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「こらっ、カーディナル。何やってんだ。ぺっしなさい!」


「あわわ。カーディナルちゃんが、カーディナルちゃんが僕の指を吸ってる……」


「お前も感動してねぇで引き離せ!」


「あいたっ」


 慌てて駆け寄ったリーフグリーンがカーディナルの口からレイブンの指を引き離そうとする。レイブンは感極まった表情で興奮気味に息を乱していた。そのせいで、嫉妬を醸し出したリーフグリーンに頭をペシっと叩かれている。割と容赦のない強さで叩かれたレイブンが涙目でリーフグリーンを睨む。

 しおんも駆けつけたいところだが、魔力をすっからかんにされて動けない。レイブンの指を甘噛みするカーディナルを、注視することしかできなかった。哺乳瓶のミルクを一生懸命吸う赤ん坊みたいで可愛い。


「ううー、おれのとうもろこし……」


「ほら、とうもろこしはこっちだ」


 無理やりレイブンの指を引き剥がされたカーディナルが不満気に眉を顰める。まだ覚醒してはいない。リーフグリーンにとうもろこしだと渡されたクッションを、ギュッと両腕で握り締めて満足気に破顔した。レイブンの太腿でクッションを抱き締めながら丸くなる。とても可愛らしいな姿にしおんは癒された。


「カーディナルは俺が預かっといてやるから、店内の清掃は任せたぞ。ほら、魔力回復薬」


 カーディナルを横抱きしたリーフグリーンの指示で、レイブンとしおんは露骨に溜息を吐く。太腿の上から消えた温もりに後ろ髪を引かれているレイブンが、もう一度、勝負を申し込んでいた。貰った魔力回復薬を飲んだしおんも、カーディナルを横抱きしたリーフグリーンに詰め寄る。

 スタッフルームにカーディナルを運ぼうとしていたリーフグリーンが、面倒臭そうにレイブンとしおんを交互に見つめた。力んだ顔つきで一歩も引く気配を見せない二人に、小さく嘆息してカーディナルを小脇に抱える。細い身体に似合う軽い体重故か、カーディナルは片腕で軽々と担がれていた。リーフグリーンがカボチャを取り出す。


「仕方ねぇな。チーム戦で俺に勝ったら、清掃はなしにしてやるよ」


「チーム戦?」


「ああ。カーディナル、起きろ」


 初めて聞く対戦方式に首を傾げるしおんに肯き、リーフグリーンがカーディナルを床に下ろして優しく起こす。『ローズヒュプノス』の効果が切れたのか、リーフグリーンの声で目を覚ます魔法なのか、すぐに開くカーディナルの瞼。目を覚ましたカーディナルがパチパチと数回瞬きをして辺りを見渡す。持っているクッションをジッと見た後、不思議そうに首を傾げた。


「ん、ぇ? あれ、とうもろこしは?」


「とうもろこしはもういいからチーム戦に付き合え」


「はーい」


 クッションを訝しげに叩くカーディナルの頭を、リーフグリーンがわしゃわしゃと撫でて参加を求める。ふぁあと大きく欠伸をした後、カーディナルがのそのそ立ち上がって了承した。チーム戦とはどういうものなのだろうか。一人だけ分かっていないしおんは狼狽える。リーフグリーンが銅色のカボチャを二つ、レイブンとしおんに投げ渡しながら言った。


「チーム戦はいつもやってることを四人でやるだけだ。相手の頭上にある二つのカボチャを、味方と協力して壊せば勝ち」


「今回のチーム分けは、俺とリーフさん対しおんとレイブン?」


「ああ、一人ずつ相手してる時間はねぇからな。さっさと終わらせて掃除をしてもらうぞ」


 寝ていたのに話の飲み込みが早いカーディナルに肯き、リーフグリーンがギラリと双眸を煌めかせて不敵に微笑む。苦手意識を増長させる邪悪な笑みに、しおんは軽く身を引いて顔を引き攣らせた。「ひっ」と上擦った声まで出してしまう。精神的には既に負けていた。するとレイブンがそんなしおんの手を掴んだ。


「絶対に勝とうね、しおんくん!」


「レ、レイブン……」


 レイブンのおかげで少し落ち着きを取り戻し、しおんはさっき投げ渡されたカボチャの軸を押す。リーフグリーンも軸を押した為、お互いの頭上に銅色のカボチャが浮かんだ。超小型車ほどの大きさがある為、隣に居るカーディナルの上まで広がっている。真っ二つに割れた場合、二人ともお菓子の山に呑み込まれるだろう。

