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 一週間の特訓でカーディナルに五勝したことで、五回も抱き締めてもらえてホクホクなしおん。そんな幸せな余韻をぶち壊すように、宙に浮かぶ竹箒に乗ってアイボリーが現れた。大きな三角帽子を乗せた金髪を揺らして竹箒から降りたアイボリーは、今日もカーディナルとお揃いのダボッとした黒いローブを身に纏っている。

 今日はカーディナルとの同棲を賭けた二度目の決闘の日だ。場所は以前と同じく、カーディナルの家の近くにある公園。芝生を敷き詰めた広々とした場所で、遊具の代わりに至る所に木目調のテーブルと椅子が並んでいる。アイボリーが椅子の一つに座ってお菓子を食べるカーディナルを見つけ、真っ直ぐ飛びついていった。


「ナルちゃん、久しぶり!」


「おわっ、アイさん!? 久しぶりっていっても一週間しか経ってないじゃん」


「一週間も会われへんかったんやで!? たっぷりナルちゃんを補給させてもらうわ」


 何とかスナック菓子を死守したカーディナルを、腕の中に強く閉じ込めて擦り寄るアイボリー。しおんはアイボリーに嫉妬を覚えた。カーディナルの肩口に顔を埋めて額をグリグリするアイボリーを強引に引き剥がす。面食らった表情をしたアイボリーが、ムッと唇を尖らせるしおんに視線を向けた。一週間ぶりのカーディナルとの戯れを邪魔されて、しおんと同じように不愉快そうな顔をしている。


「そっちも一週間ぶりやな。まだ、ナルちゃんと同棲したいん?」


「当たり前だろ。今度こそ勝って同棲の権利を手に入れる」


「しゃーないなぁ。約束やったし、その勝負、受けたるわ」


 どうやら一週間の期間を与えたのは諦めると思っていたかららしい。残念ながらしおんに諦めるなんて選択肢はない。ということで、曇なき眼で真っ直ぐ見据えて宣戦布告すると、アイボリーが面倒臭そうに溜息を吐いてから好戦的に瞳を煌めかせた。一度目のゲームでも容赦なくボッコボコにされたが、今回も手加減してくれる気配はない。

 一週間の間に村にある店で購入したカボチャを取り出すしおん。アイボリーもローブのポケットからカボチャを取り出し、しおんと同時に軸の部分を押して地面に落とす。それぞれのカボチャがお互いの頭上にセットされたところで、アイボリーが真剣な顔で提案した。


「ナルちゃんへの愛の重さがどれぐらいか知りたいから、ジャンケンで勝った方は魔法を叫ぶ前にナルちゃんの好きなところを叫ぶっていうのはどうや」


「なんて?」


「いいだろう」


「よくないよ?」


 呑気に椅子に座り直してお菓子を食べていたカーディナルが成立した条件に異議を唱える。「何でアイさんの偶に出る意味不明な公開羞恥プレイに賛成するのさ!」と、顔に紅葉を散らしてしおんに抗議をするカーディナルが物凄く可愛い。魔法を唱えるたびに好きなところを叫ぶと、どんな表情をして照れるのだろうかとしおんの中で好奇心が芽生える。

 そんなしおんの胸中を読み取ったのか嫌な予感でもしたのか、「叫ぶなよ!? 叫ばなくて良いからな!?」とフリみたいなことを言ってくるカーディナル。しかし、「叫ばないと負けやで」というアイボリーの無慈悲な一言で、恥ずかしそうに頬を色づかせたまま拗ねた。しおんに野宿をさせたくない思いから仕方なさそうに悔しそうに身を退く姿が健気だ。


「条件を破棄されんで済んだのはええけど、しおんくんの為みたいでムカつくわぁ。今回も俺が勝ったら強制お泊まり会で身体に叩き込まなあかんな……」


「ひっ、今度は何するつもりなのさ!」


 顰めっ面で意味深長なことを言うアイボリーに、カーディナルが上擦った声で悲鳴を溢す。何をされたのか物凄く気になるしおん。が、嫉妬心を煽られてヤル気を漲らせたアイボリーにより、ジャンケンが始まって聞きそびれてしまった。

 アイボリーの掛け声でしおんが出した手はチョキ。大してアイボリーの手はパー。しおんの勝ちだ。しかも一番ダメージを与えられるチョキで勝った。良い出だしにニヤリと口の端を吊り上げたしおんは、アイボリーの条件に従って叫喚する。


「カーディナルの整った顔が一目惚れするぐらい性癖ドストライク! 『ダークネスシャワー』!」


「マジで叫ぶな!」


「確かにナルちゃんの顔ってホンマに整ってるよな。しおんくんも一目惚れしたんか」


 底が見えない落とし穴みたく真っ黒な夥しい数の針がカボチャに刺さる中、頬を紅潮させてツッコむカーディナルと、納得せざるを得ないことに顔を顰めて唸るアイボリー。「も」ということは、アイボリーもカーディナルの顔を見て好きになったタイプなのだろうか。その割には、しおんのように恋愛感情を醸し出していない気がする。どちらかと言えば、家族愛だ。


「アイさんも初対面で告白してきたよね」


「当たり前やん。むしろ、ナルちゃんの顔を見て、惚れへん人の方が異常やろ。まあ、今は性格とか知った後やから、守らないとあかん大切な存在みたいになってるけど」


「……ふーん」


 千五百から六百減って九百になっているカボチャなんて見向きもせず、感慨深そうに瞼を閉じて腕を組みながら顎に手を当てたアイボリーがカーディナルに肯く。恋人よりも更に上のポジションに昇格したことを吐露されたカーディナルは、真っ直ぐ告げられた告白に顔を背けて面映ゆそうにしていた。何となく悔しい。ジャンケンで勝ったのに負けたみたいだ。


「俺だってカーディナルと一緒に住めばアイさんのレベルにすぐ追い着く!」


「そうは問屋が卸さんで! じゃんっけん、ぽんっ!」


 嫉妬をパワーに変換したしおんに、得意満面なアイボリーが立ちはだかる。羨望の眼差しを向けるしおんに勝ち誇った表情をしたアイボリーの掛け声で二人同時に手を繰り出した。パーを出したしおんの勝ちだ。今回の神様はしおんの味方をしてくれるらしい。二回連続で負けたアイボリーが、「何でや、神様!」と天に向かって怒っていた。



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