③
負けて購入する権利を得られなかったしおん。もう一度、並び直すべきか悩みつつ列を見る。先頭に居たのは、襟足の長い金髪の上に大きめの三角帽子を乗せた男。グレーのパーカーと黒いジーンズの上に黒いローブを羽織っている。アイボリーだ。他の買い物を終えてから並んだのか、パンパンに膨らんだエコバッグを持っている。
「面白そうなことやってんなぁ、ナルちゃん」
「アイさん! アイさんも買いに来てくれたの?」
「今日の夕飯の鍋に入れようと思って並んどってん。玉葱を賭けて勝負や!」
「黄金の極上玉葱だったら、ビリビリカボチャだね」
知り合いの登場にぱあっと顔を輝かせたカーディナルが、意気込むアイボリーに青白いカボチャを渡した。エコバッグの中身は鍋の具材らしい。二人で透明感のある壁で囲まれたブースに入る。リーフグリーンの許可を得た為、知り合い特典でしおんも入れてもらった。アイボリーが受け取ったカボチャの軸を押し、エコバッグの中からビデオカメラを取り出す。
「ビデオカメラの用意はバッチリやで」
「なんで?」
「そんなん低周波を浴びて悶えるナルちゃんを撮るために決まってるやん」
「うぇぇ、悪趣味」
怪訝な顔をして尋ねたカーディナルが、堂々としたアイボリーの変態発言に顔を顰めた。アイボリーがビデオカメラを構える。悪趣味だろうが何だろうが、悲鳴を上げて低周波に悶えるカーディナルの絵は、音声付きで欲しいらしい。やる気に満ち溢れた瞳で、反対の手を身体の前に突き出す。
「いくで。じゃんっけんっ、ぽん!」
「うわっ、負けた」
「ビリビリされる覚悟はええな? 『シザーライトニング』!」
負けた手を見て顔を歪めたカーディナルのカボチャにアイボリーが魔法を撃つ。大きな鋏の刃の部分の形をした青白い電気が交差した。カボチャのゲージが千五百から千三百まで減る。それと同時に、カーディナルがビクッと大きく肩を跳ねさせ、身体中を駆け巡る低周波の痛みに悶えた。
「うにゃあああっ!」
「いい鳴き声やわ。録画のしがいがあるで」
「やっぱり悪趣味!」
両腕で自分の身体を守るように抱き締めたカーディナルが、恍惚とした表情のアイボリーを非難する。確かに悪趣味だ。しかし、不意打ちで低周波を流された時の驚いた顔や、痛みで口から溢れる猫の鳴き声のような悲鳴。全て可憐で録画したいアイボリーの気持ちも分かる。ということで、しおんもビデオカメラを取り出した。隣のリーフグリーンも既に構えている。
「もっと猫の鳴き声聞かせてもらうで。じゃんっけん、ぽん!」
「そう簡単には鳴いてあげないもんね! 『フラムスタンプ』!」
双眸を欲望で爛々と輝かせたアイボリーの掛け声でジャンケンが行われた。結果はチョキを繰り出したカーディナルの勝ち。目の下を人差し指で軽く伸ばして、べーっと舌を出しながら、カーディナルが魔法を放つ。
燃え盛る炎に包まれた巨大な猫が、アイボリーの頭上に浮かんだカボチャにのしかかった。アイボリーのゲージが千五百から一気に九百まで削られる。瞬間、身体中に微弱な電流が巡ったのだろう。アイボリーが驚いたように目を見開いて、悲鳴を出した。
「のあああっ!?」
「しっかりしてくれよ、アイボリー」
「アイさんの悲鳴なんて需要ないじゃん」
「外野が手厳しいんやけど!?」
ガクッと膝から崩れ落ちて片膝を突いたアイボリーに、リーフグリーンとしおんが不平を鳴らす。気遣うどころか非難してきた外野に、アイボリーが瞠目してツッコんだ。よろよろと腰を上げて、悔しそうに歯を食いしばる。黄色の瞳に闘志の炎を燃やし、手を前に突き出した。
「くそぉ、絶対にナルちゃんの悲鳴を集めたる! じゃんっけん、ぽん!」
「へへーん、神様は俺の味方みたいだね! 『フレイムキャット』」
「ぬあああっ! うう、痛いしつまらん」
またもやジャンケンはカーディナルの勝ち。炎で出来た大量の子猫達がアイボリーのカボチャに突撃する。引っ掻いたり体当たりをして、アイボリーのゲージを九百から七百まで減らした。それと共に、アイボリーが低周波を受けて崩れ落ちる。
ぺたりと床に座り込んで青菜に塩を振ったみたく元気をなくした。つまらなさそうに唇を尖らせるアイボリーと裏腹に、絶好調なカーディナルがやる気を漲らせた顔で追い打ちをかける。
「このまま連勝してやる! じゃんっけん、ぽんっ!」
「よっしゃあ、キタァ! 『シザーライトニング』!」
「あにゃあああっ!?」
そう簡単に勝利するのは、問屋が卸さないと言わんばかりに、ジャンケンに勝利するアイボリー。一気に機嫌を直して元気を取り戻し、勢いよく立ち上がってカボチャに魔法をぶつけた。カーディナルのゲージが千三百から千百になる。
まさか負けると思っていなかったのか、目を丸くして驚いたカーディナルが、変わった鳴き声と共に尻餅をついた。いつでもカーディナルの悲鳴を録画できるように、ビデオカメラを構え続けていたリーフグリーンが、解説を入れる。
「猫の鳴き声を聞かせたくなくて、咄嗟に悲鳴を変えてきたな」
「どっちみちかわいい」
「何でしおんとリーフさんまで録画してんのさ」
「あにゃあー」も普通に可愛かった為、大満足なしおんにリーフグリーンが力強く肯いた。ようやく二人にも録画されていることに気づいたカーディナルが、地面に座り込んで足を投げ出したまま半眼を突き刺す。しおんとリーフグリーンはキョトンとした顔を見合わせた後、視線をカーディナルに戻して当然のように答えた。
「「カーディナルがかわいいから」」
「ハモるな、ばーか!」
「可愛いって言われて照れてるナルちゃんもええわぁ」
「照れてねぇし!? あと、俺は可愛いじゃなくて、かっこいいだから!」
照れ隠しに暴言を吐くカーディナルにすらアイボリーはメロメロだ。図星を突かれて頬を紅潮させたカーディナルが、裏返った声でビデオカメラに人差し指を突き刺す。ビシッと指を突きつけてアイボリーのビデオカメラに向かって宣言しているが、カーディナルはどうあがいてもかっこいいというよりかわいいだと思う。綺麗で色っぽいの時もあるが。しおんと同じ感情になったのだろう。アイボリーがわざとらしく溜息を吐いてから、ニヤリと悪戯っぽく口角を上げた。




