⑦
「セルリアンさーん、卒業生代表として来たぞー」
真ん中分けの黒髪を揺らしてリーフグリーンが歩いてくる。緑色の瞳の前に掛かった眼鏡。カーキー色のパーカーと黒い細身のスラックスの上で揺れるエプロン。エプロンのポケットから覗くハムスターのぬいぐるみ。どう見てもグリーンマートで仕事中の格好だ。年上だと思ってはいたが、とっくに学校を卒業しているらしい。
「忙しい中、抜け出してくれて有難う」
「気にすんなよ。午前中はあんまり客は来ねぇし」
「みどりくんだ! 相変わらず、かわいい」
「おっ、カーディナル」
セルリアンがリーフグリーンに駆け寄る。カーディナルも自嘲気味に笑うリーフグリーンの側に行き、ポケットから顔を覗かせたぬいぐるみを撫でた。マスコットキャラクターの名前はみどりくんというらしい。リーフグリーンは満更でもなさそうに微笑みながら、ぬいぐるみを愛でるカーディナルの頭を撫でる。滲み出る嬉しさを隠せていない為、リーフグリーンが考えたキャラクターなのかもしれない。
「カーディナルの家に居る黒猫たちのぬいぐるみもかわいいよな。今度、遊びに行かせてくれ」「うん、いいよ!」なんて、カーディナルと可愛らしい会話を繰り広げるリーフグリーン。ぬいぐるみが好きという意外すぎる趣味に、しおんの頭は理解するのに時間を有した。カーディナルの髪の毛を堪能したリーフグリーンは、くるっとしおん達の方に視線を向けて不敵に口の端を吊り上げる。
「で、誰が俺の相手をしてくれるんだ?」
「はい! 俺が相手をするから、手錠を貸してくれ!」
「うえっ?」
「は?」
勢いよく挙手をして性癖を吐露したしおんに、カーディナルとリーフグリーンが怪訝そうな表情で首を傾げた。リーフグリーンは地を這うような低いドスの利いた声だった。変な趣味嗜好に付き合わせるつもりかと、鋭利な光を帯びた瞳にありありと書かれている。そんなつもりはないし、もしも付き合わせるんだとしたら、リーフグリーンじゃなくてカーディナルにお願いしたい。
「カーディナルちゃんの手首と自分の手首を繋ぐつもりやろ」
「絶対に貸さねぇ」
アイボリーの補足を聞いたリーフグリーンが即答で拒否する。しおんにジトッとした半眼を突き刺し、未だにみどりくんを愛でるカーディナルの手首を掴んだ。そして、金色に輝く手錠を取り出して、自分の手首とカーディナルの手首をこれ見よがしに繋ぐ。みどりくんを両手で抱っこしたカーディナルが「うえっ!?」と目を丸くした。またもやカーディナルを奪われたしおんは歯を食い縛る。
「ちくしょお、俺だって手錠さえあれば……」
「しおん、まだ分からないよ。もしかしたら今回のカボチャは、手錠をしてても特に意味がないかもしれないし」
「そうそう。最初の友達とやりたいことをやるとかだったら、手錠とか関係なくカーディナルとふれあえるぞ」
両膝と両手を地に突いて項垂れるしおんを駆け寄ってきたあんずとわかばが宥めた。と胸を衝かれたしおんがハッと顔を上げ、四つん這いのままセルリアンの方に視線を移動させる。期待を込めたキラキラした瞳を突き刺し、ドキドキと心臓の鼓動を早めながら尋ねた。
「セルリさん、次のカボチャは!?」
「負けるたびに服装が替わるお着替えカボチャだね」
「カーディナルとペアルックできたじゃねぇか!」
憐憫の色を宿した笑みを湛えたセルリアンの回答に頭を抱えるしおん。手錠さえ持っていれば、リーフグリーンより先にカーディナルと手首をつなげることが出来たのに。と後悔の念に駆られる。
絶対に魔法の手錠を手に入れてやろうと誓っていると、セルリアンに手錠をつけられた。繋がっている先はわかば。この勝負では、しおんがわかばを巻き込む形になった。
「わかばとペアルックとか嬉しくねぇ」
「俺だって嫌だっつーの」
しおんのテンションは更に下がる。わかばも嫌そうな顔を隠しもせず顰めっ面をした。二人して肩を落としたしおんに、セルリアンが橙色のカボチャを渡す。しおんは気を取り直してお着替えカボチャの軸を押した。リーフグリーンとのペアルックは気に食わない。しかし、カーディナルの色々な姿を見られるならば、ジャンケンをして損はないだろう。切り替えていこう。
キリッと真剣な表情を浮かべてリーフグリーンを睨めつける。いきなり闘志を燃え盛らせたしおんに、リーフグリーンとカーディナルが揃ってキョトンと目を瞬いた。わかばも不思議そうな顔をしている。だが、欲望を口に出すと碌な事にならないだろう。ということで、黙っておく。
「さっきは負けたから、次は勝ってやろうと思ってな」
「ハッ、俺に勝てるもんなら勝ってみやがれ」
「しおんは今のところリーフさんに全敗してるからリベンジマッチだね」
誤魔化したしおんを鼻で嗤ったリーフグリーンの横でカーディナルが痛いところを突いた。リーフグリーンが緑色の瞳をギラギラさせ、カボチャの軸を押す。しおんの頭上に大きく成長したカボチャが浮かんだ。いよいよ、三回目のリーフグリーン戦だ。気を引き締めていかなければ負ける。
しおんはこれまでリーフグリーンと爆弾発掘ゲームをして二回とも負けていた。苦手意識はだいぶなくなったが、まだ怖い相手であることに変わりない。カーディナルのお着替えを見られると思っていなければ、ヤル気を漲らせるどころか萎縮してしまいそうだ。
「それじゃあ、ジャンケンを始めようか。はい、じゃんっけん、ぽんっ!」
「よっし、勝ったあ! 『シャドーアレーナ』!」
「げっ、幸先悪いな」
セルリアンの掛け声で行われたジャンケンはしおんの勝ち。快哉を叫んだしおんは、顔を歪めたリーフグリーンのカボチャに魔法をかける。闇色の砂嵐がカボチャの周囲に巻き起こり、ゲージを千五百から千百に減らした。それと同時に、ポンッと軽快な音と共に、リーフグリーンとカーディナルの服装が替わる。
肌触りの良さそうなふんわりとした上下が繋がった着ぐるみだ。頭には猫耳を生やした黒色のフード。ジャンケンが難しそうな肉球付きの猫の手。尾骶骨から伸びた黒色のしなやかな尻尾。遊園地で活躍するマスコットキャラクターを彷彿とさせる姿である。




