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カボチャ時々お菓子  作者: 甘夏 みかん
入学試験
37/64

「代表生徒三人目の登場やでー」


「何で皆、俺に抱きつくの?」


 レイブンに負けたわかばが個包装されたミニフィナンシェから抜け出す中、校舎から現れた三人目の刺客アイボリー。流れるようにカーディナルを抱き締めて、右手でニット帽越しに頭を撫でる。

 カーディナルは疑問を抱きながらも、気持ち良さそうに目を細めていた。慣れているというよりは、抱擁と頭を撫でてもらうのが好きなのだろう。今までの反応を見て、しおんはそう確信した。慣れてるだけなら顔を綻ばせない。


 少し長めの金髪に大きな三角帽子を被り、アイボリーはカーディナルとお揃いの黒いローブを羽織っている。ここの生徒である証だ。代表生徒というのも嘘じゃないのだろう。セルリアンがカーディナルとくっつくアイボリーに青白いカボチャを渡している。流れ的に次の勝負はアイボリー対あんずだ。あんずもカボチャを受け取った。


「これはビリビリカボチャ。ジャンケンに負けて魔法を撃たれると、身体に低周波が流れるカボチャだよ」


「俺、痛いの苦手なのにぃ!」


「俺も低周波は嫌やなぁ。ということで、えいっ」


「うえっ、アイさん!?」


 セルリアンの説明であんずがカボチャをしおんに渡して遠ざける。アイボリーも苦々しく顔を歪めると、金の手錠を取り出してカーディナルにつけた。そして反対側の輪に自分の手首を繋げる。突然、黄金色の手錠をはめられて驚くカーディナルに、アイボリーが得意気に悪戯っぽく口角を上げた。


「ふっふーん。俺を応援しないと一緒にビリビリを浴びることになるで、ナルちゃん」


「やだよ、痛いもん。アイさん、がんばって!」


「頑張れのハグは?」


「がんばれー!」


 低周波が苦手らしい。アイボリーの指示通り、激励を浴びせたりギューっと自ら抱きつくカーディナル。本当に嫌なのだろう。スリスリと匂いを擦り付けるみたく、額を肩に乗せてグリグリ押し付けまでしていた。アイボリーは大変ご満悦な様子である。


「アイさん、ずるい! 俺もカーディナルと手錠で繋がりたいし、応援されたいし、ハグされたい!」


 あんずがカーディナルという緩和剤を手に入れたアイボリーを羨む。確かに、自分から抱きつくことはしょっちゅうあるが、カーディナルからの抱擁は珍しい。しおんもあんずの不満に同意を示すべくうんうんと首を縦に振る。アイボリーは見せびらかすように、カーディナルの細い腰に腕を回した。カーディナルは低周波を避けたい一心で、アイボリーに甘えまくっていて気にしていない。


「じゃあ、あんずはしおんを巻き込んじゃおっか」


「ああっ!」


 ニッコリと笑みを浮かべたセルリアンが、あんずとしおんの手首を金の手錠で繋ぐ。完全に逃げ遅れてしまったしおんは、カーディナルと同じ状況になった。即ち、あんずがジャンケンに負けた場合、しおんも一緒に低周波を浴びるということだ。「お前、絶対に勝てよ!?」と幼馴染の肩を掴んでガクガク揺らす。


「さて、それじゃあ始めようか」


 怯えて泣きつくしおんを見て、セルリアンが満足そうに話を進めた。愛想の良い笑みを浮かべているのに、人が怖がっている姿を楽しんでいる。セルリアンの意外な一面を見せられたしおんは、手錠をつけた張本人であるセルリアンを睨む。もう諦めたのか、しおんと繋がって少し安心したのか。あんずは青白いカボチャの軸を押した。アイボリーもカーディナルをくっつけたまま押す。

 アイボリーとあんずの頭上に青白く光るカボチャが浮かぶ。「よっしゃあ。いくで、ナルちゃん」「勝ってよ、アイさん」なんて、カーディナルと戯れあうアイボリーに嫉妬を覚える。しおんは「カーディナルには悪いが、絶対に低周波を浴びせてやろう」と、あんずに「絶対勝てよ」と目で訴えた。あんずもムッと頰を膨らませながら肯く。しおん同様にアイボリーに嫉妬しているようだった。


「じゃんっけんっ、ぽんっ!」


「あっ、ごめん。負けちゃ——うわあっ!?」


「あんず、テメ……ぎゃあっ!?」


 アイボリーの掛け声で行われたジャンケンはあんずの負け。あんずとしおんの言葉を遮る形で、二人の身体に低周波が流れる。ビリビリっと一瞬だけ身体に流れた低周波で、あんずとしおんは大きく飛び上がって地面に崩れ落ちた。思っていたよりも吃驚するし痛い。もう低周波は流れていないのに、まだ痛みを感じる気がする。


「勝ったで、ナルちゃん。褒めて」


「アイさん、すごーい!」


「やろー?」


 芝生に転がって痛みに悶えるしおんの視界で、アイボリーとカーディナルがイチャイチャしていた。アイボリーはカーディナルに頭を撫でてもらえて酷く満悦そうだ。嬉しそうに顔を綻ばせて双眸を眇めている。二人とも顔立ちが整っていて童顔気味故、嫉妬さえなければ微笑ましい光景だった。

 カーディナルにたくさん褒めてもらったアイボリーは、緩んだ顔を引き締めてカボチャを見る。さっきまでと別人みたいに感情を失った表情だ。「『シザーライトニング』」と冷たい声で魔法を唱えた。大きな鋏の刃の部分の形をした青白い電気が交差する。あんずのかぼちゃのゲージが、千五百から千三百に減らされた。


「くそぉ。カーディナルと戦うのも良いけど、ああやって巻き込むのも悪くないな」


「どこに悔しがってんのさ」


「俺と同じくナルちゃんが大好きなしおんくんには魔法の手錠がお薦めやで」


「どこで売ってますか」


「食いつくな、ばかっ!」


 カーディナルの激励を浴びるアイボリーに羨望の眼差しを向けるしおん。カーディナルと肩を組んで自分の方に引き寄せたアイボリーの助言に身を乗り出す。しかし、カーディナルがアイボリーの口を両手で塞いで、情報を露呈できないようにした。しおんにまで巻き込まれたくないのだろう。わかばよりもカーディナルにズブズブはまっているあんずが、「俺も知りたいな?」とカーディナルに首を傾ける。


「やってさ、ナルちゃん」


「うぇぇ……じゃあ、ゲームでアイさんに勝ったら教えてあげる」


「というわけやから、頑張りやー。じゃんっけん、ぽんっ!」


 アイボリーが背中を押したことで、カーディナルから言質を取った。ヤル気を漲らせたあんずは、アイボリーの掛け声でジャンケンを行う。結果はパーを繰り出したあんずの勝利だった。「ああっ、何負けてんのさ。アイさ……ふみゃあっ!?」「ごめん、ナルちゃ――のあああっ!」と、カーディナルとアイボリーが低周波を浴びたであろう悲鳴を溢す。相変わらずカーディナルの悲鳴が猫で可愛い。

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