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カボチャ時々お菓子  作者: 甘夏 みかん
黄金の野菜
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「何でわかばは皆みたいに俺の頭を撫でてくんないんだよ」


「キレ方が怖い」


「内容は可愛い」


 威圧的で背筋を凍り付かせるような感情の一切が欠如した表情だ。初めて見たわけではないのか、平静を保ったままのアイボリーとリーフグリーンがそれぞれ感想を溢す。しおんの身体には、恐怖とも興奮とも言える複雑な感情が、ゾクゾクッと駆け巡った。わかばは一歩後ずさりをして、額に脂汗を滲ませている。


「わかば、撫でてやれよ」


「今だけは邪魔せず許してあげる」


「じゃ、じゃあ……」


 慣れていてもあまり見ていたくないのだろう。早くいつもの無邪気な笑顔に戻せと、リーフグリーンとアイボリーが暗にわかばに伝えた。許可を得たわかばが恐る恐る冷ややかな瞳のカーディナルに近付く。そっと毛先を赤く染めた茶髪に手を置き、ゆっくりと左右に動かした。

 途端、カボチャの光から解放されたカーディナルが、気持ちよさそうに双眸を眇める。猫だったらゴロゴロと喉を鳴らしているぐらい満足そうだ。少し遅くて焦れったいのか、自分の頭をグリグリと擦り付けている。わかばがビクッと肩を跳ねさせて問う。


「こ、これでいいのか?」


「ん、きもちいい」


 カーディナルがふにゃふにゃと気が抜けた満足そうな微笑を湛えて肯いた。幸福感を溢れさせた甘く蕩けた瞳を無邪気に細める。眼球に染み渡る眩しい笑顔を浴びたわかばが、ボンッと茹だった蛸みたいに真っ赤な顔になった。しばらく帰ってこれそうにない。


「ということで、代わりに俺がじゃんけんだけするよ。じゃんっけん、ぽんっ!」


「このままじゃお持ち帰りできないよ?」


 わかばの代わりにジャンケンを行ったしおんは負けてしまった。カーディナルが目に毒なほど壮絶な色香を醸し出した笑みを浮かべる。揶揄の色をたっぷり含んだ茶目っ気全開の双眸を眇め、可愛らしさと色気を絶妙な均衡で纏っていた。

 石像と化したわかばは全く動かない。しおんも悪戯っぽく妖艶な微笑みを真正面から浴びて硬直する。その間に本日何度目かの『ファイアプリズン』がわかばのカボチャを閉じ込めた。わかばのゲージがジリジリと三百まで削り取られる。


「なんでそんなに色気も溢れてんだよ、ふざけんな!」


「それはそう」


「可愛いと思ったら色っぽいもんな」


「極上野菜じゃなくてナルちゃんをお持ち帰りしたくなる」


 途端、復活したわかばが淡い光に包まれながら、防犯ブザーのような轟音を口から響かせた。よく分からないことを怒鳴るわかばに、しおんとリーフグリーンとアイボリーが同意を示す。しおんは「絶対に許さん」とアイボリーの願望を拒否した。カーディナルだけは目をパチパチと瞬かせている。

 淡い紫色の光から解放されたわかばが、両手で顔を覆って天を仰ぎ見た。カーディナルが困ったように首を傾げながら、動かなくなったわかばを気遣う。今まで心の内に潜めていた本音を叫んだことを恥じているだけだろう。故に、カーディナルは気にしなくて良いと思う。


 しばらく硬直していたわかばだったが、アイボリーがカーディナルを餌付けし始めたところで復活した。もぐもぐと手を使わず食べていたカーディナルが、わかばに「もういいの?」と首を傾げる。あざとさに胸を撃ち抜かれて再び固まりかけたわかばだったが、何度か肯いた。アイボリーから貰ったお菓子を嚥下したカーディナルが、「じゃんっけん、ぽんっ!」と掛け声を吐露する。


「うげっ、勝った。『トライアングルレイ』」


「すっげぇ嫌そうな顔だな」


「美人に怒鳴られるって嫌われてるみたいでダメージが凄いんだぞ!?」


 ジャンケンはわかばの勝ちだった。勝利したのに顰めっ面を見せ、わかばが三角の形にした手から光線を撃つ。カーディナルのゲージが千百になった。苦虫を嚙み潰したような顔をした幼馴染は、揶揄うような口調のしおんに声を大にして訴える。さっきの冷たい氷のような表情が辛かったらしい。リーフグリーンが苦笑を頬に含ませて同意を示す。


