⑫
「ほら、カーディナル。ジャンケンするぞ。じゃんっけん、ぽんっ!」
「はぁ、はぁ、やっと勝った……ふ、ふりゃ……『フラムスタンプ』」
何とか連敗を阻止したカーディナルが目尻の涙を指で拭い、しおんのカボチャに炎でできた巨大な猫を仕向ける。笑いすぎて気息奄々な状態になりながら唱えた為、一回、噛んでいたのが可愛かった。しおんはカーディナルの笑声を阻止することができて胸を撫で下ろす。それと同時に、我慢なんてとてもじゃないが出来ないほどの笑いが込み上げてきた。
「あははははははっ!? あっ、これはキツ……くふふふふ」
「しおんくんの爆笑も珍しいし面白いから撮っとこ」
「やめて、アイさぁはははははっ」
今度はしおんの番だ。堪えきれない笑い声を口から絶え間なく垂れ流す。腹筋を酷使し続けながら、カメラを構えるアイボリーから逃げ回った。早く解放されたい。カーディナルをもう少し休ませてあげたい。二つの感情の間で揺れ動きながら葛藤する。耐えろと自分に言い聞かせて走っていると、カーディナルがしおんの服を掴んで引き止めた。
「しおん、ジャンケンしよ? じゃんっけん、ぽんっ!」
「あっはははは、ま、マジか……うおっほほほほほ」
「しおんくん、ゴリラの鳴き声みたいになっとるで」
先程のリプレイみたいにチョキの手に負けたしおんは笑いすぎて転んだ。折角、カーディナルが代わってくれようとしたのに負け、アイボリーの言う通り変な笑い声を出してしまう。追い着いたアイボリーが愉快そうにカメラを向けてきた。
しおんがアイボリーに茶化されながら撮られている中。困った顔のカーディナルがもう一度『フラムスタンプ』を召喚してゲージを三百まで削る。お互いに残りのゲージは三百。グーで勝利しない限り、次が最後のジャンケンだ。
「しおん、ジャンケンするよ。ほらっ、じゃんっけん、ぽんっ!」
「ちょっ、無理ぃひひひひっ、わ、笑いすぎて死ぬ! ゲホッゴホッ」
気を遣ったカーディナルの掛け声で繰り広げられたジャンケンに負けるしおん。腹筋がとてつもなく痛い。ずっと笑っている所為で呼吸がおかしくなり咳き込み始める。グーで勝ったカーディナルが「うえっ!? 何でいきなり弱くなってんのさ!」と驚いていた。そんなのしおんが聞きたい。
「ちょっと待ってね、すぐ魔法を使うから。『フレイムキャット』!」
三百しか残っていないカボチャに枚挙にいとまがない量の子猫が飛びつく。炎で出来た子猫たちが対象を引っ掻いたり体当たりをして攻撃した。ゲージが百になる。子猫たちはにこにこカボチャの所為で苦しむしおんなんて知ったことではない。いつも通り、一生懸命にカボチャへの攻撃を続けていた。
「はーい、集合。あとで構ってあげるから、今は戻ってね。しおん、ジャンケンするよ!」
引率の教師みたいに『フレイムキャット』を集めたカーディナルが、最早、笑っているのか泣いているのか分からないしおんに駆け寄る。カーディナルの掛け声で繰り広げたジャンケンは、パーを出したしおんの勝ちだった。神様がやっとしおんの味方をしてくれたらしい。
ようやく引っ込んだ笑いにホッとしつつ、乱れた息を整える。カーディナルの頭上にあるカボチャを何とか魔法で攻撃した。真っ黒な砂がカボチャの周囲に渦巻き、パカッと真っ二つに割る。中から降ってきたのは、個包装された大量のミニドーナツ。
「みゃあああああっ!?」
しおんを救助できた安堵で忘れていたのか、カーディナルが驚嘆した声を上げてお菓子に埋もれる。リベンジには成功したが、二度とにこにこカボチャを使いたくないと思った。効果を聞いた時点で欲望ではなく己の身を優先するべきだったのだ。まだ荒々しい呼吸を整えていると、しおんのそばに来たアイボリーがわざとらしく残念そうな顔をする。
「あーあ、ナルちゃんが大爆笑する姿が見たかったのに残念やなぁ」
「めちゃくちゃ見せたでしょ! しばらく、にこにこカボチャは禁止だから!」
「そうやな。高価やから買えるようになったらまた使うわ」
「そういう意味じゃない!」
ビシッと人差し指を向けてツッコむカーディナルが頭を撫でるアイボリーに吠えた。しおんと違って写真を撮れたらしく、カーディナルはアイボリーのカメラを壊そうとしている。アイボリーが挑発するようにカメラを遠ざけながら、爆笑するカーディナルの写真を見せつけていた。しおんはよろよろと立ち上がり、痛む腹筋に手を当てながら、ぷんすこ怒るカーディナルの元に向かう。そして、アイボリーの肩に手を置いて、よろめく身体の支えにして告げた。
「爆笑しているカーディナルの写真ください」
「よろよろしながら来て何言ってんの!?」
しおんの申し出にカーディナルが目を大きく見開いて叫喚する。後悔の念に苛まれつつも、欲しいものは欲しいんだから仕方がない。にこにこカボチャは二度とごめんだが、他の人とカーディナルのゲームで使われるのを見たい。しおんはアイボリーから写真を見せてもらいつつ、その機会をゆっくりと待つことにした。




