゲット。ホッと胸を撫で下ろしたアイボリーが、しおんのカボチャに向けて魔法を撃つ。一定範囲内に建物内では有り得ない暴風雨と落雷が生まれた。しおんのゲージが千三百から九百になる。

 刹那、カボチャの双眸が光を帯びた。再びしおんの身体の主導権がカボチャに握られる。カーディナルの手を掴んで壁際に移動し、彼女の背中を壁に押しつける。顔横に手を突いて逃げられなくし、反対の手で顎をクイッと持ち上げ、顔を逸らせないようにした。


「いい加減に気づけよ」


 真剣な顔で力強い双眸を突き刺すしおん。カーディナルは「う、え?」と頬に一重梅を咲かせて戸惑っている。何に気付いてほしいのか分かっていないようだ。カボチャから解放されたものの、壁ドンしたまま真っ直ぐ見つめ続ける。カーディナルが「あ、う」と視線に耐え兼ねて、動揺と羞恥で揺れる瞳を伏せた。


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