「迫力も満点だしな」


「怒られて喜ぶ変態なんてしおんくんぐらいや」


「最高に興奮するけどなぁ」


 奇怪なものを見る目を向けてくるアイボリーの言葉に首を捻るしおん。勿論、誰に怒られても悦ぶわけじゃない。一目惚れした相手であるカーディナルだからこそ、興奮とも恐怖とも言い知れないゾクゾク勘が全身を駆け巡るのだ。基本的にカーディナルを愛する者同士、共通点ばかりだったが、この感情だけはアイボリーやリーフグリーンと合わないようだ。


「俺が嫌って言ってねぇのに抱き締めるの渋ってんじゃねぇぞ」


「カーディナルはわかばにも甘やかしてほしかったんだね」


「ほら、抱き締めてやれよ」


「今だけやで」


 しおんが腕を組んで怪訝な顔をする中、背筋だけでなく思考も凍る冷たい声で、可愛いことを言うカーディナル。ぞくりとするほど冷涼な瞳に、わかばが肩を跳ねさせて硬化する。微笑ましそうな顔をしたセルリアンとリーフグリーンとアイボリーが、美人の冷酷な睥睨に怯えるわかばの背中を押した。わかばはチラッと三人を見た後、恐る恐るカーディナルと距離を詰めて抱き締める。


「わ、悪かったな」


「……抱き締めてくれたから許す」


 わかばの腕の中に閉じ込められたカーディナルが、淡い光の消失と共に相好を崩した。犬も食わない喧嘩をした男女が仲直りをしているみたいな光景だ。二人の間に桃色の甘酸っぱい空気が見えた。わかばがカーディナルの恋人みたいでムカつく。

 しおんは二人の仲を引き裂くため、大股でズカズカと近付いて剥がした。「さっさとジャンケンしろ」とわかばを睨めつける。少しだけ名残惜しそうだったカーディナルが、気を取り直して「じゃんっけん、ぽんっ!」と声を出した。


「勝った! 『フレイムキャット』」


「猫の鳴き声みたいな可愛らしい悲鳴ばっか上げてんじゃねぇ! ときめくだろ!」


 ぱあっと顔を明るくしたカーディナルが魔法を放つと同時、淡い光を纏って思いの丈をぶつけるみたく叫ぶわかば。炎で出来た子猫たちを送ったカーディナルが、叫喚の速さに「うえっ!?」と目を丸くする。

 子猫たちにゲージを百にされたカボチャが、早く本音を聞き出したくてうずうずしていたのだろうか。わかばがまた両手で隠した顔を伏せて屈み込んだ。しおんはうんうんと首を縦に振って同意する。


「確かにアレはかわいい」


「俺達以外の前では出さないでほしい」


「意識しても出ちゃうんだよな」


 リーフグリーンの願望を聞いたカーディナルが難しそうな顔をした。意識しても出るなんて、前世は猫だったのだろうか。可愛いからそのままでいいと思っていたが、リーフグリーンの言う通り他の人に聞かせるのは嫌だ。しおんは家で特訓させるべきかと顎に手を当てて考える。


「いいやん。ナルちゃんが俺等以外とゲームせんかったらいいだけやし」


 猫の鳴き声が出る都度、お仕置きと称して欲望を叶える。なんて邪な考えを抱いたところで、アイボリーがしおんの思考を見抜いたように解決策を出した。「挑まれたらどうすんだよ?」と首を傾げるカーディナルに、「俺等を呼んでくれたら、相手をボッコボコにしたるわ」なんて満面の笑みを浮かべて拳を握り絞める。是非とも手伝わせてもらおう。

 しおんは少しだけ後ろ髪を引かれる思いでどっくんを諦める。そんな会話の間に復活したわかばが、生き生きとした目を好戦的に光らせた。開き直ったのだろうか。羞恥を無事に克服したわかばは、カーディナルにニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべて宣戦布告をする。


「カーディナルにも本音を叫ばせてやる! じゃんっけん、ぽんっ!」


「これでトドメだ! 『フレイムキャット』!」


「ああああああっ!」


 しかし、勝利の女神が微笑んだ相手はカーディナルだった。気合いを込めた掛け声を出したわかばのカボチャが、炎を纏った子猫たちによる二度目の襲来を受ける。百しか残っていないゲージをゼロにされ、真っ二つになったカボチャからお菓子が降ってきた。

 真下に居るわかばが個包装されたビスケットに埋もれる。ひとしきり降り終わったところで、うつ伏せで押し潰されたわかばの前に屈むカーディナル。薔薇のようにありったけの無邪気な笑みを湛え、悪戯気味に個包装されたビスケットを一つわかばの頭に乗せた。


「楽しかったよ、わかば」


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