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「もう見学してる人、居なくなっちゃったけど、この後はどうやって増やすの?」
「こんなこともあろうかと、ぬいぐるみを用意してるから問題ねぇよ」
しおんは周囲を見渡して疑問を吐露する。それを聞いてニヤリと得意げに口角を上げたリーフグリーンが指を鳴らす。刹那、リーフグリーンの合図で大量のハムスターのぬいぐるみがズラリと登場した。リーフグリーンマートのマスコットキャラクターみどりくんだ。手乗りサイズで腕をコアラみたいにどこかに抱きつく形にしている。そして、微妙に表情が違う。喜怒哀楽に加えて、眠っている子や悪戯を企んでいる子が居た。
「わー、みどりくんグッズだぁ! かーわいいなぁ!」
「だろぉ!?」
目をキラキラと輝かせて興奮するカーディナルと誇らしげなリーフグリーン。ぬいぐるみ大好き同盟でも組んでいるのか、みどりくんグッズを前に物凄く盛り上がっている。確かに愛らしい。しおんは試しに一つ手に取って腕に捲いてみた。手触りが良く撫でる手を止められなくなる。魅力に取り憑かれたしおんからぬいぐるみを回収し、リーフグリーンがセルリアンに告げた。
「次からは、勝ったらこれを腕にくっつけるってことで」
「了解。じゃあ、早速続きをしようか。じゃんっけん、ぽんっ!」
「お、っとぉ?」
「みどりくん、おいでー。『アクアラヴィーネ』!」
今度のジャンケンもセルリアンの勝利。リーフグリーンがパーを繰り出した自分の手を見て、顔を引き攣らせる。その間、腕にみどりくんのぬいぐるみをくっつけたセルリアンが魔法で攻撃した。バケツをひっくり返したような量の水が雪崩のようにカボチャを襲う。
アイボリーとぬいぐるみで二百増加した魔法が、リーフグリーンのゲージを千五百から八百に減らした。しかも、次のジャンケンもセルリアンの勝利。リーフグリーンが口元を引き攣らせて焦る。
「やべぇ、ジャンケンが弱いことで有名なセルリアンさんに三連敗してる」
「ほい、みどりくん」
「ありがとう、アイボリー。『ウォーターファントム』!」
アイボリーがセルリアンの腕に二つ目のぬいぐるみをくっつけた。みどりくん二つとアイボリーを合わせて、三百も威力を増やした魔法が、リーフグリーンのカボチャに襲いかかる。ゲージが八百から一気に百まで減った。次にジャンケンに負けたら、ゲームにも負けることになる。
「このまま、黄金の極上なすびはいただいていくよ。じゃんっけん、ぽんっ!」
「あっぶねぇ! みどり、助けてくれ」
勝ち続けて調子に乗ったセルリアンが宣戦布告をして負けた。ようやくジャンケンに勝ったリーフグリーンが、ホッと胸を撫で下ろしてぬいぐるみに縋る。カーディナルが群れの中から一つ持ってきた。リーフグリーンの腕に抱きつかせると思いきや、口元をぬいぐるみで隠して首を傾げる。そして、ふわりと大輪の花が咲き綻ぶような優しく安心感を与える微笑を浮かべた。
「助けに来たよ、リーフさん」
「カーディナル、かわいい」
「みどりくんじゃなくて?」
みどりくんが喋っている風にしたのに、しおんに抱き締められたカーディナルが目を瞬く。しおんが擦り寄っている間に、カーディナルからみどりくん人形を回収するリーフグリーン。自分の腕に抱きつかせて、セルリアンのカボチャの下に薔薇の花を咲かせる。旋回して花弁を撒き散らす『ローズヒュプノス』が、セルリアンのゲージを八百から百まで削り取った。
お互いに残りのゲージは百。次にジャンケンでゲームの勝敗も決まる。「次で最後だな、セルリアンさん」「なすびの為に勝たせてもらううよ」と、リーフグリーンとセルリアンが緊張感と高揚感に包まれて、瞳をギラギラと好戦的に輝かせている。迫力ある掛け声を同時に口から吐き出し、遂に最後のジャンケンが始まった。勝者はリーフグリーンだ。
「よっし、勝った。いくぜ、みどり達とカーディナル」
「俺は!?」
「『チェリーブロッサムストリーム』!」
昂ぶった双眸で仲間達を呼んだリーフグリーンが、外されたしおんを無視して魔法を撃つ。切れ味抜群の桜吹雪がセルリアンのカボチャに襲いかかり、ゲージを百からゼロまで削り取った。カボチャが真っ二つに割れる。底から大量の個包装されたビスケットが降った。
「おわああああああっ!?」
「あーあ、また勝ってもうた。リーンさんは野菜を売りたいんちゃうの?」
セルリアンが驚嘆を滲ませた悲鳴を上げてお菓子に埋もれる。咄嗟に手を離してビスケットの雨を回避したアイボリーが、屈み込んでセルリアンを見下ろしながらリーフグリーンに問う。カーディナルとハイタッチをして、勝った歓びを分かち合っていたリーフグリーンは、キョトンとした顔で目を瞬いた。そして、勝ってしまうと野菜を売れないことに気付いたらしく、頭を抱えて叫ぶ。
「ああっ、そうだったあああ!」
「もうリーフさんの家で黄金の極上野菜を使った鍋パーティーでもする?」
「そうすっかぁ。しおんとアイボリーとセルリアンさんも来るだろ? あと、まだスーパーに居たら、あんずとレイブンも呼ぶか」
「俺、急いで店内を見てくる!」
ガックリと項垂れたリーフグリーンから肯定を貰ったカーディナルが、ワクワクした様子でブースを出て行った。黄金の極上野菜だけを使った鍋とは何とも贅沢だ。そんなパーティーに当たり前のように誘ってもらえた。しおんの中からリーフグリーンへの苦手意識が消えているのと同様。リーフグリーンも初めの頃に比べてしおんに心を開いてくれているのだろう。そのことに気付いたしおんの中に、ジワジワと歓喜と羞恥が湧き上がった。