 ジャンケンは四人同時に手を繰り出すルールらしい。そして、相手の手に勝っていれば攻撃でき、負けていれば攻撃され、同じだったらどちらも何もできない。一回目のじゃんけんは、パーとチョキを出したしおんとレイブンに対し、同じくパーとチョキを身体しているカーディナルとリーフグリーン。この場合、パーを出したしおんとカーディナルは、チョキを出したレイブンとリーフグリーンに攻撃される。


「『アイスピューピル』!」


「『チェリーブロッサムストリーム』」


 レイブンが眼鏡を押し上げてカーディナルの頭上にあるカボチャを見つめる。途端にカボチャが一瞬だけ凍りついた。自分で解凍したカボチャのゲージが一気に四百になる。

 その代わり、リーフグリーンの魔法がしおんのカボチャに直撃し、鋭利な桜吹雪によってゲージを四百まで減らされた。カーディナルとしおんはお互いに四百しか残っていない。しかし、味方は千のまま故、まだ勝負の行方はわからない。


「二回目のじゃんけん、いくよー! じゃんっけんっ、ぽん!」


 カーディナルの掛け声で行われた二回目のジャンケンで、しおんはパーを選択した。味方であるレイブンも同じくパーだ。対するリーフグリーンとカーディナルはそれぞれチョキとパー。結果、一人勝ちしたリーフグリーンはしおんとレイブンのカボチャ、どちらも削る権利を得たことになる。

 しおんとレイブンの頭上にあるそれぞれのカボチャを、『チェリーブロッサムストリーム』で削るリーフグリーン。容赦のない攻撃でしおんのカボチャはアッサリと真っ二つに割られた。中から落ちてきた一口サイズの飴玉が、真下に居るしおんを床に押し倒す。残りの勝負はもう四百しかないレイブンに任せるしかない。


「よし、一人撃破だな」


「リーフさーん、すごーい!」


 無傷でしおんを倒したリーフグリーンにカーディナルがキラキラとした尊敬の眼差しを向ける。羨ましい。純真無垢な瞳を輝かせて、無邪気な笑みを浮かべたカーディナルが、「よーし、俺だって攻撃してやる!」と気合いを入れる。四百しか残っていないレイブンは、「お手柔らかにお願いします」と、苦々しい笑顔に冷や汗を垂らしていた。しおんは応援の意味を込めてレイブンに飴玉を一つ渡す。受け取ったレイブンが飴玉を口に入れて、キリッと顔を引き締めた。


「そう簡単には負けない。いくよ、リーフさんとカーディナルちゃん。じゃんっけん、ぽんっ!」


「いえーい、俺の勝ち! 『ファイアプリズン』」


「普通は僕が勝つ展開じゃないの!?」


 燃え盛る闘志を瞳に宿したレイブンの掛け声で行われたジャンケンはカーディナルの一人勝ち。レイブンの理想も虚しく赤い瞳を煌めかせたカーディナルがカボチャを炎の檻に閉じ込める。猫の顔の形をした炎がカボチャのゲージをジワジワと奪い、四百をすっからかんにした。レイブンの頭上にあるカボチャも真っ二つに割れ、個包装されたビスケットが大量に降ってくる。


「うわあああああっ!」


 しおんの背中の上に築かれた飴玉の山に横に、レイブンを踏み台にして築かれるビスケットの山。飴玉とビスケットがぐちゃぐちゃに混ざり合い、しおんの身体にのしかかる重量も増加する。「はい、清掃決定」というリーフグリーンの勝利宣言に噛みつく余裕もない重さだ。

 魔力も吸い取られて力が入らない中、しおんは何とか這い出そうと藻掻く。カーディナルが両手を掴んで引っ張ってくれた。しかし、飴玉を踏んで転んだカーディナルも、お菓子の山に突撃してしまい、魔力を根刮ぎ奪われてしおんの上に倒れる。と、同時にしおんが疑問を抱く。


「そういえば、何で触れたら魔力が奪われるのに、食べても平気なんだろう」


「お菓子の包装に魔力を吸い取る素材が使われてるからだろ」


「食べたくて包装紙を開けた時、魔力が少し吸われるしょ?」


「なるほど」


 しおんはカーディナルを肩に担いだリーフグリーンに引っ張り出してもらいつつ肯いた。身体中の魔力を根刮ぎ奪われるのは、山のような量に触れているからで、お菓子一つの包装だけじゃ雀の涙ほどしか吸われないらしい。故に、カボチャの下から降ったお菓子を食べる際、手に取って包装を開けても微々たる量しか吸われず、吸われていることにすら気付かなかった。得心したところでリーフグリーンが助け出したしおんとレイブンの襟首を掴んだ。


「ということで、店内の清掃は任せたぞ。お二人さん」



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