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カボチャ時々お菓子  作者: 甘夏 みかん
入学試験
33/64

 大きな黒色の門と柵に覆われた広大な敷地に五つの建物と体育館が建っている。中央には緑の絨毯を隙間なく敷き詰めた芝生。道路を挟んだ門の向こう側には、第二体育館とテニスコートまである。その横に聳え立つ大きな宿舎が学生寮だろう。

 そんな大きな学校の自慢であるらしい芝生のグラウンドで、しおんはわかばとあんずと一緒にセルリアンと対面していた。カーディナルの推薦で学校に通う為である。パリッとした濃紺のスーツに黒色のローブを纏ったセルリアンが、緊張した面持ちの三人に困ったような顔をした。


「そんなに緊張しなくてもいいんだけどなあ。やっぱり、カーディナルが居た方が試験に集中できそうだな」


 セルリアンが携帯電話を取りだして誰かに電話をかける。そう、しおんが緊張しているのは、今から試験を受けるからではない。勿論、それによる緊張も少しあるが、今までほとんどずっと一緒に居たカーディナルと離され、何だか落ち着かずそわそわしてしまうのだ。わかばとあんずはどうして緊張しているのか分からないが、カーディナルを呼んでくれるなら有難い。

 先程、説明を受けた試験の内容は爆弾発掘ゲーム。在校生代表三人と卒業生代表、そして教師代表と勝負をするそうだ。代表に負けた場合、試験失格。というわけではないらしく、爆弾発掘ゲームや魔法をどれほど扱えるか見る為の試験だと言っていた。それ故、一度負けた相手に一度だけリベンジできる権利まで与えられている。


 すると、毛先を緩く巻いた茶髪に黒色の猫耳ニット帽を乗せたカーディナルが校舎から出てきた。今日も視線を釘付けにするほど細く魅惑的な身体をジャージで包み、上からダボッとした黒いローブを羽織っている。カーディナルは三人の前に駆け足で来ると、揶揄を孕んだ赤色の瞳を細めて相好を崩し、しおんの顔をグイッと覗き込んだ。


「俺が居なくて寂しかったんだ?」


「寂しかったよ、カーディナルぅ!」


「おわっ」


 しおんは茶化してきたカーディナルをギューッと腕の中に閉じ込める。照れるとでも思っていたのか、カーディナルが目をパチパチとさせてしおんを見ていた。数分ぶりのカーディナルは家から一緒に出た時と変わらず、柔らかくて優しい良い匂いを漂わせている。キュッと引き締まった腰の細さと匂いを堪能し、カーディナルを両腕で抱き締めたままセルリアンの方に向き直った。


「早速、代表生徒との勝負、お願いします!」


「うん。じゃあ、代表生徒を離してあげようか」


「えっ、カーディナルが一人目の代表生徒!?」


「ふふん、すごいでしょ!」


 セルリアンの言葉に驚いて目を点にするしおんに、カーディナルが胸を張って得意満面に顔を綻ばせる。褒めてあげたくなる無邪気な笑みだ。しおんは思わず頭を撫でてしまう。カーディナルは褒めてもらえたからか、大人しくそれを享受していた。ひと通りカーディナルを褒め終えたところで、セルリアンがカボチャを取り出す。


「普通のカボチャじゃつまらないから、このカボチャを使おうかな」


「あっ、仲良しカボチャだ」


「仲良しカボチャ?」


 出てきたのは普段使っている銀色のカボチャと違って黄色だった。カーディナルが告げたカボチャの名前に首を傾げるしおん。いつものカボチャとどう違うのだろうか。なんて目をパチパチと瞬かせている間に、セルリアンがビー玉サイズのカボチャを二つカーディナルに渡す。カーディナルに差し出された黄色のカボチャを受け取った。

 刹那、カーディナルがしおんのカボチャを持っている方の手首を掴んで、自分の唇に引き寄せる。チュッと触れるだけのキスをしながら、自身が持つカボチャをしおんの唇に押し当てた。カボチャを通じて唇を奪ってしまったし奪われてしまった。しおんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔を紅潮させて固まる。

 仲良しカボチャは使うたびに相手とあんなことをしなければならないのだろうか。慣れているのか気にしていないカーディナルが、自分の分としおんの分のカボチャの軸を押した。普段通り超小型車ほどまで成長し、二人の頭上に浮かぶ。


 すると、セルリアンがしおんのそばに駆け寄ってきて、耳元に口を寄せて苦笑気味に真実を告げた。


「仲良しカボチャを相手に触れさせるだけでいいから、唇を奪い合うのはアイボリーに騙されてるカーディナルだけだよ」


 アイボリーは一体、純真無垢なカーディナルに何をしているのだろうか。だが、誰も訂正しない辺り、唇の奪い合いを楽しんでいるのかもしれない。しおんは急すぎて思考を凍り付かせてしまい、正直、あの時のカーディナルな表情や唇の感触を何も覚えていないが。


「セルリさーん。しおん、復活した?」


「ほら、カーディナルが待ちくたびれてるよ。早く復活してあげて」


「うぐっ」


 上に挙げた手を大きく振るカーディナルの為に、セルリアンがしおんの頭に割と強めの手刀を落とす。思考の波に溺れていたところを強制的に戻された。と胸を衝かれたしおんは、カーディナルに問題なしと親指を立てる。爆弾発掘ゲームを好むカーディナルが、ワクワクとした表情で「じゃあ、やろっ!」と無邪気に微笑んだ。


「あっ、負けた!」


「よしっ、『ダークネスシャワー』!」


 カーディナルの掛け声で行われたジャンケンはしおんの勝ちだった。真っ暗な棘の雨によりカーディナルの頭上に浮かぶカボチャのゲージが千五百から千三百になる。刹那、身体の主導権を誰かに奪われた。勝手に動く身体に困惑するしおんを無視して、フラフラとカーディナルの方へと距離を詰めていく。

 そして、カーディナルの抱きしめたくなる細い身体をギュッと腕の中に閉じ込めた。突然、抱きしめられたカーディナルが身体を強張らせる。が、断じてしおんの意思ではない。慌てて離れようとするも、糊でくっつけられたみたいに離れられない。どういうことだとセルリアンに縋るような視線を向ける。


「仲良しカボチャは攻撃を受けるたびに、触れた人間の欲望に従って身体を操るんだよ。もちろん、交流を深める欲望限定だけどね」


 つまり、魔法で攻撃されたカーディナルのカボチャは、唇を通じてしおんの思考を読み取った結果、抱擁したいという欲望を叶えたということだ。なんて素晴らしいカボチャだろう。

 そう思うと同時、変な欲望を叶えられないか不安になる。相手と仲良くなる為の欲望のみなら、嫌われたりドン引きされる欲は弾かれると信じたい。自分の深層心理なんて自分でも制御不可能なのだ。神に頼むしかない。


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